自民議員に配られた「辺野古」県民投票に「不参加」“指南書”——「党の圧力ない」というが

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設の賛否を問う県民投票(2月24日投開票)をめぐり、県内の一部自治体の首長は「不参加」を表明。設問項目や日程の変更も取りざたされている。「迷走」の背景には、県民投票を忌避するある文書の存在も関係している。

議員に対する“指南書”の存在

玉城知事と安倍首相

安倍首相との会談でも辺野古移設問題は平行線が続いている。玉城デニー知事は年明けの記者会見で、県民投票の全県での実施を目指し、市町村と対話を続けていくとしている。

Eugene Hoshiko/Pool via REUTERS

首長が不参加を表明しているのは宮古島、宜野湾、沖縄、石垣の4市長(ほか1市が態度保留、1月11日現在)。4市長は、市議会が県民投票の関連予算案を否決したことを受け、それぞれ不参加を表明した。

4市長には共通点がある。自民党の支援を受けて選挙に当選した政治家であるということだ。予算案否決を提案し、賛同した市議はこの市長を支える「与党議員」たちで、いずれも議会で多数を占める。

気になるのは、自民党本部や官邸の意向が反映されていないのか、という点だ。沖縄県選出の自民党国会議員はこう否定する。

「党の圧力はまったくありません。各自治体の判断です。現状では『意味がない』という声は地域のほうが強い状況です」

筆者は、予算案が否決された自治体の自民党系議員の勉強会で配布された資料を入手した。地方自治法などの法律解釈を専門的見地から説く内容で、要旨は以下の3点だ。

まず、投票にかかる経費は地方自治法上の規定で「義務的経費に該当する」としている県の説明に対して、こう否定している。

「県条例の規定によって発生する経費であり、実質的に県が負担する経費であることから義務的経費ではない」

また、県民投票にかかる経費の市町村議会での審議については、

「通常の予算審議と変わりなく、適法、適宜、適切に審議すれば足りる」

とし、

「必ず可決しなければならないという法律上の根拠は見いだせない」

と結論付けている。

さらに投票権を奪われた場合、一部市民から法的手段を検討する動きがあることも踏まえ、

「議会が否決した場合、住民に対して損害賠償の責任を負うか」

との問いも設定。これについては、原告側の「法的利益」や「当事者適格」などを考慮すれば、住民訴訟が提起されたとしても「門前払いになる」との見通しを示している。

文書の作成者は不明だが、作成意図は明白だ。市町村議会で県民投票の関連予算案を否決しても法的瑕疵はなく、議員の責任は問われないことを指南する内容といえる。

「辺野古反対」は「非現実的」という言い分

普天間基地

普天間飛行場の危険性についての認識は県内でも一致している。辺野古容認派は、辺野古に基地をつくらず普天間返還を実現するのは「非現実的」という。

REUTERS/Issei Kato

自民党沖縄県連は2017年の県連大会で「普天間飛行場の危険性を除去するため、基地の機能移転並びに訓練の分散移転を図りつつ、辺野古移設を容認し、早期返還の実現を図る」と辺野古容認の方針を打ち出している。

県民投票で「賛成」を投じれば済むのでは、とも思うが、なぜ「不参加」なのか。

先の自民党国会議員にこの理由を問うと、真っ先に「設問がおかしい」と訴えた。

「われわれの支持者でも75%は『苦渋の選択』です。(辺野古新基地建設は)嫌だけど、(普天間飛行場返還のためなら)しょうがないという『容認』なんです。今まで背負ってきた沖縄の歴史を踏まえると、積極的に賛成という人は少数なんです」

同議員は賛否の二者択一だと、「先鋭化して県民を分断する。対立をあおるだけ」と指摘する。さらにこう言及した。

「イエスかノーだけなら、ノーのほうが多くなるに決まっている。それだと普天間が固定化される」

反対が多数の結果になるのが濃厚なのがよくない、というのだ。同議員は言う。

「もちろん再交渉するという安倍政権の動きがあれば別ですけど、ないじゃないですか。(辺野古反対の人たちは)昭和のイメージで政権を見ていますから。戦争体験があり沖縄に寄り添ってくれる、そんな時代感覚を持たない人たちが政権を担っている現実を踏まえた上で、沖縄も戦略を立てないといけない」

辺野古での工事が止まれば普天間が固定化される、との認識は沖縄県内の民意にも一定数浸透している。そう考える人たちは、「辺野古に新基地をつくらずに普天間返還を求めるべき」という県民を「非現実的」と捉えている。それは理想だが現実的には無理だから、「辺野古に反対」というわけにはいかない、と考えているのだ。

住民投票を否定することの矛盾

okinawapanfu

「辺野古」県民投票の会が作成したガイドブック。県民投票に関する一問一答や住民投票が実施された全国の事例などを紹介している。

提供:「辺野古」県民投票の会

投票したい人、拒絶する人の対立が最も先鋭化しているのは、普天間飛行場を抱える宜野湾市だ。

2018年末、同市議会は県民投票の関連経費を盛り込んだ補正予算案を否決。これに先立ち、同議会は「県民投票条例に反対し一日も早い普天間飛行場の閉鎖・返還を求める意見書案」を賛成多数で可決した。

