沖縄のもう一つ住民投票——自衛隊配備に揺れる石垣島。若者たちが訴える「話そうよ」

ハルサーズ

中山義隆市長から求められた面談でも、冒頭で署名運動テーマソング「話そうよ」を歌うハルサーズ。左から金城龍太郎さん、宮良央さん、伊良皆高虎さん/2018年12月6日、石垣市役所庁議室

沖縄県内では、辺野古米軍基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票の全県実施の行方が話題になっているが、石垣島ではもう一つ注目されているものがある。

島中央に鎮座する県内最高峰の於茂登岳のふもと、平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画への賛否を問う住民投票だ。地方自治法に基づく直接請求に向け、2018年10月31日から11月30日まで行われた署名運動で、1万4263筆の有効署名が集まった。有権者(3万8799人)の37%。50分の1の法定署名数776人の18倍である。中心となって運動を進めたのは農業青年ら若者たち。これまでの分断と対立という暗い影に、明かりをともしてくれた。

【石垣島への陸上自衛隊配備計画】防衛省が南西諸島の防衛強化を目的として計画するもの。石垣島では地対艦・地対空誘導弾部隊を含む500ー600人規模。2015年11月に発表された。中山義隆石垣市長は2016年12月に事実上のゴーサインとなる「諸手続きの開始」を了承、2018年7月に「協力体制の構築」を表明した。防衛省沖縄防衛局は2019年3月1日の一部用地造成の工事開始を予定している。

愛とユーモアで新しい風

話そうよ 話そうよ 今日の出来事 未来の夢/咲かそうよ 咲かそうよ 色とりどりの花 みんなの心に/

認めよう 認めよう あなたと違う人 あなた自身も/話そうよ 話そうよ 大切なこと 島のこと

2018年10月31日、石垣市住民投票を求める会(金城龍太郎代表)が「愛とユーモア」をスローガンに掲げ、市内の公民館で開催した「市民大署名運動会・開幕式~島に生きる、みんなで考える。大切なこと、だから住民投票~」。おそろいのTシャツを着用した10数人の若者が舞台に登場、会場に呼び掛けるように自作の署名運動テーマソング「話そうよ」を歌った。みんな楽しそう。

中心でギターを弾くのは、求める会代表の金城さん(28)。「島の意見を出すための住民投票。政治は世の中を動かし、未来を決める役割があるが、本当に島を動かすのは皆さんや僕たち市民だ」と宣言し、次のように語りかけた。

「お弁当を開けた時、まっ白いご飯だけ、もしくは同じおかずだけってどう思いますか。いろんな食材がたくさん入っているお弁当のように、島の意見もいろいろあっていいんだと思います。そのいろいろが混じり合い、共存できる魅力ある島を目指したい。そして未来の子どもたちがそのお弁当を開けたとき、わっと喜ぶ顔がみられるような島を、私たちがつくっていきましょう」

いろんな意見があっていい。それを認め合おう。そして最終的に民意を出そう。これが住民投票にかける思いだった。

開始式ではその後もコミカルなコントで署名を求める際の注意点などを紹介する動画、選手宣誓などユーモアあふれる内容が続き、会場はわきあいあいとした雰囲気。堅苦しいイメージのある市民運動とはまるで違う。「若者ならではだな」。新しい風が吹き始めたのを会場にいた誰もが感じとっていた。

民意置き去りに危機感

金城さんは地元の高校を卒業後、「世界平和に貢献する国際公務員」を夢見て米国南部のアーカンソー州立大学に留学した。卒業後はジョージア州アトランタにある日系の自動車部品商社に就職、営業マンとして東奔西走していたが、自分がつくっていないモノを売ることに違和感を覚えるように。

「そこで私は気づいた。私はモノをつくる側の人間なんだ。でも何を作れるのだろう。そうだ。小さいころから一番身近にあったもの。農業だ」

2014年6月、アメリカからUターン、父親のもとでマンゴー農家としての修行を開始した。

平得大俣への陸自配備計画が浮上したのは、その1年5カ月後の2015年11月。マンゴー農園から数百メートルの距離。隣接地の開南集落など4地区住民の大多数が反対の声を挙げた。

でも手続きは進んだ。

「イヤと言っている地域住民の声があるのに……。何か大事なものが置き去りにされているのではないか」

地域住民が声を大にして訴えているのに、手続きは加速する。そこで住民と市民有志が2018年10月13日、住民投票を求める会を結成し、最終手段に打って出た。

金城さんが代表に推挙され、「計画地に隣接し、一番身近に感じている人として、責任をもって前に立ち、伝えていく責務がある。若い人がやるしかない」と覚悟を決めた。

「あれが直接民主主義なんだ」

金城さんが代表に就くと、同じ農業仲間や同級生、先輩、後輩らが次々と運動に加わったり、ネット上で支援したり、共感の輪が広がった。

中心メンバーとなったのは、いずれも同級生の宮良央(なか)さん=白保=と伊良皆高虎(たかとら)さん=於茂登=だ。宮良さんは子牛を生産する畜産農家、伊良皆さんはハーブを生産加工するハーブティー農家。

