社会課題解決はビジネスでできる【高岡ネスレ社長×安部リディラバ代表】

安部さんと高岡さん

社会課題解決をビジネスとして継続させるには。今回の対談は安部さん(左)たっての希望で、ネスレの高岡社長にその問題意識をぶつけた。

浜田敬子以下、浜田):今の20代では、お金よりも社会課題を解決するために働きたいという人が増えていると感じています。でも実際は、それを事業として継続的に行うのはなかなか難しい。今日はお二人には社会課題を実際にビジネスとして継続していくために必要なことをぜひ伺えればと思っています。

まずは安部さんから、ご自身の事業について説明してもらえますか?

安部敏樹以下、安部):「リディラバ」という団体の代表です。リディラバ はワークライフバランスや介護の問題から安全保障や選挙制度に関する問題まで、社会課題の現場を実際に訪れるツアーや『リディラバジャーナル』という社会問題に特化したジャーナリズムメディアを提供しています。ツアーでは現場を調査し、当事者と対話して理解を深めてもらえるようにしています。今は企業の研修の場や教育旅行としても使ってもらったり、移住のファーストステップとして自治体が使ったりしていて、ゆくゆくはあらゆる社会問題に関する情報の基盤になりたいと思っています。

社会課題と事業って本当はすごく相性がいいと思っていて。この活動を今後、継続させるためのヒントを高岡さんにぜひ教えていただきたいです。

高岡浩三以下、高岡):社会問題の解決を事業にするという考えには賛成です。そこに機会はたくさんあると思いますよ。

安部:社会問題を事業で解決することに興味あるという人は結構いて。でも、どうしても「リディラバさん、頑張って」というスタンスになりがちで、最初の小さなアクションとか、習慣化された何かの行動とかまで昇華しきれていないという課題があったんですよね。だから、リディラバの支援者の方にすごく小さいけど動いてもらいたいと思ったんです。

安部さん

その時に参考にさせてもらったものの一つが、ネスレの「ネスカフェ アンバサダー」。マシンを貸すことでコミュニティーができたって聞いて、うちでも、支援者が理念に共感して自分が行動する側になっていってもらえる仕組みをつくろうと思ったんです。

リディラバジャーナルは購読者さんのお金で成り立っているメディアなんですが、読んでほしい記事を周りの人に無料でシェアできる仕組みにしたんです。購読者の人が周囲に関心を持ってほしいなと思う記事だったら、それは無料でどうぞって。だから極端な話、購読者が一人いたら、本当はもうお金を払う必要がないんだけど、価値観を共有してくれていることで事業になる。まさにネスレが打ち出している「CSV(共通価値の創造)」、バリューをシェアしようってことだなって思って。

高岡:それは嬉しいね。

日本では社会貢献活動と利益を追求する民間企業の事業は別のものと捉えられている。ただ、企業は社会に貢献すべきだとは思っているから、寄付や慈善事業は行う。でもそれだと、対象の人に対しては何らか講じられるけれど、それ以外の人には何もできないという、ある意味不公平が生まれる。業績が悪くなった途端にやめるのも無責任。

事業の中で社会的問題を解決する方法とストラテジーを考え、うまくいけば利益も上がる。これが、私が尊敬するネスレの前会長、ピーター・ブラベック-レッツマットが打ち出したCSVという概念です。これをね、いまだに多くの日本の経営者がわかっていないんですよ。

最近、「SDGs(持続可能な開発目標)」が話題になってるけど、それはここ数年で国連がつくったものでしょう。もっと前からネスレではCSVを実践して成功してきているんです。

CSVの祖が生み出した20年続く右肩上がりの戦略

高岡さん

高岡:ピーターは理論的なものの見方と、イノベーティブな発想をしたんです。ネスレの新興国での販売戦略は彼が作ったんですが、すごく安い値段で、栄養や味はいいものを作らないといけない、と。結果、新興国でものすごく売れた。ここ20年間ずっとネスレがグローバルで右肩上がりだったのは、新興国での成長が大きな理由です。

本当のイノベーティブな戦略って10年でも20年でももつんです。私は彼を見習って、リーダーは理論や戦略を自分で構築しないと勝ち続けられないとわかった。ネスレ日本で相応のポジションについてからの20年間、右肩上がりです。

安部:20年続く戦略ってすごいですね。

高岡:その実績があったからイノベーションとは何かという、自説を持てたんです。イノベーションとは顧客がわかってない、もしくは気付いていない、あるいは諦めてしまっている問題を解決すること。それ以外は全部リノベーションなんです。

うちはコーヒー屋で、20世紀は味や香りをよりよくすることをやってきた。これはリノベーション。でもどの企業も突き詰めてきて、そこでは大きな差が出なくなってきたから、どこも売れなくなった。

