迫る!奨学金返還猶予期間の終了。返済のためブラック企業辞められない人も

日本学生支援機構の奨学金には、返還が難しい人のための「返還猶予」制度がある。経済的な理由による場合、期間は最長10年。2019年、いよいよその期限が切れ始める —— 。

延滞だけはダメ

奨学金

出典:日本学生支援機構「奨学金事業への理解を深めていただくために」より

日本学生支援機構が、最長5年だった返還猶予を10年まで延長したのは2014年。つまりその時点ですでに5年の猶予を受けていた人は2019年に10年のタイムリミットがやってくるのだ。

猶予制度は病気や震災、収入が低いなどの理由で返還できない人たちへの救済制度だが、今回、返還開始の対象となるのは、給与所得者であれば年間の収入が300万円以下、それ以外は年間の所得が200万円以下という経済的困難を抱えて制度を利用していた人たちだ。期限となる2009年度には約6万件の猶予が承認されており、2016年度では15万件以上に増えている。

機構のホームページには2018年12月に「奨学金返還期限猶予期間の終了と返還開始のお知らせ」を発送したとある。通知を見て初めて知ったという人も多いだろう。中には、今も支払う余裕がないと不安に思ったり「無視すればいい」と考えている人もいるかもしれない。しかし、ちょっと待って欲しい。

月々の返還が滞ると「年5%」などの延滞金が発生する。2カ月続けて延滞すると親などの連帯保証人にも請求が行き、3カ月延滞すると個人信用情報機関に延滞情報が登録され、いわゆる「ブラックリスト入り」してしまうのだ。

4カ月目以降は債権回収業者に委託され、9カ月以上延滞すると裁判所へ「支払督促申立」の手続きがなされる。

「いくら支払っても延滞金→利息→元金の順に充当される仕組みになっているため、なかなか元金は減りません。だから早めに専門家などに相談して欲しい。猶予期間が終わることに不安を抱えている人にも、取れる対策はあるんです」

そう言うのは奨学金問題対策全国会議の事務局長を務める岩重佳治弁護士だ。

減額返還は根本的な解決にはならない

岩重佳治

岩重佳治弁護士。著書に『「奨学金」地獄』などがある。

撮影:竹下郁子

岩重弁護士によると、返還金額が支払えない場合は月々の返還金額を2分の1などにする「減額返還」制度が利用できるそうだ。返還猶予と同じで給与所得者であれば年収325万円以下、それ以外は年間所得225万円以下という年収・所得制限が設けられているが、条件に合う人は検討してみていいだろう。

しかし、以下の点には注意が必要だ。

「これも返還総額が減るわけではなく返還期間は延びる一方で、根本的な解決にはつながりません。そもそも猶予を受けていた人は減額返還も苦しいという人がほとんどでしょう。今は大学を卒業して10年経てば生計が立つという時代ではない。非正規雇用が増え収入が安定しない人も多いのに、猶予に期限を設けていること自体がナンセンスです」(岩重さん)

法的に解決することもできる。偏見や会社に通知されるなどの誤解もいまだ根強いが、必要な場合には積極的に利用して欲しいと多くの専門家が言う「自己破産」、返還総額を減らしてもらったり、延滞金が増えないようにした上で返済計画を立て直す「個人再生」、返済日から10年以上経過している場合には「時効」が成立するケースもある。どれも裁判所を通した複雑な手続きになるため、弁護士などの専門家に相談して欲しいと岩重さんは言う。

一人で抱え込まないで

男子

日本学生支援機構によると2016年度には大学と短大に通う学生のうち38%が奨学金を借りている(写真はイメージです)。

shutterstock/taa22

岩重さんのもとにはさまざまな人が相談にやって来る。年齢は20代の人もいるが、最も多いのが30〜40代だという。奨学金の貸与額も100万円から2000万円までと幅広いが、最近はある共通点があるそうだ。

非正規雇用や精神疾患など幾重にも困難を抱えている人が多く、どうにもならない状況でも救済措置に踏み切れない人が増えています。『返済できないのは自分が悪い』という思いが強いんです。社会全体で自己責任論が高まっていること、そして奨学金を利用しなくとも大学進学できて正社員で働けた親世代との意識の差が背景にあると感じています」(岩重さん)

自己破産を勧めても本人が「連帯保証人(親)に迷惑をかけられない」と躊躇し、たとえ本人を説得できても親に「家の恥」だと反対される。結局、猶予や減額などの制度を使い「延滞金」を延々と返還し続けるしかない悪循環に陥っている人が多いそうだ。

親に「返済は手伝うから奨学金を借りろ」と言われたのに何もしてくれない、「なぜ返済できないんだ」と責められ、ブラック企業を辞めたくとも奨学金返済のために「正社員でいろ」と言われ辞められずにいる人もいるという。

岩重さんは親族による個人保証制度は「日本の『家族主義』の遺物で、早くなくすべき」だと考えている。2018年、連帯保証人ではない保証人(親族)には半額の支払い義務しかないことを伝えずに全額請求していることが発覚し、大きな問題になった。岩重さんを含めた奨学金問題対策全国会議では、半額を超えて回収した分を保証人に返すよう裁判を起こすことも視野に入れている。

一方、親族の個人保証を廃止し、奨学金の借入額に応じた一定額を保証料として徴収する方向で財務省と文部科学省が検討に入ったと報じられた。長期の延滞が増えて制度を圧迫しているからだという。2017年度の延滞金は有利子分で約500億円と、2007年度の2.7倍になっている。このうち64%が5年以上の長期延滞だ(日本経済新聞2019年1月9日)。

「これではさらに学生の負担が増えてしまいます。そもそも保証制度自体が本当に必要なのか、検証が必要です。返済能力の審査なく借りられるにも関わらず、回収率がメガバンク並みの約97%というのは無理な回収が行われているということ。制度自体が問題が多いので、返還できないからと責任を感じずに一刻も早く専門家に連絡してください」(岩重さん)

(文・竹下郁子)

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