日産・ルノー問題で始まった仏政府の波状攻撃——仲介役ゴーン氏を見切り

フランス政府が日本政府関係者に対し、共同持ち株会社方式を軸にルノーと日産自動車を経営統合する意向を伝えたことが報道などで明らかとなった。

ルノーと日産の会社ロゴ

「ゴーン容疑者が起訴され、有罪になるか、もしくは無罪になるかわからない。しかし時間がかかることは間違いない。仏政府はそんな人物に経営統合を委ねている暇はないということなのだろう」(関係者)(写真は2019年1月、フランス北東部サン・タヴォルで撮影された両社の看板)

REUTERS/Christian Hartmann

筆者は昨年、カルロス・ゴーン容疑者がルノー最高経営責任者(CEO)を続投することになった際、「これは単なるトップ人事ではなく、仏政府がルノーと日産の一体化を進めるという意思表示だ」と書いたが、いよいよフランス政府が前面に立つことになった。

関連記事:ゴーン逮捕はなぜ今なのか——ルノー・日産の経営統合との関係は

仲介役のゴーン氏に見切り

そもそも仏政府は2015年頃からルノーと日産の経営統合を求めてきた。それがはっきりとした形で表面化しなかったのは、ゴーン容疑者が仏政府の意向に猛反発していたためだ。

ところがゴーン容疑者はルノーCEO続投と引き換えに、仏政府の意向に従うことにした。それがゴーン続投の真相であると指摘したのである。

しかし、仏政府の当初のシナリオは崩れた。ゴーン容疑者が逮捕されたからだ。事実上のエージェントを失った仏政府は混乱、一時は思考停止に陥った形跡がある。逮捕を契機に日産と三菱自動車がゴーン容疑者を解任したのに対し、ルノーの筆頭株主である仏政府はゴーン容疑者のCEO続投を容認した。

しかし、立て直しは早かったというべきだろう。報道によると、仏政府はゴーン容疑者のルノーCEO解任に舵を切ったという。これと前後して経営統合の意向を日本政府関係者に伝えた。

国家間問題に格上げしたい仏政府

ブリュノ・ルメール(Bruno Le Maire)経済・財務相と世耕弘成・経済産業大臣

2018年11月、パリで開かれた会合に出席するブリュノ・ルメール仏財務大臣と世耕弘成・経済産業大臣。

REUTERS/Charles Platiau

つまりゴーン容疑者を仲介役にしてきたこれまでの戦略には見切りを付け、仏政府が経営統合を進めるという新たな戦略に出たわけだ。

「ゴーン容疑者が起訴され、有罪になるか、もしくは無罪になるかわからない。しかし時間がかかることは間違いない。仏政府はそんな人物に経営統合を委ねている暇はないということなのだろう」

と関係者は言う。

注目しなければならないのは、前面に出てきた仏政府のスタンスだ。単にルノーの筆頭株主という立場なら、今後の交渉相手はあくまで日産。しかしそうではあるまい。仏政府は国家間の問題に引き上げようとしている。傍証はいくつかある。

一つはフランス司法当局の動きである。仏司法当局は1月11日、2020年の東京五輪・パラリンピックの招致活動を巡り、招致委員会の理事長だった竹田恒和日本オリンピック委員会(JOC)会長が汚職に関与した疑いがあるとして、本格捜査に乗り出した。

各メディアは確証がないから「仏政府によるゴーン容疑者逮捕の報復措置かもしれない」と可能性を指摘するにとどめているが、これが仏政府による「そっちがその気なら、こっちにも考えがある」という動きであることはほぼ間違いない。それはこんな話があるからだ。

エマニュエル・マクロン仏大統領

2019年1月、フランス南部で開かれた会合で多くの市長たちを前に演説するマクロン大統領。

Ludovic Marin/Pool via REUTERS

仏司法当局が竹田JOC会長の本格捜査に乗り出すとした1月11日、仏西部のブレストで日仏の外相・防衛担当閣僚協議会(2プラス2)が開かれた。同会合に出席した河野太郎外相と岩屋毅防衛相はその後、仏大統領を表敬訪問している。

その場でのやり取りは公になっていないが、関係者によるとマクロン大統領は日産・ルノー問題に言及した。

「マクロン大統領は罪を犯したのかはっきりしないのに長期間勾留するというのは如何なものか。日本は『推定有罪の国』なのかと言った。河野外相も岩屋防衛相は黙って聞いているしかなかった」(前出の関係者)

日本政府は「国の介入はあり得ない」

話を整理しよう。マクロン大統領がゴーン容疑者の長期勾留を非難したその日に、司法当局はオリ・パラ招致疑惑で本格捜査に乗り出すことを明らかにした。その1週間後に日産とルノーの経営統合を持ちかけている。

日産とルノーの経営統合問題がくすぶっている最中にゴーン容疑者は逮捕された。国策捜査ではないのかという批判に、日本政府は「民間企業の経営問題に国が介入することはあり得ない」と主張、経営統合問題と逮捕は無関係だという立場を取り続けている。

そんな日本政府=経済産業省に仏政府は波状攻撃を仕掛け、リングに上げようとしている。経産省はいつまでも「知らぬ顔の半兵衛」を決め込んではいられまい。

悠木亮平(ゆうき・りょうへい):ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。

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