かかったら社会人失格?インフル発症者続出の職場がすべきこと

「大変申し訳ないのですが、子どものインフルをもらってしまった疑いがあります。予防していたのですが……」

1月も後半になって最近、こんなメッセージがスマホに飛び込んでくることが増えた。

インフルエンザ

「インフルエンザにかかってしまったようです、すみません」。謝罪が飛び交う、日本の企業社会。自己管理ができていないと責める風潮もあるが、それだけだろうか(写真はイメージです)。

Shutterstock/TheVisualsYouNeed

それもそのはず、インフルエンザが猛威を奮っている。全国の推計患者数は1月18日時点で163万人を越え、国立感染症研究所はインフルエンザの流行が全国で「警報レベル」と発表。学級閉鎖も相次いでいる。

仕事熱心な日本社会の表れなのか、「ご迷惑をおかけした方、本当にすみません」「(インフルにかかって)かつてない自己嫌悪に陥っています」など、インフルエンザ発症者の謝罪や懺悔がSNS上で飛び交っている。

たしかに集団感染が起きると、会社の業務まで滞ってしまうのは事実。とはいえ「予防接種していてもかかる」とよく聞くインフルエンザ、予防接種を受けていないのはそんなにダメなの?発症したら、自己管理がなっていないと責められても仕方ないのか。

インフルエンザ予防に“自覚”は通じるか

インフル電車

人の集まるエリアは、感染要注意ゾーン。通勤経路も危ないかもしれない(写真はイメージです)。

Shutterstock

インフルエンザ警報が発令された1月18日、ロッテのドラフト1位の藤原恭大外野手(18)が、インフルエンザA型と診断され、新人合同自主トレを欠席。監督が「プロの生活では自己管理も大切。調整もできなくなってしまう。自覚を持ってやってほしい」と苦言を呈したと報じられていた。

受験シーズンもピークを迎え、全国的に死亡者も出るなど、インフルエンザ流行に世間はピリピリしている。発症すれば、感染拡大を防ぐためにしばらく出勤は停止。ただでさえ人手不足が叫ばれる日本の職場で、次々に人が倒れては、業務に深刻な支障が生じるケースもあるだろう。

とはいえ、IT企業勤務の20代男性はこうこぼす。

「予防接種のワクチンが近所の病院では切れていて、まだ受けていないのですが、職場では告白しづらいです」

自己管理が甘いと、上司に責められるのが目に浮かぶからだ。

Twitter上では、こうした異様なピリピリムードに違和感を訴える声も。

「予防接種してないやつは社会人として終わってるって上司が喚いてるんだけど、こんだけ流行してる以上お前ら明日は我が身かもしれないのによくそんだけ叩けるな」

「職場に予防接種しない人をめちゃ叩く人がいるんだけど、予防接種しても毎年かかっちゃう同僚さんが一人居て困った顔してたの見ると何とも言えない気持ちになってしまう事よくある」

「かかった奴が悪い」では予防に限界

病院

医師が考える、職場のインフルエンザ対策で、忘れてはいけないこととは(写真はイメージです)。

Shutterstock

「インフルにかかった人間が悪いと責めるのは、マネジメント層にとって簡単です。しかし、感染の制御を個人の責任に帰結させていると、問題は解決しません」

そう話すのは、秋葉原内科saveクリニック院長で医師の鈴木裕介さんだ。

鈴木医師は大前提として、「1番の予防は、やはりインフルエンザの予防接種を受けること。小児のデータですが、2015〜16年シーズンの調査では、予防接種で6割の人はインフルエンザの発症を防げるとの結果がでています」と示す。

インフルエンザの予防接種は、65歳以上をのぞいてあくまで任意。しかし高齢者、妊婦、医療従事者に教育や保育者、接客業などで接種が推奨されており、実際に感染防止に効果が大きいと言う。

