【独占】世界のヤマハが社員8人の電動バイクベンチャーに「1億円」出資した理由

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左から、ヤマハ発動機の木下拓也氏(執行役員、MC事業本部長)、グラフィットの鳴海禎造代表。資本業務提携の発表会見で握手を交わした。

折りたたみ式の電動ハイブリッドバイクの開発・販売を手がけるグラフィット(glafit、和歌山県和歌山市)は、二輪の製造・販売大手のヤマハ発動機(静岡県磐田市)と資本業務提携を結んだ。

グラフィットは、ヤマハ発動機をリードインベスターとする数億円規模の資金調達(シリーズAラウンド)を実施。ヤマハ発動機は約1億円を出資する。木下事業本部長によると、同社MC事業本部(モーターサイクル事業本部)としての国内ベンチャーへの出資は初の事例だという。

グラフィットは2017年9月1日に設立、2018年12月末現在で従業員8名という、創業わずか2年目のハードウエアスタートアップだ。資本業務提携におけるヤマハ発動機の狙いはどこにあるのか? 鳴海禎造代表に聞いた。

ヤマハと電動バイク「GFR」次期モデル開発に取り組む

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グラフィットは、ペダル付きの折りたたみ式電動バイク「GFR-01」商品化のため、クラウドファンディングのMakuakeで2017年8月、過去最高額となる約1億2800万円の支援金を集めたことで、スタートアップ界隈で名を知られるようになった。

GFR-01は2017年10月に一般販売を開始。オンライン販売のほか、オートバックスなど通常の二輪(原動機付自転車)とは異なる小売りの販路を使って販売台数を拡大してきた。GFR-01の販売実績は、当初1年で約3000台にのぼる。

鳴海氏は「詳しい情報ソースは明かせませんが」としながらも、複数の信頼できる二輪市場関係者の情報として、GFR-01の販売規模は、国内における「電動バイク市場」で、事実上トップクラスだと説明する。つまり、ヤマハ発動機から見れば、電動バイク販売で国内有数の1社に出資したという形になる。

今回の資本業務提携によって両社で取り組むものは決まっている。GFR-01シリーズの「派生モデル」の開発だ。

「“派生モデル”という呼び方は暫定的なものですが、早い話がGFRシリーズの“次”をアップデートしていく(次期モデルに取り組む)、ということです。開発はすでにスタートしています」(鳴海氏)

二輪産業が斜陽産業と言われて久しいが、その情況は深刻だ。50cc以下の原付第一種だけで見ても、およそ20年前の1995年に88万台だった出荷台数は、2017年には17万台と5分の1以下にシュリンクしてしまった。

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GFR-01(ウメボシレッド)。価格は税込15万円。最高時速30km/h、1充電で約40kmの走行ができるほか、充電切れでもペダルをこいで走ることができる。

そうした背景のなか、1955年創業の世界的な老舗二輪メーカーが、創業2年目のベンチャーに出資する —— この構図には非常に想像力をかきたてられる。

鳴海氏によると、ヤマハ発動機との資本関係は、「会社法上の関連会社にはならない」(鳴海氏)範囲。今後、ヤマハ発動機側から社外取締役が1名、就任する見込みだ。

GFRを発売したことで、複数の自動車メーカーから連絡が来た

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Makuakeのプロジェクトページ。1億2800万円という支援額はいまでもMakuake市場最高額だ。

ヤマハ発動機側からコンタクトがあったのは、GFR-01の一般販売開始から間もない2018年1月。実は、ほぼ同時期に、ヤマハ以外にも複数の大手メーカーから「話を聞かせてほしい」と連絡が来たという。

「(GFR-01の実績をつくったことで)ベンチャーキャピタルから連絡が来るのは想定の範囲内ですが、自動車メーカーからの連絡には、とにかく驚きました。ちょっと会って話せませんか、と言われて、最初はどんな話なのか、と」(鳴海氏)

大手メーカーがグラフィットに興味を持った理由はシンプルだ。

まだ国内で各社が手探りで模索する電動バイクという市場で、まったく無名の和歌山のスタートアップが、電動バイクを1年で3000台売るという販売実績をつくってしまった。どういう集団なんだ? というわけだ。

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駆動モーターはホイール内側に内蔵する、インホイールモーター式。この方式は、タイヤをペダルで回す際にもモーターが駆動抵抗にならないのがメリット。一部の電動自転車とは違って足こぎでも想像以上に軽く走る。

鳴海氏がヤマハ発動機を訪問してみると、すでにグラフィットのことをしっかり調べていることがわかった。その上で、何らか協業できないか、という提案を受けたという。

「正直言って、驚いたし、うれしいという気持ちもあった」(鳴海氏)

ただ、冷静になってみると、スタートアップであるからには、爆発的な成長ができなければ意味がない。相手は従業員数5万3000人(連結)の大企業で自分たちは従業員8人の小さな所帯だ。企業としての体力も人的リソースも違う。大企業と協業するなら、最も「本気」で取り組んでくれる相手を見極めたかった、と鳴海氏。

