男の子は理系が得意で女の子は文系が得意 —— 。
平成も終わろうという時代に、そんなステレオタイプな考えはナンセンス?
しかし学力調査などでは、理数系分野の平均点は女子よりも男子の方が高く、読解力や語学の平均点はその逆、という結果が歴然としている。
進学塾VAMOS(東京)代表で、『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』の著書もある富永雄輔さんは「性差に着目したアプローチが、子どもの学力アップにつながることもある」と話す。男子と女子、学力の伸ばし方にやはり性別は関係あるのだろうか。
小学生は「性差出やすい」
性別によって教育方法が違うというのは本当なのだろうか。
Indeed
OECDが15歳男女を対象に実施した2015年の学習到達度調査(PISA)によると、日本では男子の平均点が数学的リテラシーで14点、科学的リテラシーで14点、女子を上回った。一方、読解力の平均点は女子が男子より13点高い。
ソースネクスト(東京都港区)が2017年3月に発表したアンケート調査でも、TOEIC受験者の男女別平均点は男性526点、女性668点と圧倒的に女性が上回る。
ちなみに筆者は小5男子(10)と小3女子(8)の親だが、長男は小学校入学まで断固として平仮名を覚えようとせず、長女は10000引く3をなかなか理解できなかった。同じように育てたつもりなのに……。男女の能力は同じだと信じて生きてきたのに、出産して初めて、性差を見せつけられた思いだ。
もちろん世の中には「リケジョ」もいれば、文系の分野で優れた功績を上げる男性もおり、この図式がすべての人に当てはまるわけではない。ただ富永氏は「特に小学生は、人生の経験値が少ない分、性差が出やすい」と話す。
男子は「8叱り2ほめる」で苦手克服
苦手科目の克服の方法も男女で違いがあるという。
JGalione
富永氏は未就学児から浪人生まで、多くの子どもを指導した経験から、男女の違いを次のように分析する。
「小学生男子は総じて女子に比べて精神的に幼く、友達に勝った負けた、テストで何点取ったといった表層的な事実しか見えていない。言語能力の発達も遅いので、国語が苦手な子が多い」
「野球の試合で誰が何塁打を打って、何対何で勝ちました」の繰り返しで、母である筆者から「スコアラーか!」とツッコまれてばかりのわが長男の作文にも、そんな事情があったのだ。
富永氏によれば、男子はできなかった問題も怒られた事も忘れてしまう「スルー名人」。苦手科目の克服は、粘り強く言い聞かせる「8割叱り、2割ほめる」が基本だという。
「男子は放っておくと好きな科目しか勉強しない。どこでつまづいているのか、何を注意すべきかなど、コツコツ言って聞かせて取り組ませる必要がある」
具体的には、国語が苦手な男子は長文を情緒的に読み解けないことが多いため、文章をここまでがA、ここまでがBという具合に短く区切って算数の公式のように教えると、苦手意識が和らぐという。
女子は「8ほめ2叱る」で得意分野伸ばす
一方、女子を持つママ友が嘆くのはきまって「面倒くささ」だ。宿題の間違いを指摘すれば逆切れ、口答え。親もイラついて、娘と本気で口げんかしてしまうこともしばしば。
しかし富永氏は、「面倒くさい」女子の行動にも理由があると指摘する。
「女子は言語能力が高い半面、数学的な因果関係などを把握する空間認識能力がやや弱い子が多く、理数系を苦手としがち。早熟な分プライドが高く、注意すると心を閉ざしてしまうこともある」
女の子には、苦手意識を持たせないことが大切だという。
Saha Entertainment
このため勉強では苦手克服にこだわりすぎず、「8割ほめて、2割叱る」方式で得意分野を伸ばす方が良いという。
「女子は苦手意識を持つと自己評価が下がり、小さくまとまってしまう。だからまず得意な部分をほめて自信をつけさせる。できなかった部分は『今回は6割正解だったね』など、注意かどうか分からない程度に一言だけ、客観的な事実を示すと受け入れられやすい」
理数系が振るわない場合も、基礎的な計算問題や暗記問題などで点数を稼ぎつつ、嫌いにならない程度に科目と付き合うのが得策だ。
男子の「やる気スイッチ」は幻想
富永雄輔氏は性差によって教え方を変えると、さらに能力が伸びる可能性があると指摘する。
撮影:有馬知子
男の子はちょっとしたきっかけで、がむしゃらに勉強し始める。そんな望みを抱いて「やる気スイッチ」を探す親は多いが、富永氏は「ほとんどの男子にそんなスイッチは存在しません」ときっぱり。
男子を伸ばすカギは意外にも、勉強を習慣化するための地道な努力だ。
「男子は、目の前の目標に向かって全力で頑張るのは得意。10分勉強したらおやつ、30分勉強したらテレビ、と『ご褒美』をぶら下げて走らせ、歯磨きや入浴、洗顔などと同じ日常の習慣に落とし込んでしまう」
学習習慣をつけさせるのは男女ともに重要だが、女子は男子に比べれば、自発的に毎日勉強する子が多い。むしろ「失敗を恐れてレベルの高い問題に挑戦せず、自分はここまでと『リミッター』を設けてしまう」ことが伸び悩みにつながりやすいという。
このため女子は本命前の「お試し受験」などで、「ほどほどのエラーを経験させることで『失敗はそれほど怖くない』と納得できれば、学力が大きく伸びる可能性が出てくる」。
男子向けの指導で伸びる女子もいる
富永氏が強調するのは、性差は男女の違いで、優越ではないということだ。また「必ずしも女子に、女子の伸ばし方を当てはめる必要はない」とも話す。
「理系が得意な女子に、男子向けの指導法を試したらさらに伸びるかもしれない。プライドの高い男子には、女子的なアプローチが向いている可能性もある」
大事なのは親が、子どもを伸ばす方法を複数準備しておくことだという。
「今回は性差という切り口で選択肢を示したが、要は子どもが伸び悩んだ時に、『この子はダメだ』と思わず、別の方法を試してほしい。トライアンドエラーを繰り返す中で、子どもの可能性を引き出すのが親の仕事ではないでしょうか」
富永雄輔:東京都内に展開する進学塾VAMOS代表。同塾は入塾テストをせず、先着順で生徒を受け入れて難関校へ合格させる手腕が人気を集めている。2018年12月に近著『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』を出版した。日本サッカー協会登録仲介人として若手選手の育成も手掛ける。京都大学経済学部卒。