レシピ動画アプリ「クラシル」がダウンロード数1500万を突破したdelyの堀江裕介(左)と、レシート買い取りアプリ「ONE」を開発したワンファイナンシャルの山内奏人。
Business Insider Japanの二周年を記念し、ミレニアル世代の取り組みを広く表彰するために設けられた新たなアワード「BEYOND MILLENNIALS」。2019年1月17日にはアワードの授賞式が開催され、多くの人が集まった。
授賞の前には、二人の起業家──delyの堀江裕介とワンファイナンシャルの山内奏人──の対談が行われた。聞き手はBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子。
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dely堀江は「ただただかっこよかった」
イベントには多くの人が詰め掛けた。
浜田:この二人に今日の2周年イベントのトークセッションをお願いした理由は、二つあります。まずお二人は、2018年にビジネスインサイダーの中でももっとも取材回数が多い「Game Changer」なんです。もう一つの理由が、実はこのお二人は前からすごく仲良しなんですよね。
堀江:いや、そうでもないです。(会場笑)
浜田:山内さんにとって堀江さんは師匠だと聞いたんですけれど。
堀江:いえ、(山内さんのことを)尊敬しています。
山内:12歳の時にお会いして、それ以来、スタートアップ界隈で一緒にいて、堀江さんのことは恩師だと思っています。
浜田:山内さんが12歳だった時は、堀江さんもまだ学生ですよね。なぜ出会ったんですか。
山内:当時堀江さんと同じシェアオフィスで働いていて、隣同士だったんです。声をかけてもらったり、土日には鍵を開けてもらったりとかして。 delyでお手伝いをさせてもらったこともあります。
浜田:12歳の山内さんはどんな少年だったんですか。
堀江:正直あんまり覚えてないんですけど……。 なんか小さい少年だった気がします。でもしゃべった時に、奏人くんはすごいポテンシャルがあるなと思って、一緒に何かやれないかなっていう話をした気がしなくも、ない……。
浜田:山内さんにとって堀江さんはどんな存在ですか?
山内:中学生の僕からすると、堀江さんはまだ大学生なのに、既にすごい資金調達をして、サービスを作り、一気にお金をかけ……、ただただかっこよかった。僕にとっては、野球選手とかスポーツ選手とかよりも堀江さんの方がかっこよかった。
堀江:そうですね。それは一理ありますね。(会場笑)
コツは「努力のタイミングをずらす」
「起業した時、努力がすごく反映される感覚だった」と堀江さん。
浜田:堀江さんはなぜ就職ではなく、起業の道を選ばれたんですか。
堀江: 小中高と野球を一生懸命取り組んでいたんですが、あるとき「あ、これは自分は勝てないな」という相手に出会うことがありました。そこから「どこで戦うか」を強く意識するようになった気がします。
その後、大学に入ってみると周りに優秀な人はたくさんいて。みんながゴールドマンサックスに行くとかマッキンゼーに行くとかブラックストーンに行くとかそういう中で、僕は天才タイプでもないので普通にやったら負けてしまう。
この人たちとは違う路線で戦った方がいいなと思って、いかに自分は人と違うポジショニングをしようかって考え始めたんですね。
あとは「努力のタイミングをずらす」こともやりました。高校・中学までの受験勉強でやった分と同じだけの熱量を起業にかけたら、全員成功すると僕は思うんですよ。自分はそれまで努力せずに努力の量を貯めていたので、起業を始めた時に努力がすごく反映される感覚だったんです。
浜田:なるほど。山内さんはいかがですか?起業という選択は初めから考えていたんですか。
山内:それで言うと、あまり起業する気はなかったんです。プログラミングが元々できて、コードを書くのもすごく楽しくて、いろいろ作っていたら、たまたまカード会社と提携するタイミングが来て、だったら会社を作らないとねっていうことで作ったのが今の会社なんです。なのでどうしても作りたかったというわけではなかったかもしれないです。
浜田:でも例えば、堀江さんの会社のCTOになるという選択肢もあったわけですよね。まさに今堀江さんの会社でCTOを募集しているそうですが。
堀江:たしかに。うちのCTOが今立ち上げ準備をしている事業にフルコミットするためにCTOを誰かに譲りたい、と今言ってるんです。
