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軽井沢発・18歳起業家が狙う「アバターカラオケ市場」——難病やコンプレックスを原体験に

2018年は、アニ文字やZEPETOなど、スマホカメラの顔認識技術を活用した「3Dアバターアプリ」が多く出現した年だった。VTuberをはじめとするAR・VR市場も、2019年には大きく拡大することが予想されている。

そんな中、2018年12月に3Dアバターを使ったカラオケアプリをリリースした18歳の起業家がいる。大学には行かずに起業した彼は、自らの原体験を「コンプレックス」だと話す。“異色”のメンバーで構成された3人に話を聞いた。

関連記事:BTSキャラで大ヒット、自分アバターアプリ「ZEPETO」から見る2019年アバター市場

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aboon代表の清原三雅(写真中央)、エンジニア業務に携わる原口和音(写真左)、3DCGクリエイターの杉本大地。

ニキビと低身長がコンプレックスだった

2000年生まれの清原三雅(18)が率いるスタートアップ、aboon(アブーン)。

取材場所に指定されたのは、メンバーの一人である杉本大地(21)の自宅。杉本は先天性の脊髄性筋萎縮症(SMA)という病気を患っているため、移動するのが難しいから、という理由だった。

取材当日、杉本の部屋を訪ねると、清原ともう一人の創業メンバーである原口和音(18)が、杉本を自然に気遣いつつ、自分たちの場所を探して腰を下ろした。清原と原口は高校の同級生。「普段はリモートで働いているから、こうやって顔を合わせるのも久しぶりなんですよね」と三人は笑った。

まずは清原と原口の話を聞かせてほしい、と切り出すと、そこから先にはジェットコースターのようなストーリーが待ち受けていた。

高校を卒業してすぐに起業した二人は、2018年12月に3Dアバターカラオケアプリ「nemo」をリリースした。その原点は、清原が中学校の時に抱えていたコンプレックスだったという。

「小学校時代は、1年生から6年生までずっと、背の順で一番前で。中学に入ったら、ニキビも出始めて。陰湿ないじめまではいかないんですけど、女子から『チビ』といじられたりして」(清原)

中学生の時、親の仕事の都合もあり、タイに移り住むことになった。

そこで初めて体験した「自分の背が低かろうが、英語がしゃべれなかろうが、中身を見てくれる」(清原)環境に、今まで日本では感じることのできなかった自由さを覚えたという。

生まれつきの身体は関係ない

軽井沢

清原らが学んだインターナショナルスクール・ISAKは、緑豊かな長野・軽井沢に位置している。

NH / Shutterstock

帰国後は、軽井沢にある全寮制のインターナショナルスクール・ISAKジャパンで学んだ。

ISAKの寮で、aboonのもう一人の創業メンバー、原口和音と出会う。在学中は地元・軽井沢の魅力を海外に伝えるプロジェクトなど、学内活動に熱中し、ビジネスの面白さに目覚めていった。

2018年5月に高校を卒業。ISAK卒業生の多くが海外の名門大学などに進学するなか、2人はあえて大学には行かなかった。

清原が気になっていたのは、年間500万円から600万円はするというアメリカの大学の授業料だ。「それだけのお金を出してビジネスモデルを学ぶくらいなら」と、日本で起業することを決意したという。

目をつけたのが、3Dアバター領域だ。3Dアバターが普及すれば、生まれつき持った身体にとらわれずに生きることができる ── 自らもかつて抱えていた悩みを解決する糸口になる、とピンと来た。

この3DCGアバターを使って何かビジネスができないかと考えながら、アバターのデザインをつくるクリエイターをネット上で探し始めた。

難病のCGクリエイターを仲間に

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「僕は身体全部でCGを求めている」と、杉本は話す。

手探りでアプリ制作を続けるうちに、清原はネット上で決定的な出会いを果たす。それが、3DCGクリエイターの杉本大地だった。

ネット上で公開されていたイラストを見た清原は、探し求めていたイメージ通りの絵柄に、衝撃を受けたという。

「キャラクターのオリジナリティとか、ユニバーサリティ(普遍性)。見た瞬間に、このアバターが歌うところ、想像できるぞって」(清原)

先述したように、杉本は先天性の脊髄性筋萎縮症(SMA)という病気を患っている。

SMAは、2018年3月に亡くなった宇宙物理学者、スティーブン・ホーキング博士も患っていた筋委縮性側索硬化症(ALS)に似た病気で、必要な筋肉がだんだんとやせ細り、力がなくなっていく。

日本では10万人に一人がかかると言われ、国の指定も受けている難病だ。

幼い頃から身体が思うように動かせない。そんな杉本がのめり込むように見ていたのが、ディズニーやピクサーのアニメーションだった。高校に入ってからは、独学でCGを学んだ。

「姉と妹が、小さい頃にダンスをやっていて、それをずっと見ていて『踊りたいなあ』って。ただ、(たとえ自分自身は踊れなくても)CGでキャラクターを作って、アニメーションをつければ、自分の好きな踊りを踊らせることはできる。

自己表現としての身体性が欠けているから、CGでそれを実現したい。僕は身体の全部、心の底からCGを求めているんです。多分、普通のCGクリエイターさんとは、賭ける想いが違う」

2018年10月、杉本は実際に会うとなったタイミングで、初めて清原に病気のことを打ち明けた。病気について聞いても、一緒に仕事をしたいという清原の気持ちは揺らがなかった。逆に「物理的制約から解放される」というミッションを一緒に実現しないか、と持ちかけた。

LINEスタンプのようなプラットフォームに

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nemoのデモ画面の様子。カメラの前で歌を歌うと、アバターが自分と同じ表情で歌ってくれる。

10月に杉本と出会ってから、約2カ月のスピードでリリースされた「nemo」。9種類のキャラクター(アバター)のうちのひとつを選び、曲を選択すると、音楽が流れる。

音楽に合わせてカメラの前で歌うと、アバターを介してカラオケをすることができ、それらをSNSにシェアすることも可能だ。

現在はiOS版の特定機種でのみ使えるアプリだが、2019年中を目処にAndroid版を使えるようにしたい、と考えている。

将来的には「LINEスタンプのように、誰もが自作のアバターを(VR空間上に)アップロードできるようなプラットフォームを作りたい」と清原は語る。

彼らの働き方もユニークだ。メンバーは基本的に、全員がリモートで働いている。打ち合わせが必要になった時は、杉本の自宅の最寄り駅、時には自宅までメンバーが足を運ぶようにしている。

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打ち合わせの時は、メンバーが杉本の自宅まで来ることも。

ひょんなことから一緒に仕事をすることになったメンバーたちの夢も、今はさまざまに膨らんでいる。杉本の夢は、将来アメリカに渡り「ピクサーで働くこと」だ。

逆に原口は「将来は大学に行きたい」とも話す。関心分野のコンピュータサイエンスを専攻するためだ。

2019年、アバター市場はさらに多くのプレイヤーが参入してくると予想される。18歳が手がける「カラオケアバターアプリ」は、この広大な市場にどこまで食い込んでくるのだろうか。(敬称略)

(文・写真、西山里緒)

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