課題解決とビジネスの基本「問題のブレイクダウン」

高岡:そこでイノベーションするために、一歩引いて社会的な問題を考えてみた。日本では急激に高齢化社会が進んでいます。私も娘が結婚して家を出て、家内と2人暮らしになった。20年後にどちらかが亡くなって一人暮らしになったら、子どもは心配する。そういうときにうちにできることはないか。お、ちょっと待てよ。各家庭にネスレのマシンがある。それをつないで、マシンのボタンを押した瞬間にスマホにサインが届くようにすれば、「今日も親父やお袋は元気にコーヒーを飲んでるな」という安否確認にもなる。そうすれば喜ばれるんじゃないか。結果、これが大ヒットしたんです。事業的にも1家族で2台買ってもらえる。

高齢者

高齢者の一人暮らしに対して、ネスレとして何ができるのか。

Shutterstock

安部:お子さんからしたら、親が日常生活を今日も送れている、という安心感が欲しいですもんね。その一つの接点がコーヒーメーカーを使った瞬間だというのは面白い。社会問題って、さまざまな要因が絡み合っている。だからこそ、問題のブレイクダウンを丁寧にやると、事業にもつながるんですよね。

例えば、家庭と絡めた例を挙げると、刑務所の問題があったりします。今の日本って刑務所からの満期出所者のうち、2人に1人が5年以内に再び刑務所に入るんです。捕まらない人もいるんで、確実に半分以上の人が犯罪に再び手を染めていて、全然更生施設の役割を果たしていないですよね。そうなると当然、刑務所の改革をしないといけない。でも、話をよく聞いていくと、彼らのほとんどが一人親家庭とか家庭になんらかの課題を持っていたりするんです。出所者がすぐに犯罪を起こすことが問題だと思われているけど、背景に家庭の問題がある。だから、家庭の問題を解決できれば、関係ないように見える刑務所の問題も解決する可能性が高いんですよね。

高岡:なるほどね。

安部:ビジネスでも個別要素だけで解決しようとすると限界がある。今ネスレがやっていらっしゃることは問題と問題をうまくつなぎ合わせている気がしますね。

事業はすべて「問題発見能力」で決まる

高岡:私は事業をするときに一番大事なのは問題発見能力だと言っています。もう、それがほとんどすべて。

安部:めちゃくちゃ同感です。

高岡:安部さんみたいな起業家の人たちって、なんらかの影響で問題発見能力を持ち合わせている。だから成功できる。それ、東大では教えていないでしょう?

安部:(笑)。そうですね。

高岡:偏差値と仕事ができるかできないかには、そんなに相関関係はない。要するに物事の本質を考えられるかってことが大事。

安部さんと高岡さん

浜田:なぜ安部さんは問題発見能力が身についたと思いますか。

安部:いくつか要素があるんですけど、19歳から24歳まで、毎年、夏と冬に1カ月ずつオーストラリアとギリシャでインドマグロと本マグロを獲ってたんですよ。

高岡:ほーっ。

浜田:なぜマグロ漁船に?

安部:14歳で母をバッドで殴って複雑骨折させて絶縁されて。親父は前年に家を出てて。それで親元を離れて、横浜駅前でいつもたむろして、悪いと言われることは大体やったんです。常にナイフを4本とか持ち歩いてたし。

もろもろあって、ばあちゃんのところで暮らすようになって高校にも通うようになって。でもずっと学年最下位。高校3年の春、当時、流行ってた『ドラゴン桜』を友達から渡されて、「これでお前が東大に入ったら伝説になれるぞ」って応援してもらって。それでむちゃくちゃ勉強して東大に入れた。

でも、入ってみたら何にもすることがない。じゃあ、次の目標も漫画で探そうと。『ONE PIECE』のルフィが海賊王を目指しているから俺もそうしよう、と。でもソマリアの海賊がロシア海軍にロケットランチャーで撃ち落とされる動画を観て、これは辛いかも、と。で、マグロです。

高岡・浜田:へーっ。

安部:オーストラリアではマグロを手で獲るんですよ。尻尾をばーんと抑えて、手を離すとエラが開くから、弁に手をがーんと入れて、尻尾をつかんで船に上げる。これ、オーストラリア人が考えた方法です。彼らは全世界の高級マグロマーケットの3割くらい持ってるらしいんですよね。

一方、日本ではマグロを獲ってきて外海で大きくするという手法を開発したのに、最後、網で獲るか釣り上げるかを悩んで。網だといっぺんに1000匹くらい獲れて、魚が暴れて身が悪くなる。釣りだと効率が悪い。「どっちも難しいね」って言ってたのが日本人。「手で捕ってみようぜ」ってやってみたのがオーストラリア人。結果、オーストラリア人の圧勝。この、めちゃくちゃシンプルに考えるというところに感銘を受けまして。とにかく、やってみるってことが大事だな、と。

高岡本質的によくよく考えて、そして行動を起こす。それしかないんだよね。

安部:そうなんですよ!

