「人生を燃やすに値する仕事をしているか」ファクトリエ山田代表が見つけた信念

第一線で活躍するキーパーソンが、ミレニアル世代に向けてキャリアの極意を語るスペシャルライブトーク「BIキャリカレ(キャリアカレッジ)」。

第3回に登場したのは、工場発のメイド・イン・ジャパンの服づくりに挑戦する「ファクトリエ」を率いる山田敏夫さん。

著書『ものがたりのあるものづくり』の出版以降、共感の波は全国に広がり、後半の質問コーナーでは参加者のほぼ全員から手が上がった。

聞き手は、HARES代表で複業研究家の西村創一朗さん。

“作り手の思い”に共感して買う文化

工場2

メイド・イン・ジャパンにこだわり続ける山田さん(左)。600を超える数の国内の工場に自らが足を運んでいる。

提供:ファクトリエ

西村創一朗さん(以下、西村):山田さんは日本が誇るものづくりの文化を立て直そうと、作り手を主役にした服づくりに挑戦する「アパレル業界の革命児」として注目されています。創業から6年で回った全国の工場は600超、うち55の工場と提携して、「工場名をブランドにする」「工場が価格を決める」「店鋪を持たず販売はECのみ」といった斬新な手法を開拓されていますね。

実は僕も服の7割はファクトリエ。5年前、山田さんが出場されたスタートアップピッチイベントで審査員を務めさせていただいた際に、「世界を変えます!」と情熱たっぷりに語る姿に胸を打たれ、ファンの一人として注目していました。

山田敏夫さん(以下、山田):ありがとうございます。僕らのミッションはいたってシンプルで「語れるもので、日々を豊かに」。田中さんが作ったトマトを買うのが当たり前になった野菜の産直流通のように、服もまた“作り手の思い”に共感して買う文化を作りたいという思いでやっています。

なぜ服を作る仕事に至ったのか

ファクトリエ

ファクトリエは、ファクトリー通販専門サイト。販売形態はインターネットのみだ。

提供:ファクトリエ

西村:でも著書を拝読すると、さまざまな紆余曲折を経て天職に出合ったと。そもそもなぜ服を作る仕事に至ったんですか。

山田:僕は熊本で100年続く老舗の婦人服屋に生まれ育ち、「ゆくゆくは店を継がないといけないんだよな」とぼんやりと考えていました。だから大学も商学部に入ったんですが、とにかく僕、塾から断られるくらい頭が悪く、スポーツも6種目やってどれもダメ。超がつくくらいの落ちこぼれだったんです。20歳まで彼女もできませんでしたから

西村:衝撃的です。こんなにイケメンなのに。

山田:人並みになるのに必死でした。同時に、皆と同じことをやっても戦闘力が弱いので、「皆とは違う道を探さないと転落するだけだな」という自覚は早くからあったと思います。

西村:大学在学中のフランス留学が大きなターニングポイントになったそうですね。

ファクトリエ

自身でモデルとしても登場している山田さん。

ファクトリエ

山田:不運が引き寄せた出会いがありました。僕、運も悪いので、空港に着いてパリ市街に行くまでの電車の中でスリにあって一文無しになっちゃったんです。

バイトをすぐに始める必要が生じて、唯一拾ってくれたのがグッチのパリ店。フランス語が話せなかったので地下のストックルームで在庫を整理する仕事でしたけれど、そこで出会ったフランス人の同僚から「日本には本物のブランドがない」と言われたことが、僕の使命感に火をつけたんですね

「できないから、信じる」

西村:山田さんが自分を信じて突き進む力を持てた源泉は何だったのでしょうか?

