「テスラキラー」中国EVベンチャー・BYTONがダークホースになる、これだけの理由 —— 日本人が知らない新時代のモビリティー企業

byton0-1

プリプロダクション・モデルを展示した、BYTONの「M-BYTE」。ラインナップは、71kWh(巡航距離400km)をエントリー・モデルとし、上級モデルとして95kWh(520km)を用意する。深センに拠点を置く寧徳時代新能源科技(CATL)と提携する。販売価格は4万5000ドルと破格に安い。テスラと比べると、一つ下の車格となる「モデル3」とスタート価格は同等だ。

撮影:伊藤有

わずか数年前まで、日本メディアは、中国車のことを「そっくりカー」などと揶揄していたし、EVスタートアップの旗手であるテスラが「モデル3」の量産で足踏みをしているのも事実だ。「スタートアップに本当の意味での自動車の大量生産などできない」と思っている人も多いかもしれない。

しかし、CES2019に登場した中国発のEVスタートアップ「BYTON」を、従来の偏見の目線で眺めるのは間違っている。実際、筆者自身、1年前のCES2018で「BYTON」の名を聞いたときに、まったく同じ偏見を持っていたが、その後に取材を重ねてきた結果、従来の中国車メーカーとも、EVスタートアップとも異なる、「新しい時代のモビリティー企業」が登場したと感じているからだ。

少々、時計の針を戻すことになるが、ここで、日本ではまだあまり知られていないBYTONの”歴史”をざっとおさらいしたい。

ただの中国EVベンチャーではない、主要人物と企業の成り立ち

BYTONは2017年に比較的初期の資金調達であるシリーズAラウンドを実施し、同年9月に南京工場をオープン。12月にアメリカ支社を開設し、2018年1月にCESにて電動モビリティにスマート・デバイスを搭載した「M-BYTE」を公開した。同年6月には、CESアジアの開催前夜に、2つめのコンセプトカー「K-BYTE」を発表と、めまぐるしい1年を歩んできた。

グローバル本社とR&Dセンターと生産工場を南京に置くものの、デザイン・センターは上海、ソフトウェア開発は米サンタ・クララ、技術開発の拠点はミュンヘンと、その業務に最適な地域に開発・生産拠点を設置している。

ここで話を現在に戻そう。BYTONの何がスゴいのか?

それは、以下の3つに要約される。

  1. コネクテッド、EVを前提にクルマが設計されている
  2. クルマの生産・販売に加えて、デジタル体験の提供をビジネスモデルとして描いている
  3. 設計、生産、デザイン、テクノロジーの開発拠点を最適な地域に設置していること

事実として、CEOで共同創業者を務めるCarsten Breitfeld氏と、プレジデントを務めるDaniel Kirchert氏は、共にドイツ人であり、それぞれBMWの電動モビリティのブランド「iシリーズ」の開発を牽引した人物、日産の高級車ブランドであるインフィニティの取締役といった自動車業界における超一流の経歴の持ち主だ。

byton-6

CEOで共同創業者を務めるCarsten Breitfeld氏(左)と、プレジデントのDaniel Kirchert氏。

撮影:伊藤有

中国側の創業者であるJack Feng氏は、ロールスロイスやBMWを中心に扱うディーラーネットワーク「ハーモニー・オート・ホールディングス・リミテッド」の会長を務める。チーフ・デザイナーでフランス出身のBenoit Jacob氏は、ルノーで「スポール・スピダー」のデザインを担当した後、BMWにて「i3」「i8」といった電動モビリティのアドバンスド・デザインを牽引した人物だ。そして、BYTONは現在、世界20カ国以上から1500人が開発に携わっている。

byton-1

独自イベント「Byton Night」に登壇した中国側の創業者であるJack Feng氏。

CES2019では、昨年の発表から一歩進んで、モビリティの未来をより現実的に見せてくれた。昨年と比べて、格段に広くなった発表会場のエントランスには、CES2018で発表した「M-BYTE」のプリプロダクション・モデル(本格的な量産を行う前のほぼ最終段階のモデル)が飾られていた。

創業から2年足らずのEVスタートアップが、わずか100台とはいえ、クルマを生産できたことに驚きを隠せない。事実として、テスラですら、2003年の創業から5年経った段階でようやく「ロードスター」の生産を始めたわけで、しかも初代「ロードスター」は2500台という限られた数が作られたに過ぎない。

byton-13

しかしながら、BYTONはすでに100台のプリプロダクションに成功し、2019年後半には30万台規模の量産ラインを立ち上げて、中国国内のデリバリーを開始すると宣言している。

最初に生産される「M-BYTE」はセダン/MPVの2車型であり、全長×全幅×全高=4850×1940×1650mmのボディーサイズは、ライバルと目されるテスラ「モデルS/X」とほぼ同等のミッドサイズに分類される。

CES2019では、「M-BYTE」のプリプロダクション・モデルに加えて、2018年6月に開催されたCESアジアの前夜に発表された「K-BYTE」も持ち込まれていた。

byton-2

ファーストモデルであるM-BYTEに続くセカンドモデルで、2021年のリリースを予定するK-BYTE。

「BYTONでは、自動車デザインにおけるラグジュアリー、プレミアム、スポーティネス、テクノロジーを表現すべく、新たにデザイン言語を構築しました。ラグジュアリーEVとして理想的なプロポーションを追求すべく、全長×全幅×全高=1.95×1.5×4.95mのスリーサイズに、3mのホイールベースを持たせました」と、Jacob氏は語る。

