“第4の人材”アジアで狙う日本企業 —— アジアエリートは「企業文化」重視

空前の人手不足時代を迎え、日本企業の採用活動は海外、特にアジアに広がっている。求めるのはアジアの優秀な学生たち。日本企業に就職したいというアジアの学生たちは少なくないが、彼らが求めるものに企業は応えているだろうか。

ASEANキャリアフェア

1月26日に開かれたASEANキャリアフェアには、開始前から多くの学生たちが列をなした。

提供:エナジャイズ

2013年、ASEAN諸国の大学に学ぶ学生と日本企業をマッチングする試みとして始まった「ASEANキャリアフェア」。2019年1月26日にシンガポールで開かれた回で、7回目を迎えた。例年、参加企業には第一生命保険、博報堂、パナソニック、富士通、三井物産、ヤマト運輸など、大手企業が名を連ねる。まさに日本企業による高度人材外国人を獲得する最前線になっている。

フェアに参加できる学生は、ASEANトップ大学の学生で教授推薦がある600人に限られる。

「日本文化に興味があって参加した。日本企業で経験を積んでみたい」

2018年のフェアを取材した時には、参加したシンガポール国立大学でエンジニアリングを専攻している男子学生は頰を紅潮させながら、こう話していた。キャリアを築けるならば、働く国や地域に大きなこだわりはないと話す。

日本語能力は必ずしも必要なし

ASEANキャリアフェア

ASEANキャリアフェアの参加要件には日本語能力が含まれていない。

提供:エナジャイズ

“国際的エリート”である彼らに日本企業が目をつけるのは当然だが、特徴はセミナーの参加要件には日本語能力は含まれていないことだ。日本語をまったく話せない学生も少なくない。日本に滞在している外国人留学生であっても、日本語検定N1レベル(日常会話に加え、幅広い場面で使用される日本語)を取得していなければ採用しない企業が多いことからも、アジアでの採用はポテンシャル重視といえる。

海外支店など日本語をあまり必要としない現場に配属される場合もあるが、多くは日本で就業している。ASEAN諸国の学生は母国語と英語に加え、その他の外国語を話す人もおり、言語習得能力に優れていると言われる。採用後の日本語トレーニングを経て半年ほどで言葉の問題を克服していくケースがほとんどだという。

グローバル化に対応できる人材を採用したいと考える企業は急増している。

「日本で学ぶ日本人」を第1の人材、海外で学ぶ「日本人留学生」を第2の人材、日本に学ぶ「外国人留学生」を第3の人材とするならば、「海外で学ぶ外国人」は第4の人材だ。人数に限りがある第1~第3の人材に比べ、第4の人材の絶対数は非常に多く、可能性も無限大だ。

できるだけ多様な国籍から採用

ASEANキャリアフェア

パナソニック、富士通など日本の大手企業のアジア人材の採用の場となっっているASEANキャリアフェア。

提供:エナジャイズ

富士通は2014年から毎年このセミナーに参加している。同社では新規学卒採用の約1割が外国籍であり、うち10%をいわゆる“第4の人材”から採用しているという。人材採用センター長の佐藤渉氏によれば、外国籍の学生を採用する一番の理由は、グローバルビジネスの拡大であるという。多様な国にビジネス展開していくためには、現地の商習慣などに長けた人材を採用することが重要になってくる。

「日本で学ぶ留学生も採用していますが、東アジア圏中心でどうしても国籍に偏りが出てしまいます。できるだけ多様な国籍の人を採用したいと考えているので、我々が海外に出かけていき、広く人材を探していく方針はこれからも続いていくでしょう」(佐藤氏)

富士通では「ASEANキャリアフェア」で出会い、採用につなげたい学生を日本でのインターンシップに招く。1カ月ほど現場で働いてもらった上で、採用へと進めていく。

「どんなに優秀な人材でも、定着して働いてもらえなければ意味がありません。そのため日本で働くことのメリットとデメリットをしっかり理解した上で入社してもらうことが重要だと考えています」(佐藤氏)

採用後のフォローも欠かさない。同社では社員メンターが付き、日本語習得にとどまらない、きめ細かい支援体制が組まれている。その結果、外国籍社員の定着率はここ数年上がっており、その比率は日本人社員とほとんど変わらないという。

中国・インド学生は希望初任給400万

メルカリ入社式

積極的に自社で外国人採用を進めるメルカリ。2018年10月1日入社の新入社員は、史上最多の外国籍だった。

撮影:滝川麻衣子

「ASEANキャリアフェア」で留学生に対して実施したアンケートによれば、就職の際に重視するポイントは「企業文化(corporate culture)」が最も高く、「企業戦略(corporate stratagy」が続く。日本人学生が重視しがちな「企業規模(buisiness size)」や「知名度(brand)」などは重視されていない。

日本で就職する際に不安なこととしては、言葉(langage)、文化/習慣の違い(culture difference)を上げる人が多かった。また国籍にもよるが、中国やインドを中心に希望初任給として年収400万円台と回答する学生が多く、日本企業で一般的な年功賃金の仕組みを理解しておかないと入社後に齟齬が出る可能性があるだろう。

また将来について尋ねた項目では「働く国にこだわらない」が64%、「いずれは母国に戻って働きたい」が36%。また転職に関しては、「可能な限り同じ職場で働きたい」が74%、「何年か経験を積み、より良い仕事に転職したい」が24%であり、海外人材=転職指向というイメージに必ずしも当てはまらない。

波風立っても社内活性化を

先ほどの富士通の話に戻ろう。外国籍の社員を増やす一番の理由はグローバル化への対応だが、加えて多様なバックグラウンドを持つ人材がもたらす変革への期待もあるのだという。

「長年、同質性を重視したマネジメントを行ってきました。同質性の中で、阿吽(あうん)の呼吸のようなコミュニケーションがありましたが、外国籍の社員が増えればそれは通用しません。自らの意思を明確にし、言語化することが必要になります。

これは外国籍の社員に限らず、新入社員に対しても当てはまるでしょう。『いちいち言わなくてもわかるはず』のことが伝わっていなかったのはよくある話。多様な国籍の人が働くことで波風が立つこともあるでしょうが、そのことで社内が活性化し、イノベーションにつながっていくと感じています」(佐藤さん)

高度人材外国人を採用する企業は増えており、優秀な人材を確保し、継続して働き続けられるよう、さまざまな支援が始まっている。

2018年末、出入国管理法が改正され、今後は新たな在留資格による外国人労働者がやって来ることになる。しかし、彼らが従事できるのは、日本人の働き手が足らない仕事に限られており、滞在可能な期間も短い。いわゆる人材不足の穴埋め要員として使い捨てられることが危惧されるが、それは日本を選んでやって来た彼らに対して失礼なだけでなく、社会にとって大きな損失になる。

(文・飯島裕子)

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