「日本一画数の多い漢字」を使う店はラーメン屋 ── アドビが東アジア共通フォントを開発する理由

ビャンとタイト(オトド)

アドビとグーグルの共同開発で生まれたフォント「源ノ角ゴシック」に収録された、日本最大級に画数の多い漢字「ビャン」(写真上)、「タイト(オトド)」(写真下)。

出典:アドビ

「日本一画数が多い漢字は?」

この質問にスムーズに答えられる人は多くないだろう。さまざまなクリエティブツールの中で、フォントライブラリーも提供するアドビによると「タイト(雲を3つの下に龍を3つ書いたような字)」が84画で日本最多画数の漢字とのこと。

Adobe Fonts

Adobe Fontsは、同社のCreative Cloud製品を契約していれば、1万5000種類を超えるフォントが追加料金なしで利用できる。

出典:アドビ

アドビは2018年11月、オリジナルフォント「源ノ角ゴシック」(Source Han Sans)のバージョン2にこの「タイト」と、57画の「ビャン」を追加している。

では、日本最多画数の漢字は一体どこで活用されているのか。どちらの漢字も、現状ではOS標準のIMEでは読み仮名からの変換はできず、特殊な方法を使って入力する必要があるなど、かなり“敷居の高い漢字”となっている。

しかし、源ノ角ゴシック登場前から日本でこれらの漢字を使っている店舗があるという。そこで、アドビによる紹介のもと、実際の漢字を使っている2店舗に行ってみた。共通項目はなんと「ラーメン」だった。

「ビャン」唯一の利用例は、西安発祥のビャンビャン麺

西安麺荘 秦唐記

東京都中央区にある「西安麺荘 秦唐記」。

「ビャン」という文字はそもそも日本の常用漢字ではない。もっと言えば、中国でさえ全く常用されていない。アドビによると、確認できる限り、唯一使われているものは、西安(シーアン)で広く食べられている麺の一種「ビャンビャン麺」とのこと。

そこで、最初に向かったのは2018年9月にオープンしたばかりで、東京都中央区にあるビャンビャン麺専門店「西安麺荘 秦唐記」だ。

ビャンビャン麺

店のメニューにも「ビャン」の文字。

ビャンビャン麺

店頭には「ビャン」の読み方や書き方が掲示されている。

ビャンビャン麺

こちらが店イチオシの「全盛り麺」(1050円)。メニューにあるヨウポー麺、トマト麺、ジャージャー麺の要素をすべて入れたもの。

ビャンビャン麺

ランチを除き、各メニューではビャンビャン麺の太さが選べる。今回食べたのは店で最も太い「ベルト麺」。

秦唐記の社長・小川克実氏は中国出身だが、自身も「ビャン」という字もビャンビャン麺も、現在も店で一緒に働く料理人から聞くまで知らなかったという。小川氏によると、「ビャン」の文字の由来は諸説あるそうだが、「ビャンという文字自体に意味はなく、あくまでビャンビャン麺のための文字で、麺を伸ばす際に発せられる音から来ているのではないかと思う」と話している。

ビャンビャン麺

秦唐記では、注文を受けてから麺を延ばす。調理場はガラス張りとなっており、料理人が延ばしている様子を見ることができる。

秦唐記には、日本人向けにカスタマイズした味と、西安で食べられている味そのままのメニューの両方が用意されている。フォントマニアだけでなく、中華麺好きであればぜひ行って見たい料理店と言える。

「タイト」は餃子で人気のおとど食堂で発見

餃子楼 おとど餃子食堂 本八幡店

千葉県市川市にある「餃子楼 おとど餃子食堂 本八幡店」。

続いて向かったのは、千葉県市川市にある「餃子楼 おとど餃子食堂 本八幡店」。実は、日本最多画数の漢字「タイト」は「オトド」とも読む。おとど餃子食堂には店名を使った餃子や麺料理が存在する。

餃子

こちらが人気メニューの「肉汁おとど餃子」。

餃子

肉汁おとど餃子は、にんにくは青森産、しょうがは高知産、キャベツは群馬産のものを使うなど、こだわりの食材でできており、非常に優しい味のする餃子だった。

ラーメン

こちらが「夜鳴きそば」。海苔には「タイト(オトド)」の文字が印字されている。本八幡店では、通常この海苔は付属しないそうだが、今後提供を予定しているという。

肉玉そば おとどグループ店主の越智雄一氏は、ラーメンのノウハウを教わった自身の師匠から「オトド」の字も受け継いだと語る。店名にした理由は、字体のデザインから「雲をかきわけて天に昇る龍のような、日本一のラーメンなどを提供できる店」(越智氏)を目指しているという。

おとどの文字

「タイト(オトド)」の文字には、強い思い入れがあった。

夜鳴きそばの海苔や店頭に使われている「オトド」の文字は、創業当時は入力できなかったため、既存のフォントで「雲」と「龍」を打ち、同社のデザイナーが幅や字間を調節してつくりあげた。越智氏は、源ノ角ゴシックでの「おとど」対応により、店頭で使っているロゴの差し替えを「検討したい」と語っている。

なお、肉玉そば おとどのロゴはゴシック体ではなく、セリフやウロコ(字体の払いや止めのようなデザイン)のある明朝体を使っている。取材に同席していたAdobe Fontsのチームは、越智氏の話を聞き、源ノ角ゴシックと同じくアドビとグーグルが開発した源ノ明朝(Source Han Serif)でも「タイト(オトド)」と「ビャン」の文字を収録予定であることを明らかにした。

源ノ角ゴシックや源ノ明朝、その利用シーンは?

Adobe Fontsチームと「タイト(オトド)」

写真左からアドビ システムズの日本語タイポグラフィ シニアマネージャーである山本太郎氏、同チーフ タイプデザイナーの西塚涼子氏、同シニア フォントデベロッパーの服部正貴氏、そして肉玉そば おとどグループ店主の越智雄一氏。

「ビャン」や「タイト」は正直極端な例ではあるが、同社は長年、クリエイティブツールの開発だけではなく、日本語フォントの開発にも力を入れている。

源ノ角ゴシックや源ノ明朝ファミリーは、前述のようにグーグルと共同開発したオープンソースの書体であり、東アジア地域(日本、中国、香港、台湾、韓国)での利用を想定したフォントだ。

では何故、東アジア地域に共通したフォントが必要なのか。同社の日本語タイポグラフィ・シニア マネージャーの山本太郎氏は、グローバルでのデザイン作業にメリットがあると語る。

「例えば、自動車のパンフレットなどで各国の言葉を併記する必要があるとき、昔はそれぞれの言語に応じたフォントを選ぶ必要があった。ただ、そうすると書体のデザインがそれぞれ異なるため、太さが合わないなどのデザインの統一性がなくなっていた。

その点、源ノ角ゴシックや源ノ明朝を使うと、各国の言語で入力してもフォントのデザインポリシーは統一されているため、(中国の)繁体字だろうが、簡体字だろうが、日本語だろうが一貫性を保つことができる」(山本太郎氏)

日本一画数の多い漢字の収録でSNS上などで注目を浴びた源ノ角ゴシックや源ノ明朝だったが、シリーズやグローバルビジネスには欠かせないフォントの1つであることがわかった。

(文・撮影・小林優多郎、取材協力・アドビ システムズ)

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