同意見書は、県民投票への反対理由の一つに、「県民投票に基づき県知事が埋め立て承認を撤回すると、普天間飛行場の固定化につながる可能性があるといった最悪のシナリオについては全く触れられていない」ことを挙げ、「強い憤りを禁じ得ない」と主張している。ここでも、「普天間の固定化」が懸念材料に挙げられているのだ。

意見書案に反対の立場で討論した玉城健一郎市議(33)はこう唱える。

「住民投票は直接民主主義の一環で、間接民主主義の欠陥を補う制度。選挙という直接民主主義によって選ばれた市長や議員が、これを否定するのは自分たちの立場を否定することになるのでは」

辺野古の賛否を問う県民投票に対しては、総数で約10万人の県民が署名。宜野湾市でも法定署名数(有権者総数の50分の1)の3倍強に当たる5000人近い署名が集まった。

玉城市議は、県民の理解を得られない「辺野古」に固執することこそが、「普天間固定化」の原因との認識を示す。

「今回の投票は辺野古埋め立ての賛否を問うもの。普天間の危険性除去は『辺野古』と切り離して対応することは玉城知事も明言しています。むしろ県民投票をきっかけに、日米の返還合意から20年以上、固定化している普天間問題の解決にもっていけるのでは」(玉城市議)

辺野古の埋め立て予定海域には、広範な「軟弱地盤」が確認されており、県の認可を伴う設計変更などの手続きは必須。県の協力なしに「早期」の完成は不可能だ。県は今後13年以上かかる、との試算も示している。

「県民の中で(辺野古新基地建設は)『やむを得ない』という意見もあるが、辺野古につくらせたくないというのはほぼ一致しています。県民投票に反対する議員は、反対が多数を占めるのが濃厚な県民投票の『無効化』を図ろうとしているようにしか見えません」(玉城市議)

注目すべきは、「辺野古」に関する県民の民意に関しては、政治的に対立する玉城市議と自民党国会議員は同じ認識だということだ。

しっかり議論すればまとまれる

沖縄県民投票

県民投票への不参加表明や態度保留をしている各市に投票実施を求める抗議活動への参加を呼び掛ける「『辺野古』県民投票の会」の元山仁士郎代表(中央)ら。2019年1月4日、沖縄県庁にて。

提供:「辺野古」県民投票の会

県民投票を発案し、署名集めに尽力した「『辺野古』県民投票の会」の元山仁士郎代表(27)は、不参加や態度保留している市長らとの面談に奔走している。

「私も宜野湾市民の一人で、投票権を奪われる可能性がある立場。すごく悔しい思いをしています。県内を駆けずり回って署名を集めた努力が無駄になるかもしれないということには、怒りも覚えます」

元山さんはこう憤慨しながらも、柔軟な対応を模索している。

1月10日に沖縄市の桑江朝千夫市長と面談した際、元山さんは「選択肢の検討を考えざるを得ない状況に来ている」と述べ、全市町村での同日投票の実現を優先させるため、同会としても妥協点の検討を始めていることを明かした。

宜野湾市の松川正則市長は1月10日に会見し、選択肢が変更された場合、検討の余地はあると明言している。

そもそも、元山さんらが県民投票で「賛否」の二者択一を問う形を提案したのは、故・翁長雄志前知事時代に、沖縄県が国に辺野古埋め立て承認の無効を訴えた裁判での司法判断に起因している。沖縄県側が過去の選挙を通じて「辺野古反対」の民意は示されていると主張したのに対し、福岡高裁那覇支部は2016年9月の判決で「選挙はさまざまな要因が入っており、基地負担軽減なのか、辺野古に基地をつくらせない民意なのか判断することができない」と判示し、最高裁もこれを踏襲したのだ。

このため、元山さんらは県民投票でシンプルに賛否を問う形を提案した。にもかかわらず、元山さんが方針変更を検討せざるを得ない背景には、「県民投票は県民の分断に終止符を打ちたい」との思いがあるからだ。元山さんは言う。

「県民の間でしっかり議論を交わすことが大事で、意思表示した後は必ずまとまることができると信じています。県民投票を節目にしっかりまとまろうとの思いで動いています」

元山さんはさらにこう言う。

「選択肢が二者択一なのは乱暴との声もありますが、乱暴なのは日本政府のやり方なのでは。そもそも沖縄の米軍基地は日米の都合でつくられました。沖縄の人たちの間にもともとあった対立ではなく、持ち込まれたものをめぐって沖縄の人たちが対立するのは悲しいことだと思っています」

県民投票はゴールではなく、政府に「辺野古」以外で早期に実現可能な、普天間飛行場の運用停止の方途を探る方向に政策をシフトチェンジさせるための一里塚にすぎない。民意に基づく方向に「政治を変えられるか」という課題に、日本社会が正面から向き合うべきなのは言うまでもない。

渡辺豪:1968年兵庫県生まれ。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。主な著書に『「アメとムチ」の構図』『日本はなぜ米軍をもてなすのか』、共著に『普天間・辺野古 歪められた二〇年』。

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