手数料ゼロ、銀行業参入……奇策相次ぐキャッシュレス市場。気鋭ベンチャー3社が明かした「2019年はこうなる」

キャッシュレス 鼎談

左から、pringの荻原充彦氏、Kyashの鷹取真一氏、Origamiの伏見慎剛氏。写真には見えていないが、鼎談当日は各社広報担当者が同席。2018年は自社サービスの認知度が向上したことを実感するシーンが増えた年だった、と口を揃えた。

大きな社会現象となったPayPay「100億円あげちゃう」キャンペーンだけでなく、pringなど決済事業者による相次ぐ手数料の引き下げ、LINEとみずほフィナンシャルグループによる銀行業参入の発表など、2018年のキャッシュレス市場では気になる動きがいくつも見られた。

日本の新しいお金の流れ、あるいは昨今叫ばれるキャッシュレス化の潮流の中で、そうした新たな動きはどんな意味を持ってくるのか。そしてそれは2019年以降の市場にどんな影響をもたらすのか。

それぞれ独特の切り口から決済・送金事業を手がけるベンチャー3社、Origami、Kyash、pringに徹底議論してもらった(鼎談前編はこちらから)。

鷹取真一(たかとり・しんいち):株式会社Kyash代表取締役社長。Kyashは、プリペイド型のバーチャルVisaカードを発行するサービス。残高はコンビニやクレジットカード(VisaまたはMastercard)、ペイジーを通して銀行口座から入金できるのに加え、Kyashユーザー同士であれば手数料無料で送金が行える。

伏見慎剛(ふしみ・しんご):株式会社Origami事業開発ディレクター。Origami Payは、2015年に始まったスマホ決済サービス。2018年には世界最大手の一角、銀聯国際(UnionPay International)と資本業務提携。同時に、自社の決済プラットフォームをパートナー企業に無償開放する「提携Pay」も発表した。

荻原充彦(おぎはら・みつひこ):株式会社pring代表取締役CEO。プリンは銀行口座直結のウォレットアプリ。送金や支払い、口座からの出し戻しを手数料ゼロで提供する。2018年にはQRコード決済の手数料を業界最安値の0.95%とすることを発表し、加盟店の募集を開始した。

決済手数料はいったいどこまで下がるのか

手数料 pring

2018年6月、pringが業界最安値となる「0.95%」を発表した頃から、各社の決済手数料引き下げの動きが顕在化した。

Business Insider Japan

——ポイントバックと並んで、2018年のスマホ決済市場で大きな話題を呼んだのが、手数料の問題でした。楽天やLINEが3%台半ばの決済手数料を収益源としていたところに、プリンが業界最安値の「0.95%」を掲げると、LINEはそれに呼応するように3年間手数料ゼロのキャンペーンを開始。これから先、どうなるんでしょう。

鷹取:僕らのKyashは、Visaカードの加盟店で使うサービスなので、手数料をどうこう言う立場にはありません。でも、一般論として言えば、決済手数料はある程度までは下がる方向に行くでしょう。ただし、限度はある。

日本ならカード会社がやること、つまり決済の機能を、海外では銀行がやっています。口座を管理しているところが精算まで手がけるので、精算サイクルを早められ、優位性もある。日本では銀行以外の会社が決済をやっているので、自分たちでやれないところはどうしてもかかるコストになるんです。そこはどうやっても下げられません。

参考記事:メタップス、QRコード決済手数料「0.95%」業界最安値の衝撃 —— キャッシュレス化の起爆剤になるか

Origami 伏見慎剛

2018年12月に中国・上海を視察して、現地人と旅行者が対等なサービスを受けられるキャッシュレス環境の重要さを再確認したという、Origamiの伏見氏。

伏見:手数料には導入時にかかるものと、決済時にかかるものがあります。まず、2018年はQRコード決済が広まっていったことで、クレジットカード決済で使われるようなリーダーライターなどの設備がいらなくなり、おかげで導入手数料が限りなくゼロに近づいたことはとても大きな変化でした。