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ヤマハ発動機のリリース文。

そこで、声をかけてくれたすべてのメーカーに「単なる(アドバイザーや手数料的な)出資ではなく、子会社やCVCからの出資でもなく、本社から出資してもらえないか」という趣旨の申し出をした。本社出資となれば当然、社長決済をすることになり、企業側にもそれなりに責任のある人物を立てることになるからだ。

そうしたやりとりの結果、最後まで本社出資を検討し続けたのが、ヤマハ発動機だった。

「二輪のノンユーザーが買った電動バイク」が評価された

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タイヤは前後14インチ。自転車でもない、原付スクーターでもない、不思議な乗車感覚をもっている。

今回の協業は、公式発表の内容として具体的な2社のシナジーについて言及はない。とはいうものの、取り組みのイメージとしては「現時点で具体的にはいえるものはありませんが、ヤマハさんには、老舗二輪メーカーの支援として期待する部分はさまざまある」と鳴海氏は言う。

その「期待」には、ヤマハの車両作りのノウハウ以外にも、ブレーキなど車体パーツの供給や、実車の完成度を高めるためのテストコースの活用といったものも視野に入っているはずだ。そうでなければ、「業務提携」までする意味はないからだ。

一方で、ヤマハ発動機側のメリットは何か?

鳴海氏は2つのポイントを挙げた。1つは、グラフィットの車両作りの特徴である「量産ありきのアジャイル開発」。もう1つは、「二輪のノンユーザーの市場を開拓したこと」だ。

「世の中にこれだけモノがあふれていて、その製造を支えるメーカーも増えている。であれば、世界に既に存在するモノ(パーツ)を活かして組み合わせる方が、モノづくりは圧倒的に速いし(自分たちが量産に漕ぎ着けるためにも)確実だ、と考えたんです。パーツを組み合わせるときに足りない、“パーツとパーツを連携させる部分の開発”に特化する、という考え方です」(鳴海氏)。

これが、グラフィットの言うアジャイル開発だ。

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一般的な「バイク」のイメージからすると極めて簡素なメーター。

テクノロジー家電のハードウエアスタートアップでは、「世界の工場」と言われる中国・深センの下請け工場の技術をフル活用して、高速・小ロットでのモノづくりをすることは、今や珍しくない。

グラフィットは、秋葉原の組み立て式の自作パソコンのように、世の中にあるパーツを組み合わせて電動バイクをつくれるのではないかと考え、量産を実現した。ある意味、大企業では思いついてもまず実行しない、対照的なモノづくりの手法だ。

しかし、それが電動バイクにおける一種の「テストマーケティング」としても有効だったことは、GFR-01が一定の成功を収めたことが証明している。

また結果的に、GFR-01を買い求めた相当数が「二輪のノンユーザー」と推定されることも興味深い。鳴海氏によると、自動車系のある販路では、GFR-01の購入者の自動車所有率が極めて低かったり、またグラフィットへの問い合わせ内容にも二輪や原付の所有経験の低さを感じさせるコメントが多いと語る。

その上で誰もが気になるのは、ヤマハ発動機にとって自社の原付と競合しないのか、ということだ。鳴海氏はその点は明確に否定する。

「(法的には原付の扱いだがGFR-01は)乗ればわかりますが、原付とはまったく違う。自転車以上、原付未満、まったく別の乗り物です」(鳴海氏)

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折りたたむとこのサイズになる。普通乗用車のトランクに複数台積めるほどのサイズだ。マンション住まいの都市圏住人がエレベーターで自室に持ち込んで保管している、という利用スタイルは納得感がある。

実際、GFR-01の使われ方は独特だ。たとえば、最近の賃貸物件では原付をマンションに置くことが難しい場合がある。しかし、グラフィットのユーザーは自転車のようにエレベーターに乗せて、自室まで運び、室内で折りたたんで保管する。

一方、郊外ユーザーは、クルマのトランクに積みっぱなしにして使う人もいる。こうしたケースでは、ドライブで訪れた観光地で、自転車代わりに乗って移動するなどに使われる。折りたたみ式で重量約18kgという軽量車両だからできることだ。どちらの利用スタイルも、たしかに一般的な原付には不可能だろう。

「ヤマハさんは、放っておいてもうち(グラフィット)みたいな会社は出てくる。だったら、むしろ連携していく方がモビリティ業界のためになる、と捉えてくれたんだと思います。

今までは、中国の工場を使いながらも(本社のある)和歌山に閉じこもって開発してきました。(ヤマハと取り組む)次期モデルでは、得意とするモビリティのアジャイル開発と、(ヤマハの二輪業界の知見とを)新旧ミックスした開発手法を確立したいと思っています。(“新”、“旧”)どちらでもない、“間”の開発手法があるはずですから」

今回の資金調達は、次期モデルのための開発系の人材採用と、開発のための設備購入にあてる。二輪メーカーとしての基盤を一層充実させるという狙いだ。グラフィットが目標とするのは、モビリティメーカーとして、「和歌山県で10社目の上場企業になること」(鳴海氏)。

ヤマハ発動機との資本業務提携は、その目標に向けた着実な第一歩だ。

編集部より:発表会の内容を踏まえ、一部表現をアップデートしています 2019年1月24日 13:25

(文、写真・伊藤有)

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