しかしその上で、職場の感染防止について、個人を責めることについては異を唱える立場だ。

鈴木さんの考えはこうだ。

「職場のインフルエンザの感染予防はマネジメントの問題です。費用負担するので個人で予防接種を受けてくださいでは、全員に行き渡らせるのはなかなか難しいでしょう」

「例えば、いつまでに全員接種するか。摂取接種できる時間をとれるような人員の充て方をしているか。そもそも予防接種に行く時間もないくらい忙しい状況をどう回避するか。これらは全てマネジャーの責務です。スタッフの健康状態の維持を、経営課題として対処する。『健康経営』とはそういうことです」

たしかに、「予防接種」の費用補助制度がある職場は少なくない。それでも受けていない人の理由はなにか。

少し古いデータになるが、独立行政法人国立国際医療研究センターが2011年に行った調査では、受けなかった人の理由でもっとも多かったのは「医療機関に行く時間がなかったから」。

ひどいケースになると「仕事に穴を開けるわけにはいかないからと、インフルエンザにかかっていることを隠して出社する人も」(鈴木さん)というが、これもまた「その人がいないと回らない体制を作り出している職場全体の問題でもあります」と、鈴木さんは、指摘する。

メイド服で予防接種の理由

メイドカフェ

秋葉原のメイドカフェの店長が行った、インフルエンザ対策のマネジメントとは。(写真はイメージです)。

Shuttestock/Kobby Dagan

インフルエンザ予防を率先できている職場の例として、秋葉原でクリニックを開業している鈴木さんは、とあるメイドカフェのケースを上げた。

「秋葉原のあるメイドカフェの店長は、◎日までにインフルエンザの予防接種を受けるようにと日程を指定。業務中に交代で従業員に受けさせていました」

クリニックには、メイド服姿のカフェ従業員が続々、予防接種を受けに来たという。業務時間内で、かつ仕事が回るように人員を配置した上で、予防接種の時間をとってもらえたら、さすがに多くの人が病院に行けそうだ。

ブラックな職場が危険なワケ

職場

ブラックな職場環境が、インフル感染拡大に影響するケースは少なくなさそうだ。

撮影:今村拓馬

周囲では残業が続くなど、疲れている人がインフルに倒れているようにも見えるが、どうだろう。

鈴木さんは「忙しさや疲労度合いは数値化しにくく、インフルエンザ発症の因果関係を示すエビデンスはありません」とした上で、こう示す。

ただし十分な睡眠がとれない、疲れていても無理して働くというのは明らかに不健康。不健康な人が病気になりやすいのは当たり前ですし、不健康な働き方をせざるをえない雰囲気や状況があるとすれば、それもまたマネジメントの問題だと思います

体調が悪くても「少々の風邪なら仕事に行くべき」という風潮も危険そう。インフルエンザは、感染してから発症までの潜伏期間が1〜2日程度あるとされる。

予兆としては、身体のだるさや喉の乾燥、悪寒などがある。とはいえ熱が出ていないことから「ちょっと体調が変かな?」と思っていても、無理して仕事をしている間に、多くの人に接してしまう可能性もある。

スパルタやブラックな職場体質が、インフルエンザの蔓延を招く可能性は否定できない。

「100%かからない方法はありません。ウイルスはそこらじゅうにいるものですから」と、鈴木さんは完全な対策はないと指摘。

そのうえで「職場のインフルエンザの発症を、個人の責任だけに押し付けるのではなく、どれだけリスクを下げられるかをマネジメントする、経営課題として捉える必要があります。かかった個人を責めるのではなく、チームとしてどうしたら次は防げるかを考える。その方が建設的です」

もちろん、インフルエンザにかかって辛い症状を耐え、生活に一番支障をこうむるのは自分自身。自己管理が必要なのは言うまでもない。

ただ、インフルエンザが蔓延する職場は今一度、組織としてもやるべきことがないか、振り返ってみる価値はありそうだ。

(文・滝川麻衣子)

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