一方、決済手数料については、Origami Payも限りなくゼロに近づけていきたいと考えています。加盟店にとってスマホ決済導入のインセンティブは、売り上げが上がるかコストが下がるかのどちらかしかない。だから、具体的に集客に貢献した部分で対価を払ってもらい、決済そのものにお金を払っている現状は変えていく必要があると思います。

ただし、同じOrigami Payの中でも、銀行口座からのチャージ残高による支払い、ダイレクト引き落としによる支払いと違って、登録したクレジットカードを使う決済の場合、カード会社に支払う手数料が原価としてかかってくるので、どうしても高くなります。

中国のAlipayやWeChatは決済手数料がほとんどかからないのですが、それは(銀行口座から即時引き落とされる)デビッドカードに紐づいているから。日本でもこの仕組みが理解されて、デビッドカードが根づいていけば、スマホ決済の手数料も自ずと下がっていくと思います。

pring 荻原充彦

「現金を使う人は社会や他人に迷惑をかけていることになる」。そんな時代が迫ってきていると指摘したpringの荻原氏。

荻原:伏見さんの言うように、決済そのものには手数料がかからないという事実を、もっと多くの人に知ってほしい。「手数料」と言いますが、もはや「手数(てかず)」はかかっていないんです。

例えば、昔の銀行は帳簿や伝票を使って何もかも手動でやっていたから、人件費の分だけ高かった。でも、いまはそうではない。振り込みはデータベースの付け替えをするだけの話で、ちょっと通信費がかかるくらいのもの。だから、言ってみれば、実際にかかっていないお金をユーザーに請求して儲けようというのが、従来の手数料ビジネスなんです。

いまようやくその化けの皮が剥がれてきました。1990年代後半にネット証券が出てきた時に、(株式売買委託手数料が自由化され)手数料が一気に下がったように、決済市場でも同じことが起きるでしょう。どんな事業者であれ、新しいビジネスモデルを見つけないと立ち行かなくなるんです。

鷹取:そこはお二人と同意見。クルマの世界はハイブリッド車のプリウスが出てきて、次は電気自動車(EV)が主流に、とテクノロジーを活用して発展しているのに、金融はなぜか振込手数料が上がるとか、時代の流れに逆行している。

と言いつつ、僕らのKyashというサービスも、カード決済の手数料だけでなく、残高をチャージする際の手数料など、加盟店から得られる一方で出ていくものも多く、現時点では手数料にがんじがらめにされている面もある。ポスト手数料時代の持続可能なビジネスモデルへと、できるだけ早く洗練させていく必要を感じています。

「LINEの功績は大きい」で意見一致

LINE 銀行業 参入 みずほ

若者層をターゲットにした新しい銀行の立ち上げを目指し、2018年11月27日に銀行業への参入を発表したLINE。決済事業との絡みなど、詳細はまだ何も明らかにされていない。

撮影:小林優多郎

——決済手数料ゼロを打ち出したLINEは、2018年末にみずほ銀行と組んで銀行業への進出を発表するなど、金融分野で気になる動きを見せています。どう見ていますか。

伏見:LINEが通話料の領域で起こした無料革命、その功績は決定的です。いまやLINEでしか電話はしない、電話でしか予約できない飲食店には行かない、そんな人も増えました。立ち位置としては、中国におけるテンセント(WeChat)に近い気がしています。みずほ銀行と銀行を設立して何をするのか、LINE Payの展開も純粋に楽しみですね。

参考記事:LINE Bankの衝撃。若者層狙うみずほFGの危機感とLINEの野望

鷹取:僕も楽しみにはしています。ただ、現時点で銀行のライセンスを得るのは非常に重たいし、一方で銀行業法のほうが変化するには数年単位の時間がかかる。LINEと僕らとでは、規模はまったく違いますが、日本の金融のあり方をFinTechを使って変革していく同志として、スピードをもって進めてくれるものと期待しています。

