引っ越し業者は、慢性的な人手不足に陥っており、転勤や進学で引っ越しの多い春に「引っ越せない人」があふれる事態が2018年は注目を浴びた。
引っ越し業界は、慢性的な人手不足に陥っている。飲食サービスに次いで、運輸・運送の人手不足は深刻だ。
提供:グライド
そんな中、2019年の引っ越しシーズンを前に、引っ越し業者の「空き時間やトラックをシェアしよう」というサービスが登場した。複数業者の空いている時間を組み合わせて引っ越しを組むなどで徹底的にムダを省き、相場より4割程度安い引っ越しが提供できるという。人手不足時代の引っ越し業界で、救世主となるのか?
スマホで撮影、見積もり完了
業界初の引っ越しシェアリングサービスを仕掛けるのは、引っ越し一括見積もりサイトを運営する、グライドだ。もともと、複数の引っ越し会社の見積もりができる、一括見積もりサービスを展開。2018年で約19万件の集客実績を積み上げ、業界上位に位置する。
グライド社長の荒木孝博さん。シェアサービスを引っ越し業界に持ち込むことで、引っ越し難民問題の解決を目指す。
撮影:滝川麻衣子
そのグライドが1月にスタートしたサービス「Hi!MOVE(ハイムーブ)は、中小企業を中心に複数の引っ越し業者と連携した、引っ越し手配のプラットフォーム。利用者からの引っ越しのオーダーを複数社の空いているトラックに振り分けることで、オーダーと空きトラックのミスマッチを減らす。
1台のトラックが効率的に複数の引っ越しをこなせるように、Hi!MOVEが、引っ越し業者と連携する。
利用者は引っ越し日と住所、間取りを入力後、スマホで部屋や荷物写真、計4枚を撮影するだけ。即座に相場料金と、それに対するHi!MOVEの見積もりが返ってくる。「相場より4割は安い」を実感してもらう仕掛けだ。
相場より4割安い理由
グライド社長の荒木孝博さんは、もともとインターネット販売代理店の親会社で、営業責任者や広告事業を担当。引っ越し一括見積もりサイトという新規事業立ち上げで、社長に就任した。Hi!MOVEの安さの理由として以下を挙げる。
- 引っ越し会社は、見積もりなど営業の人件費がいらない。
- 引っ越し会社は、事務作業がいらない。
- スケジュールをうまく組むことで、複数引っ越しを1台のトラックがこなせる。
- 見積もりの結果、引っ越しの決まった人だけを引っ越し業者に紹介するため、業者も効率的に案件がとれる。
- ユーザーは引っ越し日は選べるものの作業時間は、トラックの空き具合で決まる(ただし、上乗せ料金で指定も可能ではある)。
現時点では単身引っ越しなど「軽めの引っ越し」が対象で、1都3県からスタート。提携業者は現在で6社だが、将来的には全国展開し、提携相手も50〜60社には増やすつもりだという。「引っ越しは財産を運ぶ作業。安くしてもクオリティは落ちないように業者は厳選した」(荒木さん)という。
生産性を上げるカギ
これから2〜3カ月が、見積もりの繁忙期。3月末から4月上旬にかけて引っ越しはピークを迎える。グライドの担当者によると、3〜4月は年間の引っ越し件数の3割から半分が集中するという。
「その結果、ユーザーが引っ越し難民になったり、逆に業者側は平日に仕事が少なかったりといった問題が起きている」
グライド社長の荒木さんはそう指摘する。
Hi!MOVEがコストカットにより、低価格の引っ越しを提供することで「平日に誘導するなど、引っ越し日を標準化し、業者の生産性も上げることができる。トラックを遊ばせることなく稼働率を上げていく仕組みです」と、業者側の生産性向上にも応えていくつもりだ。
一方、複数業者が加入するプラットフォームから対応可能な業者を手配するため、ユーザーは「空いているトラックがない」を理由に断られることは減る。
アナログな業界にテックで改革を
引っ越し難民問題は、価格の釣り上げも起こしている。
Shutterstock/paulaphoto
引っ越し業者を取り巻く環境は、働き方改革により、大きく変わりつつある。
2018年には東京労働局王子労働基準監督署は、違法な時間外労働をさせたとして、引っ越し大手の「アートコーポレーション」の支店長だった男性を、労基法違反の疑いで東京地検に書類送検した。
過酷な労働実態に注目が集まり、3月の繁忙期になると深夜に及ぶ長時間労働が常態化していた業界にも、働き方の見直しが及んだ。引っ越し引受件数を抑制する動きが、大手を中心に広がった。しかしその影響で、1件あたりの引っ越し料金が高騰したり引っ越し難民が発生したりという事態となっている。
グライドが始めた引っ越しシェアリングのHi!MOVEは、こうした業界の問題に着目。ユーザーには低価格でカンタンな引っ越しを提供すると共に、業者には、引っ越し案件の成約までの人件費のコスト削減と、空きトラックをつくらない、引越し日の標準化などの生産性向上を約束する。
「引っ越し業界はアナログな世界で、数十年変わっていない。今後は長距離引越版、中小引っ越し業者向けの作業員やトラックのシェアプラットフォーム構築など、時代にあったサービスをつくり、引っ越し難民問題を解決していきたい」
そう、荒木さんは話している。
(文・滝川麻衣子)