宮良さんの住む白保は、かつて新石垣空港建設予定地となり、賛否をめぐって集落が二分された地域。辛い過去を見聞きしている。

宮良さんが島に戻った3年前、石垣市役所の新庁舎建設位置が関心事だった。市は、外部委員会の答申を受け、津波浸水区域内にある現在地での建て替えを計画したが、これに議会が「民意は反映されていない」と待ったをかけ、住民投票の実施を決めた。

結果は、浸水区域外にある高台の旧空港跡地に大差で決まった。現在、着工を間近に控えている。

「あれが直接民主主義なんだ。住民投票は右、左を問わず大事なものだと思った」

翻って陸自配備計画はどうか。

「果たして民意は問われてきたのか。民意を求めようという姿勢が感じられない」

実際、2018年3月の市長選で現職の中山義隆氏は態度を明確にしなかった。これまで真っ正面から民意が問われたことはなかったのである。

伊良皆さんも「周辺4地区の声が届かないし、なんだか4地区限定になっている感じ。島内でもちょっと離れているだけで温度差がある。島全体の問題なのに」と違和感を抱いてきた。

だから、みんなに想像してほしいと願った。配備先が市街地の近くだったら、子どもたちが通う学校の近くだったら、と。

「そうすれば、もっと身近な事として真剣に考えてくれるのではないか。大切なことだから」

若者たちが活動していた韓国

3人は「ハルサーズ」(ハルサーは農家の意)を結成、ライブハウスでミニライブを開いたり、カラフルなアフロヘアのかぶり物で署名を集めたりと、運動を牽引した。

若い女性も加わった。市街地から1時間ほど離れた石垣島最北部の平久保に住む掘井紗らさん(22)もその1人。

一昨年の夏、石垣島で行われた国際ピースキャンプに通訳ボランティアとして参加したが、石垣島での陸自配備問題を知らずに恥ずかしい思いをした。

これがきっかけで2018年8月、韓国政府が住民の反対を押し切って海軍基地を建設したチェジュ島に行き、帰りに辺野古に寄ったが、「チェジュ島では若者たちが活動していた」と年齢層の違いに衝撃を受けていた。しかし、知人の知人に誘われて署名運動開始式に参加したところ、「石垣島でも若い人たちが運動しているんだ」と意を強くした。

金城さんと同級生の石垣舞さんは、育児をしながらチラシづくりや動画編集に協力。「若い人が動くと島が楽しくなり、活気にあふれる。これ以外でも、いろいろおもしろいことができそう」とわくわくするような気持ちになった。

議会に委ねられた条例案

署名運動の閉幕式

署名運動の閉幕式で発表された署名数に拍手を送る人たち=2018年12月1日夜、石垣市の大浜公民館

署名運動を振り返って金城さんはこう語る。

「若い人が表に出て動くことができたと思う。なんでそれができたかと考えると、賛成、反対の立場にかかわりなく投票をしようという一点に絞り、力を合わせることができたからだと思う。また、自分たちのやり方をシニアの世代の方が受け入れてくれたのでバランスが良かったのだと思う。自分たちが楽しんでないと、受け取る側も楽しくない。自分たちが楽しまないと長く続かない」

求める会は2018年12月20日、中山義隆市長に直接請求を行った。中山市長は同25日、12月定例会市議会最終本会議に条例案と予算案を提出、両案件は総務財政委員会に付託され、1月中に審議が始まる見通しだ。住民投票が実施できるかどうかは議会の判断に委ねられたことになる。

条例案が可決されれば、金城さんら求める会は、1万4000人余りの思いに応えるため、シンポジウムなどを開催することにしている。これからが本番。島の若い人たちの率先した取り組みを、議会が止めてはいけない。

OKIRON2019年1月19日記事より転載

編集部より:初出時、「防衛省沖縄防衛局は2019年2月ごろの一部用地造成の着手を目指している」としておりましたが、「3月1日の一部用地造成の工事開始を予定している」に訂正致します。 2019年1月20日8:45

比嘉盛友(八重山毎日新聞記者):八重山毎日新聞記者。1970年沖縄県石垣市生まれ。八重山高校卒、桜美林大学卒。1995年八重山毎日新聞社入社。現在、八重山毎日新聞編集局次長。石垣市、与那国町、自衛隊問題、第1次産業などを主にフォロー。1面コラム「不連続線」を執筆担当。

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