山内:業務委託みたいな形でコードを書かせてもらったりはしていたんですけれど、誰かの元で働いた経験が全くなかったので、誰かと一緒にガッツリ働くことは当時は考えていなかったですね。
起業の原体験は東日本大震災
東日本大震災の後に人生観が変わった、という起業家は多い。
Athit Perawongmetha / Getty Images
浜田:堀江さんは、東日本大震災の時にボランティアで被災地に行かれて、その時に世界観が変わったとインタビューでおっしゃっていますね。
私たちも多くのミレニアル世代を取材していて、40代以上の起業家と違う特徴として、お金をがっちり稼ぐというより世界を自分の手で変えたい、よりみんなが幸せになるために仕事をしたいという想いが強い。そして、その原点が東日本大震災にあるという話を多く聞くんです。
堀江:震災が起きたのは、大学の後期受験の日だったんです。高校を出るまで一人で過ごす事ってあまりないと思うんですけれど、受験のために一人でいたその日に地震があったことが、やっぱり衝撃的で。
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僕らの世代って生まれてから戦争もないですし、関東に住んでいたので災害も経験してこなかった。人ってある日突然死ぬんだなってことを最初に体験したのが震災でした。
その時サッカー選手や芸能人が動いたり、孫正義さんが100億円寄付したりしているのをみて、一人の人間が影響力を持つことで誰かの力になったり誰かを助けられるんだというのを目の当たりにしました。
自分自身は歌がうまいわけでもなく、野球やサッカーが日本一うまいわけでもない。再現性が高く自分でもできそうだなと思ったのはビジネスだったんです。ならばそっちの道で生きようと思ったんですね。
自分のおじいちゃん、おばあちゃんがガンなんですけど、今の僕は目の前にいるおじいちゃんやおばあちゃんも助けることができない。自分がどうなったら、次の「3.11」みたいなことが起こった時に後悔せずに過ごせるかということを考えながら生きています。
「自分には起業の原体験がない」と語る山内さん。
浜田:山内さんはこんな風に自分がしたい、なりたいっていうことは後から出てきたんですか?
山内:僕は、原体験とか世界をどうしたいという思いがあまりなくて。僕は2001年生まれなんですけれど、僕らの世代って、やりたいことが見つからないとか好きなことがないということに悩んでいる人が多いと思うんです。
僕もそのタイプで、どういう事業が世の中に求められているかとか、どういう事業だったらうまく社会にはまっていくかということを最初に考えるんです。
実生活の中でこういうプロダクトがあったら使われるだろうな、という社会の流れを考えてます。今社会がこう流れているから、こういう機能があったらこれぐらい使われるんじゃないかって見えた時、自分でその事業を立ち上げてみるという感じですね。
若さは「武器だ」
浜田:お二人にお聞きしたいんですけれど、若くして起業してよかったことと若いからこそ悔しい思いをしたということはありますか。
堀江: 僕は嫌なことは全部忘れてしまうんですが、若くして起業してよかったことを一つ言うとすると……。やっぱり僕が40歳になって起業しますと言っても、投資家にもなかなか会ってもらえないと思うんですよね。
「希少性がある」ということ自体が世の中では価値が高いので、珍しいやつにみんな会いたいし、青田買いしたい。その意味で、若さは武器だと思いますね。
山内:良かったことは、堀江さんと全く一緒だと思います。若い分、下駄を履かせてもらっているなと。
あんまり良くないことで言うと、僕は頭の中は事業に100%集中して、めちゃくちゃ努力していると思うんですけれど、やっぱり学校に行く時間があるので、その間は集中していないという評価をされてしまうのではないかと。
浜田:学校に行くことで、逆に息抜きになったりすることもあるんじゃないですか。
山内:それはすごくありますね。普通に高校生をしている時間は高校生をして、仕事の時は仕事に集中するというライフスタイルが自分に合っています。仕事だけだとたぶん体を壊してしまうと思います。学校では体育の授業で運動をさせてもらったり、給食も食べられるし。(会場笑)
失敗した時は「ジャンプの1巻目」
「孫悟空が3巻目から勝っていくのが面白い」
浜田:2018年はお二人とも事業のことでいろいろなニュースがありましたけれど、危機に陥った時や「もうこれだめかも」と思った時、どのようにして立ち直っているんですか?
