「ちょうどいいブス」叩きで考えた。男社会で見つけた“ビジネスブス”という選択はあり?

「人生が楽しくなる幸せの法則」

元タイトルが波紋を呼んだドラマ「人生が楽しくなる幸せの法則」。その原作を読んでみると……。

出典:読売テレビホームページ

ドラマ「人生が楽しくなる幸せの法則」(読売テレビ・日本テレビ系)の初回を見た。

もちろん、バッシングが起きていたからだ。お笑い芸人・山﨑ケイさんのエッセイ『ちょうどいいブスのススメ』を原作にし、それをそのままドラマのタイトルとして発表した途端、ネット社会で大批判にさらされた。

ドラマは「ゆるいなー」の一言だったが、原作を読んでいろいろ考えた。そちらの話をする。

先輩芸人の一言に「わかる、わかる」

ちょうどいいブスのススメ

この本は山﨑さんが書いたのでなく、話したものだろう。奥付に「構成者」の名前も書かれている。だからざっくり言うならこの本は、山﨑さんというお笑い芸人が語る「自分ネタ」の長いヤツ。そう言っていいと思う。

山﨑さんは36歳で、「相席スタート」という漫才コンビで年下男子と組んでいる。そのこともこの本で知った。そんな「事前情報なし」から読み始め、読了後に抱いた山﨑さん像は、まじめな女子、芸人としては発展途上。そんな感じだ。

「はじめに」のところに、山﨑さんと「ちょうどいいブス」の出合いが書かれている。

ある日、先輩芸人に「おまえ、ブスじゃないみたいな感じでやってるけど、ブスだからな」と言われた。自分は「美人ではない」ことには気づいていたが、ブスとは思ってもみなかった。だから納得いかないでいると、別の先輩芸人(ジャングルポケットの太田さん、とこちらは実名で書かれている)が、「ブスはブスでも、おまえはちょうどいいブスだよなぁ〜」と言ってくれた。すると周りの人たちが、「わかる、わかる」と大盛り上がりになって、自分もそれを受け入れるようになった、と。

この話、芸人の世界でいうなら「自虐ネタ」だろう。ブスっていじられてー、慰めてもらって、それで「ちょうどいいブス」ってことにしたんですよー。そんな感じでしゃべる。

女性対象のランキングで「笑えない」感じ

お笑い界で「容姿いじり」は、ありがちなネタの一つだ。吉本興業の月刊誌「マンスリーよしもと」(後に「マンスリーよしもとPLUS」)はかつて「よしもと男前ブサイクランキング」を年に一度発表、人気企画になっていた。

「ブサイク」という当たりの柔らかい表現がキモだったと思う。2000年にスタートし、2010年からは女性芸人にも対象を広げた。タイトルは「べっぴんぶちゃいくランキング」だった。

私はリアルタイムでこのランキングを見ていたが、女性も対象になったところで「ちょっと笑えないなあ」と感じたことを覚えている。そして、男性版も女性版も、どちらも2015年を最後に廃止された。時代の趨勢だったろう。

1月12日に放送された「人志松本のすべらない話」で最優秀賞(MVS)に選ばれたのは「アインシュタイン」の稲田直樹さんで、ブサイク自虐ネタだった。舞台で女装するために近くの美容学校の学生さんに化粧してもらう話で、すごくおもしろかった。化粧の話に持っていくまでの導入部から落ちまで、切れ味抜群だった。

今テレビで芸人が「容姿」を扱うなら、もう自虐ネタしかないだろう。それも、かなりの腕前を要する。山﨑さんの「ちょうどいいブス」も「自虐」が原点だ。腕前を磨けば、テレビでトークできる。そんなネタだと思う。

誰にとって「ちょうどいい」?

だから「書籍」という限られた人だけの世界にいて、「ちょうどいいブス」を恋愛指南の味付けとして提供しているうちは問題なかった。だが、「テレビ」は不特定多数の世界。それを「ちょうどいいブスって、キャッチーだよね」くらいのノリで(多分)、同じタイトルにするのは無謀過ぎた。誰だって「ブス」をからかうドラマだと思うだろう。女性をめぐる昨今の状況を理解していたら、この流れは予測可能だったと思うが、どうだろう。

MeToo

アメリカから始まった#MeToo運動が少しずつ日本でも女性たちが声をあげるきっかけになっている。

REUTERS/Lucy Nicholson

Business Insider Japanも当然、ドラマ、原作の両方を厳しい論調で取り上げていた。

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「ブス」に「ちょうどいい」が付いたことも、批判の元凶となった。芸人同士なら「わかる、わかる」になるだろうが、外の世界に出ていけば「誰にとってのちょうどよさか」という疑問を招く。さらにそれを「ススメ」たのだから、「男性にとって都合のいいブスになれ」というドラマで本だと思われてもしょうがない。

ただし、山﨑さんは「男性に都合のいいブスになりましょう」とは言っていない。「モテ」というゴールを定め、それへの近道が「ちょうどいいブス」で、そうなれば「美人に勝てる」。そういう論理のもと、勝つためのハウツーを説いている。

最初に書いたが、山﨑さんはまじめな人だ。「お笑い」と「まじめ」は、ベクトルが違う。勝手ながら、芸人としては苦労したろうな、と想像する。そんな中、彼女は「ちょうどいいブス」という言葉と出合い、それを使うことで場所を得た。恋愛指南も、使い方の一つ。

空のトイレットペーパーは「美人の仕業」

山﨑さんと吉本興業で同期だという「尼神インター」の誠子さんが、本の中で山﨑さんと対談、こう言っている。

<ケイちゃんがすごいと思うのは、単にブスいじりを受け入れてるだけじゃなくって(中略)ビジネスブスやりつつ、プライベートでは女あきらめてへんっていうのがものすごい上手やと思うわ。>

ビジネスブス。お笑いという圧倒的男性優位の社会の中、山﨑さんはビジネススキルとして「ブス」を使っているという指摘だと理解した。

女性

『ちょうどいいブスのススメ』。あなたならどう読む?

撮影:今村拓馬

「ちょうどいいブスのススメ」バッシングの中で、「ブスはトイレットペーパー、換えろってこと?」という批判があった。 「ちょうどいいブスがやるべきことは?」というタイトルの文章の中に、「ブスでトイレットペーパーを換えない人っていうのは、人として終わってる」とあって、これだけ読めば叩かれても当然だ。だが、その直前のこの文章を読むとだいぶ印象は変わると思う。

<トイレットペーパーが空のまま放置されている、そんなシチュエーションに遭遇するたび私は思うんです。「これは美人の仕業だ」と。>

トイレの洗面台に長い髪の毛が落ちているのを見ると、「ロングヘアーの躾のなってない美人」が犯人だと思う女子、多いと思う。『ちょうどいいブスのススメ』はこんなふうに「女子あるある」本でもある。

「ブス」「ちょうどいいブス」「美人」という女子3分類が山﨑テイスト。

だから山﨑さんが目指すべきは、ドラマでなく「アメトーーク!」だと思う。「相方大好き芸人」や「人見知り芸人」のように「ちょうどいいブス芸人」の回ができたら、「美人はトイレットペーパー交換しないっすねー」など「あるある話」を存分に展開してほしい。

腕前が要求される。「ビジネスブス」の真価が試されるのは、その時だ。

矢部万紀子(やべ・まきこ):1961年生まれ。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、「AERA」や経済部、「週刊朝日」などに所属。「週刊朝日」で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長を務めた後、2011年退社。シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に退社し、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。

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