「アメリカに対抗する力ない」中国指導部は対米方針を柔軟路線に転換。ファーウェイは「核心利益」

ファーウェイCFO逮捕を巡り、全面対決になっている米中関係。極限まで冷え込んだ両国関係について、中国側で“変化”の兆しが現れている。

2018年12月1日のG20に出席する習近平国家主席。

2018年12月1日のG20に出席する習近平国家主席。同日にはアメリカのトランプ大統領との首脳会談も開催された。

G20 Argentina/Handout via REUTERS ATTENTION EDITORS

対米主戦論からの転換

「北朝鮮との関係強化を進めるが、一方で慎重でもある。貿易摩擦を抱えるアメリカとの関係を悪化させたくない」

金正恩北朝鮮労働党委員長による4度目の中国訪問が進行中の1月8日、中国・天津での会議で一緒になった姜龍範・天津外国語大教授の発言を聞いて「おやっ」と思った。

台湾との政府高官の相互訪問を認める「台湾カード」まで切って中国との全面対決を煽るトランプ政権に対し、金委員長訪中は北朝鮮との親密な関係をアピールする「絶好の機会」のはず。だが中国指導部は2018年12月1日の米中首脳会談の直前、アメリカとは「対抗せず、冷戦をせず」と超柔軟姿勢で臨む新方針を決定したという。

背景には「中国には全面的に対抗する力はない」とする習近平国家主席の認識がある。

2018年の夏には「対米主戦論」が支配的だったが、鄧小平が主唱した「韜光養晦」(とうこうようかい:能あるタカは爪を隠す)論が息を吹き返している。

「対抗せず、冷戦せず…」の新方針

カリフォルニア州オークランドの港に積み上げられている、香港から輸入されたコンテナ。米中貿易戦争は激化するかと思われたが、最近中国側の態度に変化が現れ始めている。

Justin Sullivan/Getty Images

対米配慮について先の姜教授がさらに説明する。

「トランプは去年、北朝鮮の非核化が進まないのは、『中国が非協力的になったためだ』と批判したことがあります。近く開かれるはずの2回目の米朝首脳会談で、トランプが成果を挙げられなかったとみた場合、非難の矛先が再び中国に向くリスクがある。そうなれば対米貿易摩擦の協議にもマイナスになる」

中国にとって最優先課題は対米関係の改善であり、中朝関係はそれに従属する副次的課題になっているというのだ。姜教授によれば、2018年の北朝鮮建国70周年に習主席が平壌を訪問しなかったのも、「関係緊密化の印象を避けるためだった」という。

その新路線とはどんな内容なのか。かみ砕いて言えば、アメリカとは「対抗せず、冷戦はせず、漸進的に開放し、国家の核心利益は譲歩しない」の4点。中国語では「不対抗、不打冷戦、按照伐開放、国家核心利益不退譲」の21文字からなるため、「21字方針」と呼ばれる。

香港メディアなども報じた方針は、核心利益は守る「底線」(レッドライン)を設けているものの、アメリカとの全面衝突の回避が基調だ。

「21字方針」に基づく具体例をみよう。

米中首脳会談が行われた日、カナダでは中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長が逮捕(保釈中)された。さらに米連邦大陪審は2018年暮れ、日米英など12カ国で情報を盗んだとして中国人ハッカー2人を訴追したが、中国側の反応は実にマイルドだった。

カナダに対しては、カナダ人2人を拘束する「報復」に出たが、中国外務省報道官はファーウェイと貿易交渉は切り離して対応する姿勢を繰り返し、アメリカには驚くほどの「低姿勢」で臨んだ。米国産大豆の購入をはじめ、米国車への25%追加関税の3カ月停止を発表したのも、その方針に基づいている。

「西側体制に対抗する秩序はつくらない」

トランプ政権に「白旗」を揚げたかのような方針を決めた理由はなにか。

アメリカの華字ネットメディア「多維新聞」は「もし中国が『目には目、歯には歯』などの対米強硬策を採れば、アメリカとその同盟国の圧力にさらされ、中国にとって大きな災禍になる」と、習指導部が考えていると説明する。そして「中国はアメリカを主とする西側体制に対抗し、現存の世界秩序と異なる新しい別の秩序を打ち立てることはできない」との認識から、「現行秩序の既得権益者の警戒を引き起こさない配慮が必要」とみているとする。

北京大学国際関係学院の賈慶国教授ら対米協調派とはほぼ同様の主張。ある中国の国際政治学者は次のように話す。

「指導部内には対米政策をめぐって異論が噴出した。このため指導部が私に意見を求めてきたので、米ソ冷戦につながったスターリンの強硬対応の過ちを批判しました」

「アメリカかそれとも中国か」という二項対立に意識を引きずり込む新冷戦思考は回避したいのだ。

第3の「漸進的開放」について方針は、「改革開放は段階的にゆっくり進めなければならない。一気にやれば投機的な資本が中国の経済秩序をかく乱する」と、コントロール可能な範囲で中国の製造業と高度技術産業の育成ができるよう、ゆっくりと進める必要があるということだ。「漸進的」の意味である。

これらの方針をみると、すべてアメリカの言うなりのように見える。

ファーウェイは「核心利益」

ファーウェイの端末販売ブース。

ファーウェイをめぐる問題は中国の発展モデルに直接関係するので、中国にとって最後に守るべき「核心利益」だ。

shutterstock.com

では中国が最後に守るべき「核心利益」とは何か。

複数の学者の見方を総合すれば、通商摩擦や安全保障問題は「中国の核心利益ではないから譲歩できる」とする一方、「中国の発展モデルをめぐる対立になれば妥協できない」とみる。「ファーウェイ」は核心的利益の一つだという。

先の記事も「ファーウェイが高度通信技術において築いて来た地位、特に中国の発展にとって『5G』技術の重要性から考えれば、中国の核心利益から決して譲歩できない」と書いた。

トランプ氏が厳しく批判する「中国製造2025」についても、中国当局が「2025」にあまり触れなくなったからといって、「2025計画」の実質的内容を放棄したわけではない。こうしてみれば「21字方針」は、全面衝突回避のための「戦術的後退」というべきだろう。

北京で1月9日に終わった米中次官級貿易協議に成果はあったのだろうか。

具体的な合意は発表されなかったが、トランプ氏は1月10日「中国との協議で大きな成果を収めている」と強調した。米中首脳会談では、中国側が1兆2000億ドル(約130兆円)超の追加購入案を提示したとされ、次官級協議でもアメリカ側は貿易不均衡の是正に向け一定の進展があったとしている。

一方、中国側は中国の構造改革について「進展があった」と強調したが、ウォールストリート・ジャーナルは「中国政府による自国企業への補助金や、知的財産権保護などについては隔たりが残った」とする。中国の「核心利益」に触れる問題での合意は簡単ではあるまい。

北京の研究者たちは「ここまで妥協したのだから、90日休戦が終わる3月初めまでに何らかの妥協ができるだろう」との楽観論で口をそろえるのだが —— 。

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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