新規事業コンテストは「献立アプリ」ばかり?

浜田:「いいことをしてる=儲けてはいけない」という意識がまだまだNPOには強いように感じます。でもそうするとなかなかいい人材が集まらない。

安部:本当は日本のNPOだって儲けていいんです。やっちゃいけないことは株主配当と解散時の財産分与。これを除けば投資もいいし、優秀な人材を集めるために役員報酬を10億円払ったっていい。もっと言うと、営利事業と非営利事業とを分けて、営利事業で出た利益を税制の控除を利用して非営利に突っ込める。仕組みはかなりうまくできてるんです。ただ、ガバナンスに関してはまだ歴史が浅いところがありますけどね。

高岡:ノンプロフィットという言葉に惑わされてるよね(笑)。

安部:リディラバは社会問題を解決するために、社会にインパクトを与えて一定の収益をあげて、事業を継続していかなければならない。社会の啓発を事業にしているという意味では、長期的な視点でライバルは国連になるんですよね。ということは、将来的には国連と人材の奪い合いをする可能性がある。実際、「プリンストン大です」「コロンビア大です」って人が採用試験を受けに来ている。

社会問題を解決するためにどこもいい人材がほしい。そもそも本来的にはNPOと企業はどっちが早く社会問題を解決できるか、どっちがより大きなインパクトを出せるかというある種の競争関係にある。でも、企業側に自覚がない。

国連

「将来的には国連と人材を奪い合う可能性がある」(安部さん)

GettyImages

浜田: NPO側にもないですよね。

安部:双方とももっとそこを意識して切磋琢磨していけば、より早く社会課題は解決できると思っています。

実は、最近は企業からは新規事業を一緒にやりたいという問い合わせが多いんです。新規事業の社内コンテストをやると献立アプリみたいなのばかり出てくる。社会全体に対するアンテナがめっちゃ低いから、自分の身近なことしか思い浮かばない。未来の社会がこうあるべきというより、今の、自分の身近な困りごとしか見ないからちまっとしたことしか発想できない。

僕は、企業って社会と自分の間にある“道具”だと思うんです。企業を使えば、個人じゃできないことに関しても社会にインパクトを与えられる。でも今、ほとんどの人にとって会社は、「社会と自分の間」にはなくて、「会社と私」「社会と私」って別々になっている。上手に社会と私の間に会社を差し込んでいかないと、なかなか事業と社会性がつながっていかない。

建前になっているSDGsやCSV

安部さん

浜田:今、企業では「SDGsやCSVが大事」「社会問題の解決がミッション」と言っていますが、実際のところはいかがでしょうか?

高岡根っこのところでいうと、どこもできていませんね。

うちの場合、ネスカフェ アンバサダーも、社内での表彰制度「イノベーションアワード」も、消費者一人ひとりに応じた健康習慣を提案する「ネスレ ウエルネス アンバサダー」も、僕が考えて手掛けました。発案者が最後までオーナーシップを持ってやらないとイノベーションは続かない。本当にSDGsやCSVをやるためには、トップが10年くらい継続して土台をきっちりつくらないとだめなんです。日本のように社長の任期が短いとそれは難しい。

安部:今年の新卒採用のとき、企業はみんな「SDGsやCSVが大事」って言っていたらしいですね。でも学生たちは建前だってわかってる。逆に学生から「具体的に何をされているんですか?」って聞いても、「うーん」ってなるそうなんですよ。そうすると学生は企業に見切りをつける。企業の人材戦略の観点からも厳しい状況になっていきますよね。

高岡:企業のトップが強烈なメッセージを発しないと変わらないでしょうね。

安部:トップに自信がないとできないですね。高岡さんは、自信がなくなることはないですか?

高岡:どっちかっていうと、自信過剰かな(笑)。

安部:同じタイプですね(笑)。勝手に、見てる世界が近いんじゃないかって思いました。今日は貴重なレクチャーをありがとうございました。今度、飲みに連れてってください。

高岡:ぜひ行きましょう。

安部さんと高岡さん

(構成・宮本由貴子、写真・竹井俊晴)

安部敏樹(あべ・としき):一般社団法人リディラバ代表理事。東京大学大学院博士課程(脳と社会のインタラクション)在籍中。1987年京都府生まれ。2006年東京大学入学。在学中にスタディツアーを提供する「リディラバ」設立。KDDI∞ラボ最優秀賞など、ビジネスコンテスト受賞歴多数。現在、東京大学教養学部にて講義を担当。

高岡浩三(たかおか・こうぞう):ネスレ日本代表取締役社長兼CEO。1983年神戸大学経営学部卒業、ネスレ日本入社。「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させるなど、新しいネスカフェ・ビジネスモデルを構築。新しいビジネスモデルを追求しつつ、超高収益企業の土台を作り上げた。主な著書に『ゲームのルールを変えろ』など。

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