WHILL自動運転車いす試乗「サービス提供はヒースロー空港などで協議中」杉江社長ら語る

WHILL_Automonous_mobility-1-1

撮影:伊藤有

WHILL_Automonous_mobility-5

WHILLの代表取締役兼CEO・杉江理氏(右)と、同・CTOの福岡宗明氏(左)。

日本のスタートアップ、WHILLが開発した「WHILL自動運転システム」が、「CES2019 イノベーションアワード」を受賞した。

WHILLは2012年の設立以来、「パーソナルモビリティ」としての次世代電動車いすの開発に取り組んできた。2014年に最初の製品である「WHILL Model A」、2017年に普及価格帯の「Model C」を発売し、個人向け市場で順調にビジネスをやってきた。CES2019会場でも、実際にModel Cに乗って会場をまわっている人に遭遇したほどだ。

だが、WHILLは2019年、シンプルな個人向けビジネス以外に、B2Bを志向した「MaaSプラットフォーム」で勝負した。なぜプラットフォームビジネスを狙うのか? パートナーとなる事業者はどこなのか? WHILL・代表取締役兼CEOの杉江理氏と、同・CTOの福岡宗明氏に直撃した。

画像認識とLiDARで「自動衝突回避」、空港で自由に使える電動車いすを目指す

WHILL_Automonous-7

WHILLがCES2019の出展ブースでデモを行った「WHILL自動運転システム」。

撮影:伊藤有

WHILL

CES現地でのWHILLのデモ。試乗ポイントまでの車両移動は完全な自動運転。現時点は自動での人の搭乗では、加減速制御が荒削りなため、人が乗る際は衝突回避のデモとしていた。

撮影:伊藤有

イノベーションアワードを受賞した「WHILL自動運転システム」とは、WHILLの電動車いすをベースに、空港などのパブリックスペースで利用するために必要なシステムを搭載したものだ。

空港などで移動のために、現地備え付けの車いすなどを使って移動する人は多い。そうしたものに現在のテクノロジーを加え、より便利にするのが狙いだ。

想定としては、スマートフォンでWHILLを自分がいる場所まで呼び、入り口など特定の場所から乗る。現地のデモで体験できたのは、目的地から目的地への「完全自動運転」というより、ジョイスティックを使った能動的なものだ。ただし、空港のように人の多い場所で使っても事故などが起きないよう、車体の周囲に人やモノが近づくと、それを認識して止まる仕組みが内蔵されている。

初めて乗った電動車いすでは、操作に不慣れでなにかにぶつかってしまいそうになりやすいが、衝突回避の仕組みがあるので、安心して操作できる。

WHILL_Automonous_mobility-2-1

乗った状態。操縦は右手側のジョイスティックで行い、情報は左手側のディスプレイに表示される。

撮影:伊藤有

WHILL_Automonous_mobility-2

操作用のスティック。非常に軽く出来ていて、スムーズに操作できるのが特徴。

WHILL_Automonous_mobility-3

周囲に障害物や人を見つけると自動停止。最高速からでも安全に止まれる。

前方の確認用には左右に配置したカメラを使い、後方確認には、レーザーを使ったセンサーである「LiDAR」を使っている。CTOの福岡氏は次のように解説する。

「360度すべてでの衝突回避を目指しています。前方にLiDARでなく画像系のセンサーを使ったのは、水平方向だけでなく、垂直方向の凹凸も検知するためです。机など、高さによって飛び出し方が異なるものがかなりあるので、ステレオカメラで検知するのが良い、と考えました。LiDARは水平のみの検知である場合が多く、垂直方向も検知できるものを搭載すると、どうしても高くなってしまいます。ですので、背後からの衝突を検知すればいい背面にはLiDARを選ぶ形で使い分けています」(福岡氏)

電動ということでバッテリー動作時間などが気になるところだが、デモ機でそれを気にするのはあまり意味がなさそうだ。

「バッテリーの容量や走行可能時間は、導入する場所によって変わると考えています。バッテリーを入れ替え式にすることもできるでしょう。どちらにしろ、閉鎖空間での利用なので、十何時間も連続動作させることは考えていません」(福岡氏)

まずは空港向け、プラットフォーム化の目的は「パートナーを広げる」ため

WHILL_Automonous-1

前方の環境認識に使うステレオカメラはアームレストに内蔵している。障害物を認識すると、カメラの周囲が赤く光る。

やはり今回の発表のポイントは、「特定のロケーションに合わせ、最適化した電動車いすを提供する」というところにある。

同社では、展開の段階を3つに分けて考えている。

まずは「ハードウエアの提供」。空港などに大きなビジネスを持っていて、自動運転のソフトウエア開発が行えるノウハウもある人々に、ハードウエアとそのメンテナンスを提供する。

