通勤電車や職場、働いて入れば人混みを避けることはできない。
撮影:今村拓馬
インフルエンザが猛威をふるっている。患者数は1月18日段階で163.5万人で、前週の2.8倍に急増した。1月22日にはインフルエンザの可能性のある女性が、駅で転落し死亡するという事故まで起きている。
その一方で、リモート結婚式や、身近な人どうしで支援を募る「ポルカ」などで、工夫しながらインフルのつらさをやり過ごしている人もいる。
インフルで「リモート」結婚式
「やってしまった……」予防していてもかかることもある、インフルエンザ。
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「ああ、やってしまった……」
都内の広告系企業でプランナーとして働くチカさん(34、仮名)は1月下旬、人生初の「インフルエンザA型」の診断を受けて、がっくりと肩を落とした。
思えば不吉な予兆は、その前の週から始まっていた。
前の週の日曜日に、チカさんの友人の結婚式があった。その当日に、なんと新郎がインフルにかかり、欠席してしまったのだ。
「インフル結婚式」という異例のイベントも。
画像:取材者提供
新郎は病床に伏せりながらも、ビデオ会議アプリ「zoom」を使って式に参加。画面に向かって誓いの言葉を捧げる花嫁……。インフル感染さえなければ、こんなことにはならなかった。チカさんは明るくふるまう新婦に近寄り、ハグをして励ましたという。
その後数日経って朝起きると、体の節々に痛みが走った。
体温を測ってみると微熱で、病院に行ってみると「鼻炎」との診断。「インフルは高熱が出ると勝手に決め込んでいて。その時はインフルという発想すらもありませんでした」とチカさんは振り返る。
涙、涙……予約は全てキャンセル
それでも体調はよくならず、土曜日にもう一度かかりつけの病院で検査をしてみると、インフルエンザA型との診断だった。すぐにしたことは、シェアハウスのメンバーへの連絡だ。
「ごめん!うつしているかもしれない!」
そしてチカさんはその足でパソコンを取りに会社へ向かった。出社ができないときも、リモートワークで仕事をするためだ。同僚が出社していない土曜日に行ったが、ただ、インフルエンザと診断された後に出社はしてはいけない。周囲に感染を広げることにつながるからだ。
当然、週末の予定はすべてキャンセル。高級焼肉も、婚活のデートも、仲良しの女子とのおしゃべり会も……。
あまりの悔しさに耐えきれず、おしゃべり会にはスカイプ通話で参加。その会話の中で、ふと「polca(ポルカ)してみたら?」という話題になった。
ポルカで「家でおいしいものが食べたい!」
チカさんが投稿したpolca。1月24日時点では23800円に。
画像:取材者提供
ポルカとは2017年に始まった、自分がしたいことに対してお金を募ることができる「フレンドファンディング」のアプリだ。
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チカさんはポルカの存在は知っており興味を持っていたが、実際に自分が支援を募る側になったことはなかった。自分の自信のなさも手伝い、なにも提供していないのにお金を集める、ということに抵抗があったからだ。
そんな自己評価の低さを、ポルカで変えてみたいという想いもあった。友人に打ち明けてみると、「だったら、インフルエンザの今じゃない!?」という返事がかえってきた。
その日のうちにポルカを投稿。「インフルエンザで、家で美味しいものが食べたい!」というタイトルにしてみると、なんと4日あまりで2万円以上のポルカが集まったのだ。
弱っている時は周囲を頼ってもいい
チカさんが公開したpolca。インフルにかかった悲しみがつづられている。
ここまでの反響は予想以上だった、とチカさん。それ以上に心に沁みたのが、「インフル大変だよね、がんばって」「こうすると早く良くなるよ」といった知人からのやさしい言葉の数々だ。
厚生労働省は1月18日、インフルエンザの患者数が今季初めて警報レベルを超えた(1月7日から13日までの、1医療機関あたりの患者数が38.54人)と発表した。全国の推計患者数は163.5万人で、前週(58.6万人)の2.8倍に急増した。
つらいインフルエンザの症状の中で、嫌われるんじゃないかと緊張しながら挑戦したポルカ。そこで思いがけない優しさをもらった、と、今はインフルエンザから回復したチカさんは振り返る。
「弱さを出すのって恥ずかしいし緊張すると思うんですけど、自分が弱っている時こそ周りを頼る。そんな信用社会を(ポルカで)実感できました」
(文・西山里緒)