荻原:PayPayがQRコード決済の認知度を広げてくれたのに対し、LINE PayはLINEトーク上で使える割り勘機能を通じて、無料送金の便利さや認知度を上げてくれたことが、2018年最大の功績だったと感じています。この充実してきたウォレット機能と7800万超のユーザー基盤を考えると、みずほ銀行にとっては素晴らしいディールだったんじゃないかなと。

現金使用はついに「社会コスト」になっていく

中国 キャッシュレス

2018年11月、中国四大都市のひとつ、深センの路上にて。移動販売車からの飲料・食料購入にもスマホ決済が使われる圧倒的な浸透度。ただし、旅行者も同等にその恩恵を受けられるとは限らない。

Shutterstock.com

——ここまでの議論を踏まえて、2019年の決済・送金市場、キャッシュレス社会の進展をどう予測しますか。自社、社会全体、双方の視点からの見通しを教えてください。

荻原:我がプリンのキーワードは、従来通り「お金コミュニケーション」です。2018年末に追加したチャット機能とそのアップデートを軸に、送金時に必ず発生するコミュニケーションをいかにユーザーに寄り添った形で実現していくか。そこを突き詰める年にしたいですね。

社会としては、消費税増税に併せて政府がキャッシュレス化促進の施策を強く打ち出しているので、その方向に行くでしょう。

現金取引の社会的コストはあまりに大きすぎる。人手不足が深刻化するなか、コインパーキングの現金を回収して銀行に持っていくとか、飲食店で個別に注文をとって現金で精算してもらうとか、そんな余裕はもうありません。現金を使う人は社会や他人に迷惑をかけている、冗談ではなくそんな認識になっていくと思います。

Kyash 鷹取真一

クルマの世界ではプリウスが出て、今度は電気自動車が主流に……と激しく時代が動いているのに、金融だけが現状に安住できるわけがない、とKyashの鷹取氏。

鷹取:2019年は、デジタルマネーによる給与支払いの解禁と、本人確認のデジタル化によって、事業領域を超えて多様な事業者がバンキングに近いところでビジネスを展開するようになっていくと予想しています。そこでまた新しいビジネスモデルが生まれてくるでしょう。例えば、プリペイドのアカウントが銀行口座に近い存在となり、ニーズに応じて(月1度に限らず)フレキシブルな賃金の受取りができるようになるとか。

また、荻原さんが指摘した現金取引のあり方の変化について言えば、デファクト(標準)がデジタルマネーになっていくので、そんななかでどうしても現金が必要になった人は、手数料を払って「現金を借りる」ようになると思っています。さすがに、2019年にすべてそうなるというわけではありませんけどね。

伏見:Origamiとしては、ローカルとグローバルそれぞれに合わせた展開を考えています。ローカルでは、現金決済しかできない中小事業者にキャッシュレス化の波に乗ってもらうため、信用金庫をはじめ地域の金融機関としっかり組んでサービス展開していきたい。

そしてグローバル。2018年12月に上海視察をしたのですが、向こうはほとんどスマホ決済なのに、日本から行った我々はAlipayやWeChat Payをアクティベートできるとは限らない。銀聯カードは持っていないのに、VisaやMastercardは使えない。やむを得ず現金を使うと、いちいち偽札チェッカーにかけられることもあります。

現実として、現地の方々と僕ら旅行者が受けられるサービスにははっきりとした違いがありました。しかし、訪日外国人の方々には同じ思いをさせたくない。そのためにOrigamiができることは何でもやります。

そして最も大事なのは、決済の前後にある体験をサービスに組み込んでいくこと。簡単な例で言えば、事前に予約してある時間に行列に並ぶことなく商品を受け取るとか。「決済をしている」という感覚をできるだけ薄めたい。一連の自然な流れのなかで、気づいたら決済が終わっている、そんなサービスを具体的な形で世に出していきたいですね。

(取材・構成:川村力/小林優多郎、撮影:岡田清孝)

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