foreversocks

写真は靴下一筋で25年のソックスファクトリー「GLEN CLYDE社」が2018年春より開始する「永久交換保証」の靴下。同社での販売が日本初の取り組みとなる。

ファクトリエ

山田:何もないですよ。できないから、信じるしかないんです。今もそれはずっと変わらなくて、毎日バタ足しながらもがいている感覚です。

一つだけ、自分の力を信じる基盤を作れた経験としては、唯一、陸上の長距離走だけは結果を出すことができたんです。最初は2周遅れになるくらいのひどさだったんですが、高校最後の県大会ではアンカーで優勝することができた。

陸上って、ただ一心に脚を動かし続けたら必ずゴールがやって来る。その真実を理解できて、すごく救われたんですね。ボールを他人と取り合うような競技ではまるでダメでしたけど。以後、僕はできるだけ人と相対評価されない世界を選んできました

他人と比較するのは不幸の始まり

西村:だから新卒で内定が決まった大企業ではなく、ベンチャーへの入社を決めたりされたんですね。キャリアの選択で自分の適材適所を見極める力はすごく重要だと思っているんですが、その見極めの方法は?

山田:僕はいつも絶対評価で道を選ぶんです。他人と比較する相対評価は不幸の始まり、と思っているので。つまり、自分が夢中になって幸せを感じられたらいい。でもそのためには全力で試すことが大事で、違っていたらあっさり他の道に乗り換えてもいいと思いますし、合うと感じたら続ける。

ファクトリエ

異業種転職をして倉庫アルバイトからキャリアを再スタート。

提供:ファクトリエ

西村:とはいえ、多くの人は今いる環境が居心地良くなるとなかなか抜け出せないものなのですが、山田さんは1社目で営業マネジャーとして評価され始めた時期に、異業種転職をして倉庫アルバイトからキャリアを再スタートさせています。コンフォートゾーンから抜け出せた動機は?

できるだけ早く“あっちの世界”に

山田:現実的な将来設計として、「いつかは実家を継がなきゃ」と思ってました。1社目はソフトバンク系の人材広告会社だったのですが、経営の基礎と言われる営業スキルを身につけることが目的でした。アパレル業界で勉強する必要を感じて転職活動をしたのですが、未経験からの求人は倉庫アルバイトしかなかったので、そこから始めようと。

ファクトリエ

自分が目指す北極星に向かって素直に歩くだけ

提供:ファクトリエ

意識していたのは、できるだけ早く“あっちの世界”に行こうということ。“あっちの世界”っていうのは、既成概念にとらわれない新しい世界という意味です。誰かに決められた目標や流行りのワードに惑わされず、自分が目指したい未来だけを見つめる生き方。

しかも、それはできるだけ早いほうが有利に事を進められる。だから、僕にとっては自分が目指す北極星に向かって素直に歩くだけなんです。

西村:確かに、他者が決めた評価軸に振り回されてばかりだと、焦りや不安から逃れられないですよね。

山田:「自分が信じて決めた道なんだから」と思ったら、結果にもそこまでとらわれなくて済むと思いますし。そもそも何が正解か分からないですよね。本当の成否が出るのは100年後かもしれないわけで。

人生を燃やすに値するか

西村:山田さんにとって、キャリアの選択で一番大事にしてきた基準は?

山田:僕の経歴は全然キラキラじゃないですし、正直、キャリアなんてあってないようなものだと思っています。人は幸せになるために生きているはずだから、自分の人生を燃やすに値する仕事ができているか。やりたいことを実現するために命を使えているのか。その問いの繰り返しです。

西村:まさに「使命」ですね。

山田:僕にとって仕事は「私事」で、365日24時間のエネルギーを費やしたいと思えることだけをやっていたい。だから、「どういうキャリアを歩むか?」と深く考えたことすらなくて、結果的に歩んだ道のりがそれなのかなと思います。

西村:キャリアの語源の通りですね。「轍(わだち)」、つまり足跡のことですから。

山田:え!そうだったんですか。偶然一致しました(笑)。ただ、僕みたいにここまで熱中できる仕事に出合える人はそれほど多くはありませんよね。その場合は、共感できる誰かの夢についていくという歩き方でもいいんじゃないでしょうか。

