デモカードはまるでソフトバンクの製品のようだが、ソフトバンクが担うのは通信部分(と国内での企画や営業部分)。基本的にカード側のテクノロジーはDynamics社のものだ。
CES2019では、スマートクレジットカードを手がけるDynamics社が、ソフトバンクC&Sとのパートナーシップで展開するクレジットカードを展示している。
Dynamicsの「IoTクレジットカード」は、普通のクレジットカードとまったく変わらないサイズの中にバッテリーと低消費電力の通信機能などを内蔵、サーバーと通信することで、さまざまな機能を持たせたり、切り替えたりできるものだ。
DynamicsとソフトバンクC&Sは、2018年10月に包括的協業について発表済み。その具体的なプロダクトを展示した形だ。ソフトバンクは、IoTクレジットカードの通信まわりを担当。Dynamicsは国内外のカード事業者にIoTクレジットカードを提供する。
展示したのは2種類のIoTクレジットカードだ。
1つめは、通信機能を内蔵し、ボタン操作でクレジットカードのディスプレイ部の表示を変えたり、機能を切り替えたりできる「通信機能付きクレジットカード」(冒頭の写真)。
2つめは5桁のボタン操作でパスコードロックを解除しなければ決済できない「パスコードロック付きカード」。通常のクレジットカードより、さらにセキュリティー性を高めたカードという位置付け。こちらには通信機能は搭載されていない。日本では三井住友カードが採用、2019年にも登場する予定という。
三井住友が採用予定のカード。見えづらいが、パスコード入力に失敗すると「Error」とディスプレイに表示される。
パスコード入力が成功すると、カード番号が現れる。
通信機能付きカードの1例目はエミレーツ銀行から登場
通信機能付きカードは、カード情報をネット上からダウンロードして書き込んだり、ディスプレイ部分に残高や決済用QRコードを表示したり、さまざまなことができる。表示する内容は、基本的にカード事業者が自由に設計できるため、たとえば誕生日になったら持ち主のカードに特別なメッセージや、割引クーポンを表示する、といったことも可能だ。
Dynamicsの担当者によると、通信機能の詳細は、方式やチップも含めて現段階では何も語れないそうで、「2G/3G/4Gの通信機能のどれか」ということだけを説明していた。といっても、この薄さで極めて消費電力が低い通信技術というと、あまり選択肢はない。LTE-MやNB IotのようなセルラーLPWA技術を使っているものと推測できる。
充電は基本的に必要とせず、「通常の決済活動の中で充電される」そう。充電を一切しない状態でもバッテリーは約5年間もつ。ずっと使わないでいるとバッテリー切れになってしまい、その場合は決済自体ができなくなるが、そもそもカード自体の有効期限の問題もあり、実質上は問題が起きないと説明していた。この通信機能付きカードはドバイのエミレーツ銀行で近々採用される見込みだ。
Dynamicsの公式サイト。
過去にも複数の物理的なクレジットカードブランドをまとめるようなスマートクレジットカード事業者はあったが、いずれもビジネスはうまくいっていない。
各カードブランドは基本的に他社と1枚のカードにまとめられることを嫌がる傾向にある。Dynamicsの担当者によると、過去の似たサービスではブランドとの交渉なく勝手に事業化してしまったため、カードブランドからの協力が得られず、失敗したと言う。
この教訓から、Dynamicsはカードブランドとの連携をしっかり進めてきた。現時点ではまず、通信機能を使って「ネット経由でカード番号を発行して、カードに書き込む」機能について、VISA、Master、JCBの合意を得た段階という。複数のカードブランドをたばねることについては、まだ交渉を続けている最中だ。
そのためエミレーツ銀行の事例では、いずれかのカードブランドを選択してカードを発行するほか、マイルなどのポイント機能を切り替えたり、デビットカードと組み合わせるなどの形で多機能カードのサービスをつくる(つまり、複数ブランドをまとめることはできない)。
ただユニークなのは、通信機能が入っているため、仕様はあとからいくらでもアップデートできることだ。後日、カードブランドが「複数カードをまとめることに合意」すれば、そうした機能も後付けで提供していける。
キャッシュレス事業者がスマートクレカを発行?
インドのIndusind Bankが実際に発行して運用しているカード。支払い時に、クレジットか、ポイントでの支払い(Rewards)かを選べるほか、分割払いもあらかじめ選択可能。
ちなみにカードの発行にいくらかかるのかも気になるところだが、これは取り扱いカード会社の方針次第だという。エミレーツ銀行に関しては、おそらく通常のカードと同様に無料になるのではないか、とDynamicsの担当者は説明していた。
日本ではPayPayの100億円還元をきっかけにキャッシュレス決済がにわかに注目されているが、通信機能付きカードはこうしたサービス事業者との相性も非常に良さそうだ。
Dynamicsの担当者に聞いてみると、実際にキャッシュレス事業者からの問い合わせもあり、具体的に進みそうな事例も出てきているとのこと。
スピード感のある業界だけに、日本国内で通信機能付きカードを使える日は、そう遠くないかもしれない。
(文、写真・伊藤有)