堀江:めちゃくちゃ追い込まれるってあんまりなくて。僕の場合は、失敗した時に「これはジャンプの1巻目なんだ」と思うようにしています。孫悟空が誰かにぶっ飛ばされて、3巻目から勝っていくっていうストーリーが面白いわけですよね。
ビジネスに二度失敗した時に、これは来たなと思って。これは孫正義さんが僕に投資するまでのストーリーが描けたなぁと思っていました。
浜田:でも、社員がどんどん辞めていった時期もありますよね。そういう時も「来たな」と?
堀江:さすがに今日ある社員に辞めたいって言われたときはびっくりしました。こういう時も一瞬悩むんですけど、 くよくよしてもしょうがないから、次かなと思うようにしています。
浜田:山内さんは2018年に発表したサービスが一気に利用者が集中してサービス停止という事件がありましたけれど、その時はどう感じていたのですか。
山内:客観視すると、ウェイティング数をリストにしたりすることで確実に問題は解決するなと感じていたので、自分の中ではそんなには辛くなかったです。ただ、Twitterにリプが数百件来たりもして、ちょっと落ち込みましたね。
堀江:奏人くんの場合は Twitterでも「早く再開させろ」というのがいろいろ来てたもんね。僕も物騒な予告は数件来ましたね。僕の場合はイメージが悪いからかもしれませんが……(笑)。
日本で一番大きなIT企業をつくりたい
浜田:今後二人が今の事業も含め、どんな社会でどんなことを目指していらっしゃるかということを、最後にお聞きできれば。
山内:なんだろうなあ……。僕の場合は世界をどう変えるかというよりは、自分の手で作ったものが人に使われているというのがすごく好きなので、そこの欲求が大きいかもしれないです。
でも、日本で一番大きなIT企業を作りたいという夢はありますね。理由はあまりなくて純粋に、なんですけれど。日本を代表するIT企業になって日本をぶち上げていきたいなと思っています。
浜田:山内さんの経歴だと、海外大学やシリコンバレーに行かないの、とよく聞かれると思うんですけれど、「僕は東京で頑張る」とインタビューでおっしゃっていましたね。まだその気持ちはありますか?
山内:僕はやっぱり日本で生まれ育って、日本で色々な経験をさせてもらって、日本が大好きなので。日本でやっぱり戦っていきたいなというのはありますね。
浜田:堀江さんはいかがですか。
堀江: 僕の最近の価値観は、どれだけ面白いことをできるか。人生というのは、自分が死ぬ時にどれだけ笑えるものがあるんかという、ネタ作りの場だと思っています。
ビジネスとしても大企業にはできないことをやって、とにかく「あの会社面白いな」ってことをどれだけできるかだと。今年もいっぱい笑いを提供できればと思っています。
浜田: 先日から自ら、LINEのQRコードを公開して一緒に働くエンジニアを募集しているという話を聞きました。
堀江:最初に来た連絡が「しばくぞ」でしたけどね(笑)。色々とありますがこれからも振り切って走り続けたいです。ありがとうございます。
(敬称略)
(構成・西山里緒、撮影・今村拓馬)