ファクトリエ

山田さんを動かすのは、洋服も作り手の思いを伝えるものにしたい、という情熱。日本の50もの工場と提携している。

提供:ファクトリエ

仕事に何を求めるかは、人それぞれだから押し付けたくはないですね。ただ、僕は自分の人生の評価者は自分しかいないと思っています。そもそも、自分が生きているうちに評価されようと思うこと自体、おこがましいんじゃないかな。

西村:ここで会場から質問を。うわぁ、すごい! ほとんど全員から手が上がりました。では厳選4つに絞りましょう。

質問者A:業界でタブーとされてきた常識を壊す上ではいろんな抵抗を受け、逆境と感じる場面もあったのではと思います。逆境を乗り越えるために大切にしてきた信念とは?

山田:まず挑戦するなら困難は承知の上、というのが大前提。加えて、僕がいつも大切にしてきたのは、「人間が唯一コントロールできるのは自分の行動だけ」という信念です。

社員が自分一人しかいなかった2年半の間は、ビジョンを一人でも多くの方に伝えるために「毎日手紙を書き続ける」という行動を決めて、1000通書き続けました。

それでも、一歩を踏み出せなくなる時ってある。「今の俺は踏み出せていないな」と気づくことが大事で、するとそこから先、行動するのかしないのか、自分に問うことができるじゃないですか。「行動しよう」と決めるたび、信念が強固になっていくんです。

質問者B:創業当初はたった一人で始められたそうですが、当時からボランティアが7人も集まったと。その人徳はどうやって身につけられたのでしょうか?

ファクトリエ

山田さんは自分のビジョンを伝えるために「毎日手紙を書く」ことを決め、実践してきたという。

提供:ファクトリエ

山田:いやいや、人徳はないです。起業した時から今に至るまでずっと、僕はスーパーマリオのスター取っている状態で、もう遠慮なく人を巻き込んじゃうんです(笑)。

週末に無償で手伝ってくれる友達に対して「早くやってよ!」とか「エクセルにちゃんと入力してくれないと困る」と言い放ち、自分は生活費のためのバイトに出かけるという無茶苦茶ぶりでした(笑)。

つまり、夢中が人を巻き込んだだけだと思っています。コミュニケーション力に関しては子どもの頃に親の手伝いで接客をしていた経験が役立っているかもしれませんね。

質問者C:山田さんが今後やってみたい「複業」はありますか?

BIキャリカレ

山田さんの熱いトークに会場ほぼ全員から質問の挙手が上がった。

山田:きっと何を始めてもファクトリエに結びつけてしまうので……(笑)。複業ではないですが、今やっていることと家業との接点をどうつくっていくかは今後の課題です。

質問者D:お二人に伺います。人との出会いを次につなげていくために大切にしていることは?

西村:初対面でも、僕がその人に対して役立てそうなことはないか真剣に考えて提案する。もし分からなければストレートに聞く。僕は「人脈」という言葉は嫌いで、人とのつながりは「give first」の行動の結果として生まれるものだと思っています。

山田:僕の場合もそうで、手紙を書いた相手に「仲良くなりたい」とか「自分のことを覚えてほしい」と思っていたわけではないですね。その人に何を聞きたいか、出会ってどんな学びを得たいかという目的がハッキリしています。

今の自分がどんな仕事を成し遂げられたら幸せか。そのためにどんな人と出会うべきか。それを素直に考えて行動すれば、一期一会を一生の縁にすることは可能になるのだと思います。そして、出会いの機会をいただけたら、格好つけず裸になって自分をさらけ出すこと。探り合いの時間はもったいないですから。

(構成・宮本恵理子)


山田敏夫(ファクトリエ代表/ライフスタイルアクセント株式会社代表取締役):1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学しグッチパリ店で勤務。卒業後、人材会社などを経て、2012年、ライフスタイルアクセントを設立。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。著書に『ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命』。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中