日本でも街には多くの広告が溢れているが、どの広告がどんな人にどのぐらい見られているかは不明瞭だ。
撮影:今村拓馬
NTTドコモと電通は1月16日、広告事業を展開する新会社「LIVE BOARD(ライブボード)」の設立を発表した。出資金総額は50億円で、出資比率はNTTドコモが51%、電通が49%。代表取締役社長には電通の神内一郎氏が就任する。
どんな人がどのぐらい見ているか分からない
日本は諸外国に比べてDOOHの比率が低い。
ライブボードが扱うのは、OOH、とくにDOOHという種類の広告だ。
そもそもOOHとはOut Of Homeの略で、街頭広告など家から出た際に触れるすべての広告のことを指す。さらに、DOOHとはDigital OOHの略で、OOHの中でもデジタルサイネージを使った広告のことだ。
神内氏はライブボードの立ち上げ理由について、諸外国に比べてOOHのオーディエンスデータが未整備である点を挙げている。
テレビCMやインターネット広告を含め、広告主は自社のPRをする上で、広告を載せる媒体に性別や年齢層、趣向など特定の人がどのぐらい集まっているかで、出稿先を検討・比較している。
海外ではOOHがどのぐらい有効なのか。他の媒体とも比較できるよう整備されている。
この“どんな人がどのぐらい見ているか”を調べることを、広告業界では「オーディエンス測定」などと呼び、その手法について諸外国ではすでにグローバルで共通したガイドラインが策定されている。
一方、日本においてはOOH自体は多くあるものの、オーディエンス測定が共通化されていない。さらには、OOHの空き状況などもその媒体の所有者に個別に確認をとる必要があり、スピーディーな広告展開ができない状況にある。
ドコモの統計データと会員情報を活用
ライブボードでは、NTTドコモの「モバイル空間統計」と「会員基盤」を活用する。なお、活用される情報は個人が特定できない匿名化もしくは利用に関して本人の明確な同意を得たもののみを利用するという。
ライブボードは、NTTドコモのアセットと電通の広告ノウハウを使いこれらの問題を解決し、日本初のインプレッション販売型(その広告がどのぐらい見られたか)のDOOH事業を立ち上げる。
まず、オーディエンス測定についてはNTTドコモの「モバイル空間統計」などのデータを活用する。モバイル空間統計とは、同社の基地局がリアルタイムに持っている匿名データを元に、特定の範囲に性別や年代ごとにどのぐらいの人が集まっているかを集計できるものだ。
これにより、その広告が曜日や時間帯によってどんなターゲットにどのぐらい見られるのか把握でき、DOOHであるため広告効果が一番高いと予想されるタイミングに表示させることも可能となる。イメージとしては、インターネットのバナー広告などのリアル空間バージョンといった具合だ。
ライブボードのロードマップ。
さらに、DOOH事業がある程度安定化した後の話にはなるが、NTTドコモのdアカウント・dポイントを中心とした会員基盤の活用、スマートフォンとの連携も検討されている。これも新しい広告効果を測定する方法となる。
例えば、ライブボードの管理するDOOHを見たと思われる人にプッシュで別の広告を配信するリターゲティング広告への活用や、DOOHが見た人がどのぐらいその広告の商品を買ったかといったような効果測定に使われることが想定されている。
5Gの優位性を使った広告も検討中
次世代通信規格「5G」の活用も検討している。
また、NTTドコモとしては9月から法人向けのプレ運用、2020年春から本格始動となる新通信方式「5G」の活用法の1つとしても検討。従来方式と比べて高速、大容量、低遅延である5Gの特徴を活かしたリアルタイム性があり、高画質な広告配信が可能となるという。
なお、ライブボードの設立は2019年2月を予定。神内氏はDOOHにまつわる国内市場について「1兆1000億円のマーケットサイズがある」としつつ、「設立から2〜3年で200〜300面を獲得したい」と目標を語る。より効率的な現実世界の広告配信方法という側面だけではなく、5Gの有効なユースケースとなるか期待が高まる。
(文、撮影・小林優多郎)