2019年1月16日、横浜市内の役所に1組のレズビアンカップルが婚姻届けを提出した。会社員の中島愛さん(40)とドイツ人学生のバウマン・クリスティナさん(32) だ。実は2人が婚姻の手続きをするのはこれが初めてではない。
ドイツでできたことが日本ではできない
ドイツで同性婚をした2人。
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中島さんとバウマンさんが出会ったのは2011年。中島さんが仕事でドイツを訪れたのがきっかけだ。その後、中島さんの出張は駐在に切り替わり、2人は交際を開始。
ドイツで2016年8月に同性パートナーシップを、2018年9月に同性婚の手続きをした。
当時すでに中島さんは駐在を終えて帰国しバウマンさんと日本で同棲を始めていたが、
「今後のことを考えると、カップルである証明が何もないのは不安だなと思って」(バウマンさん)
日本はいまだ同性カップルは結婚できず、2人が住む横浜市にはパートナーシップ条例もない。
特に不安だったのは、お互いが病気になったときのことだ。ドイツで暮らしていたとき、バウマンさんが緊急搬送されたことがあった。病院は中島さんのことを「パートナー」として扱い、中島さんは病室に自由に出入りすることはもちろん、医師からの説明も中島さんとバウマンさんと2人で受けることができた。
「日本ではこんな対応はしてもらえないはず。LGBTQに対する法整備が遅れていると病気など緊急時も不安ですし、ティナさんは今は留学ビザで滞在しているのですが、婚姻関係になれば配偶者ビザでより手厚い支援が受けられるようになる。将来的には子どもも欲しいと思っているので、養子縁組などの法的な手続きのことを考えてもやはり日本でも同性婚ができたらいいなと思いました」(中島さん)
2019年2月、同性婚を求めて国を訴える全国初の訴訟が始まる。同性カップル10組が原告で、中島さんとティナさんはそのうちの1組だ。
女性が2人で胸を張って生きていける社会にしたい
横浜市内の役所で婚姻届を提出した中島愛さん(写真中)とバウマン・クリスティナさん(左)。
撮影:竹下郁子
中島さんたちが提出した婚姻届は当日中には受理・不受理の回答はなく、後日、郵送で結果が送られてくる。
現在、民法の規定が男女の夫婦を前提としているとされ、同性カップルが婚姻届を提出しても受理されていない。これまで原告のうち2組のカップルが婚姻届を提出しているが、いずれも不受理となっており、各自が役所からもらう不受理の証明書は「法の下の不平等」を主張する根拠の一つとして、裁判の証拠に提出する予定だ。
今回の同性婚訴訟はゲイとレズビアンカップルが原告になっている。もともと男女間には賃金格差があるため、レズビアンの中には経済的な困難を抱えている人も少なくない。
「日本はそもそも女性の地位が低いですよね。独身女性は『おひとりさま』と揶揄されますが、レズビアンカップルはさらに弱い立場にあると感じています。早く女性が2人で胸を張って生きていける社会にしたいんです」(中島さん)
法律の整備がそれを後押しするはずだ。
収入が少なく、住宅探しに苦労するレズビアンカップル
2人の自宅。家事分担をたずねると「掃除は6割、私が担当」という中島さんに「そんなことない!」とバウマンさん。
撮影:竹下郁子
中島さんたちはレズビアンの女性たちと集まり、悩みを共有する機会を頻繁に設けている。最も多い相談は、住居を購入したり借りたりする際に偏見などで苦労することだ。特に収入が少ないレズビアン同士だとなおさら難しいという。中島さんたちは現在、中島さんの名義で購入した分譲マンションに住んでいるため、どのような手続きを取ったのか、またどんな会社でローンが組めるのかなどの情報を提供したりしている。
電通ダイバーシティ・ラボが2019年1月10日に公表した「LGBT調査2018」によると、「同性婚の合法化」については「賛成」「どちらかというと賛成」という回答は計78.4%に上った。調査対象は全国約6万人(20〜59歳)。
世論は確実に変わってきている。司法はどうか。
(文・竹下郁子)