なかでも、従来の自動車メーカーが必死になって隠そうとしてきた、LiDAR(ライダー。レーザーや光を用いて環境認識をするレーダーの一種)のようなセンサー類を、BYTONではあえて強調しているところが興味深い。中国に限らず、自動運転のような特別な機能が搭載されていれば、自慢したいと思うのが人情と考えたからだ。

ライトに縁取りされて光っているルーフ上のセンサーは、360度を見渡す自動運転のためのLiDAR「BYTON LiBow」だ。自動運転の機能をアクティベートすると、同じくLiDARの「BYTON LiGard」がサイドにせり出す。

byton000

K-BYTEのルーフ上のセンサーの俯瞰写真。

自動運転システムの開発では、グローバルではオーロラ社と、中国国内ではバイドゥと手を組む。2019年に発売される「M-BYTE」は、いわゆるレベル3(限定された状況下での自動運転。しばしばドライバーの操作も必要)の自動運転の機能を搭載するのに対して、2021年までにレベル4(限定された条件下での自動運転。ドライバーの操作は不要)を搭載したモデルを世に送り出すと宣言している。

「EVスタートアップとしては後発であることは否めませんが、そこを逆手にとって、最新のコネクテッドや自動運転などの機能が搭載されているのがセリングポイントです。さらに今回、先進的なHMIを発表します。5Gへの対応、顔認証の搭載、OTAによるソフトウェア更新など、すべてが最新です」と、CEOのBreitfeld氏は語る。

今回の発表で特筆すべきは、「M-BYTE」の開発では、デジタルライフの充実が最も重視されたという点だ。電動モーターのパワーでもなければ、自動運転のレベルでもない。

「今回、重要な“プラットフォーム”を2つ発表します。1つは、レベル3の自動運転に対応し、4WDの機能を備えるEVの車体プラットフォームです。もう1つは、『BYTONLife』と呼ばれるデジタル・プラットフォームです」と、Breitfeld氏は続ける。

byton-7

従来、自動車産業において、”プラットフォーム”といえば、車台と決まっていたが、BYTONでは、アプリが動作する環境としての、IT業界におけるプラットフォームも自ら開発する方針だ。AIの活用はもちろん、順次、ソフトウェアの更新が行われることで、”究極のカスタマー・エクスペリエンス”を提供するという。

実際に展示された車両(M-BYTE)には、フロントガラスを支えるAピラーの両端に届くほど巨大な、48インチディスプレイが搭載されている。ステアリング・ホイール上の7インチ・ディスプレイで自動運転の機能を有効にすると、48インチディスプレイにエンタテインメント機能が表示される。

byton0-8

圧巻の48インチのスクリーン。ハンドル上にもタブレットのようなディスプレイがある。

撮影:伊藤有

byton0-9

後方を映すカメラも搭載。電子ドアミラー対応のようだ。

撮影:伊藤有

センター・コンソール上に備わるバイトン・タッチパッドは、顔認証を始め、アマゾン・アレクサによる音声コマンド、ジェスチャー・コントロールなどでの操作が可能だ。5Gへの対応も視野に入れて開発されたマルチアンテナを搭載して、フルコネクテッドである。

EVゆえに、フォルクスワーゲン「I.D.」やBMW「i」などと比べる声もあるが、BYTONのアドバンテージはEVというだけではなく、スマート・カーである点にある。

「巨大スクリーン、高速コネクティビティーといった機能を搭載し、車載スマートデバイスとしての機能を充実させています。また、将来描くビジネス・モデルは、従来の自動車メーカーの”クルマを売る”こととは異なり、アップルやサムスンように、デバイスを売るだけではなく、デジタル・コンテンツを提供することが重視されます」(Breitfeld氏)

「BYTONは量産できるのか?」の質問がナンセンスな理由

byton-12

カンファレンスで紹介されたBYTONの南京工場。広大な敷地であることがわかる。

byton0-7

パートナー企業の中にはバイドゥなど中国企業だけではなく、ボッシュや音声認識のサポートをするアマゾンもいる。

撮影:伊藤有

最後に最も気になるのが、量産できるか?ということだ。あくまで推論ではあるが、筆者がこれまで取材した事実を積み上げた上での推論が以下だ。

シリーズAからまもなく、事業規模を拡大するためにシリーズBを実施し、5億ドルを調達してしまったことにも驚きを隠せない。調達を支援した企業の内訳は、中国最古の自動車メーカーであるFAW、先進インフラやヘルスケアなどを手がけるTus-Holdings、リチウムイオン電池最大手のCATLと、次世代モビリティーを開発する企業にとって頼もしい内容だ。

byton-14

カンファレンス後にBYTON関係者が壇上に集まった記念写真。ダイバーシティに富んだ多国籍な人材であることがわかる。

加えて、ボッシュやフォレシアといった欧州のトップサプライヤーと最初から協業し、グローバル基準における最新テクノロジーを手に入れている。南京のグローバル本社に隣接して、最新のスマート工場を建設するにあたって、国内外のトップサプライヤーとパートナーを招いている点も見逃せない。

つまり、「BYTONが量産できるか?」と 心配するのはナンセンスで、むしろ、南京をスマート・マニュファクチャリング開発における拠点に成長させつつあると考えるべきだ。「スマート・モビリティのためのバリューチェーンをグローバルで最適化し、スマートな生産拠点を構築する」というBYTONの戦略は、従来の自動車メーカーには真似のできない、次世代に向けた新たなビジネス・モデルを生み出す可能性すら秘めている。

(文、写真・川端由美)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中