次に「ハードとソフトの提供」。規模の小さな公共施設や遊園地、ショッピングモールなどは、車いすの貸し出しや電源のメンテナンスなど、サービスのノウハウはあってもソフト開発は行えないところに、自動運転などを含むソフトウエアを組み込んだ機器を提供する。

そして第3段階が「すべての提供」。ハード・ソフトをセットにして、さらには現地での運用までをサービスとして提供するモデルである。

WHILL

WHILLのMaaS事業の実用化プラン(公式サイトより)。

ビジネスパートナーはあくまで「ロケーションの側」であり、そこに電動車いすを、「移動を助けるソリューション」として提供するのがビジネスモデルになる。その中で、パートナーがどのレベルでのサポートを必要としているか、ロケーションの中でどのような電動車いすが必要とされているのかを勘案し、自社が持つ技術をモビリティのためのプラットフォーム=MaaS(Mobility as a Service)として提供する、というのが、今回の発表の趣旨だ。

なぜコンシューマビジネスからMaaSという「プラットフォーム型」に移行するのか? 杉江氏は「B2Cを止めるわけではなく、両方をミックスしてやっていく。個人向けにももちろん、パーソナルモビリティの市場ニーズは多数ある」と補足したうえで、MaaS事業への熱意を次のように語った。

杉江氏:パーソナルモビリティの分野は、大企業が大々的に入っていくにはニッチです。ですからそもそもプレイヤーの数が少ない。一方で僕たちはパーソナルモビリティのためのハードウエアをずっと開発してきています。ハードウエアがあって、ソフトウエアも作れる会社というのは、そもそも世界に「ない」んですよ。


大学などで、電動車いすをハックして自動運転のソフトを乗せてみた、という例はありますが、ビジネスとして継続的に取り組んでいるところは少ない。唯一それができるのは僕たちだけなので、それは強みになるだろう、と考えたんです。

とはいえ、僕らだけで全部やろうとすると、競合が出てくる可能性もあります。

ですから、「ハードウエアだけでいい」というパートナーさんにはそういう形でもお応えしますし、「自動運転のノウハウはない」という方々には、ソフトウエアとセットでももちろん提供します。最終的には、運用まですべてお任せいただいてもいいです。


なにより重要なのは、そうすることで、僕たちが考えている世界をより早く実現させられる、ということです。そのためには、別にハードウエアだけの提供でもかまいません。

誰もがスマホとしてiPhoneを使うように、「誰もが安全に移動できる移動体」としてWHILLを使っていただければ、という風になれば、ということです。「空港での電動車いすの事業を制覇したい」とか、そういう話じゃないんです。


テーマパークなどなら、車いすのオペレーション機能はお持ちのはず。なら、そこはぜひやってください。その上で、我々のハードとソフトの技術をご提供します。

場合によっては、他の電動車いすに我々のソフトウエアを提供する、という形があってもいいかもしれません。協業相手を限定するつもりはありません。

現在は、2020年までの公道における自動運転を目指しています。パートナーとしてはまず空港を中心に、スキポール空港(オランダ)・ヒースロー空港(イギリス)・ラガーディア空港(アメリカ)などでの実用化に向けた協議を行っています。


CESのブースには色々な関係者に足を運んでいただけました。

「すぐにレンタルでいいので受注を」という話もありましたし、きわめて大きなポテンシャルを感じます。日本の方々にもお声がけしており、日本・海外、どちらの関係者からも良い反応をいただいています。


僕たちは「いかに安全で快適な乗り物を提供するか」ということをずっと考えてきました。そのためには、個人への直接の提供も重要ですが、空港などで便利に使えるものもあれば、みなさんがより自由に動けるようになるのではないか、と思うんです。

まずは空港向けですが、空港以外でもいいパートナーが見つかれば、すぐにでも取り組みます。アミューズメントパークや病院、スマートシティ、ショッピングセンターなどといったところでWHILLを使っていただけるようになれば、と思うのです。


そういった場所で、ご自身もそうですが、ご家族も一緒に、「移動の不自由さ」を気にすることなく、買い物なり旅行なりを楽しんでいただけたらな……というのが、我々の目的です。

(文、写真・西田宗千佳)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中