セブンイレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマートが2019年8月末までに成人誌の取り扱いを原則、中止すると発表した。なぜ今のタイミングで一斉に決まったのか。コンビニに成人誌を卸している出版社は今回の決定をどう受け止めているのか。
五輪で来日する外国人にも配慮
東京都内コンビニの成人誌コーナー。雑誌の棚自体が縮小され成人誌を販売していない店舗も多い。
撮影:竹下郁子
ローソン広報室によると、雑誌など書籍の販売については、原則出版社ではなく取次会社とやりとりしていると言う。
契約は半年ごとに見直しており、成人誌の販売を中止する決定は、2019年1月に入ってから取次会社に伝えたという。
実際ローソンの成人誌コーナーで販売されていた雑誌の出版社に、今回の決定をどう受け止めているか問い合わせたところ、
ワニマガジン社(漫画『華漫』など)「特にコメントすることはない」
大洋図書(『ご当地人妻密会DX』など)「担当者がいないのでコメントできない」
(注:取材時に不在ということではなく、常時いないとのこと)
マイウェイ出版(『金髪美尻』など)「社の見解がまとまっていないのでコメントは控える」
など、いずれも実質“ノーコメント”だった。 (2019年1月22日時点)
成人誌は中が見られないようにテープが貼ってあるが、袋で覆われておらず、表紙は誰の目にも入る。
とはいえ、コンビニ側もいきなり販売中止ではなく、雑誌をビニール袋で覆うなどの対策も取れたのではないか。ローソン広報室に尋ねると、
「袋に入れる作業は営業負荷もかかりますし、何より(先行して販売中止をしてきた)沖縄で理解が得られました。昔とは客層が変わり女性やお子さまの来客頻度が増えているので」(ローソン広報室)
ローソンは2017年11月から沖縄県の全店舗で成人誌の販売を中止しており、客や加盟店からの理解が得られたため、全国に拡大することを決定したという。背景には、女性や子ども、そして2020年の東京五輪・パラリンピックなどで増える外国人観光客への配慮がある。
非効率で批判も多い
成人誌は中が見られないようシールが貼ってある。
撮影:竹下郁子
こうした社会的な要請に加えて、成人誌の売り上げが落ちていると見ているのはコンビニに詳しい流通アナリストの渡辺広明さんだ。
「多くのアダルトコンテンツがインターネットで見られるようになったので、コンビニの成人誌は2〜3日に1冊売れればいい、くらいのペースです。非効率な上に批判も多いので販売するメリットがないというコンビニの経営判断でしょう。男性目線のものだけがつくられていること、表紙や裏表紙の表現や描写を自制するなど配慮をしてこなかったことなど、出版社側の問題も大きいですね」
渡辺さんは元ローソン社員。現在も週に何日かは店舗に出向いているそうだが、成人誌を買うのは65歳以上の男性がほとんどだという。
実際、ローソンの「チェーン全体における成人誌の売り上げは1%未満」(ローソン広報室)だそう。
Twitterには賛否両論
撮影:今村拓馬
成人誌の販売をいち早く中止したのはミニストップだ。行政主導で2017年12月1日から千葉市内、そして2018年1月からは全国にも広げた。
当時、熊谷俊人千葉市長が「災害時のトイレ解放など、コンビニ店舗の社会インフラとしての重要性が増す中、過激な成人誌の表紙がトイレへの通路等に露出されていることに対して何らかの対策を求める意見がありました」など経緯をツイートすると、Twitter上には多くの(市長Tツイートへの)批判があふれた。
それに比べると今回のコンビニ大手の発表には賛同の声が増えたようにも感じるが、いまだ反対の声も根強く、「ドラッグストアで堂々と生理用品を売っていることも男性軽視なのでは?」「ananのセックス特集も子どもに悪影響なので置かないで欲しいですね」などのツイートも。
上記にはそれぞれ「日本の性教育がいかに欠如しているかの見本」「性暴力と性行為の区別ができていない」という女性たちからの反論があった。
次は写真週刊誌?
一方で、日本雑誌協会も成人誌の定義について懸念を示す。
ローソンは今回、販売中止の対象になる成人誌は「各都道府県青少年育成条例等で定められた未成年者(18歳未満者)への販売・閲覧等の禁止に該当する雑誌及びそれらに類似する雑誌類」だと表明している。これは日本フランチャイズチェーン協会のガイドラインに基づく基準で、青少年育成条例で禁止されているものはもともと販売されていない。
「私たちは『それらに類似する雑誌類』の範囲が明確に示されていないことに疑問を感じています。写真週刊誌なども含まれてくるのかどうか、何を以って線引きをするのか」(日本雑誌協会)
前出の渡辺さんは、県などの地方自治体がコンビニチェーンに青少年育成条例に関して指導する場に何度か足を運んでいるが、そこでは「男女がまぐわっているような描写はNG」だと言われたそうだ。
雑誌売り場が縮小していく?
先に成人誌の販売を中止したミニストップには「約8割が賛成」の反応だった一方、「約1割が男性からの反対」だったそう。
撮影:今村拓馬
「表紙の文言や写真だけ見ると週刊誌の方が過激で暴力性をはらむことも多い。リスクも多いし、コンビニにおける雑誌の売り上げ自体も落ちているので、今後は棚自体が縮小していくでしょうね。最後に残るのは漫画くらい」(渡辺さん)
ローソン広報室の担当者は、これまで成人誌を置いていた場所に代わりに何を販売するのかまだ決めていないと前置きした上で言う。
「店舗における雑誌コーナーは縮小傾向にありますが、街の本屋さんが少なくなる中で、実は文庫本など書籍の売り上げは伸びているんです。現段階では出版物全体の販売を減らすという方針ではないです」(ローソン広報室)
(文・竹下郁子)