京都市の金閣寺を訪れた観光客。カレンダー通りなら10連休となる2019年のゴールデンウイークには、旅行関連の支出が増えることへの期待が高まっている。
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2019年のゴールデンウイーク(GW)は10連休。休みが例年より長くなるので、旅行やレジャー関連の消費が増え、先行きが怪しくなってきた景気にプラスに働くのではないか——。そんな見方が広がっているが、本当だろうか。
旅行関連支出は「3323億円増」
2019年1月2日に皇居であった新年恒例の一般参賀。ゴールデンウイークの休日増は天皇の代替わりに伴うものだ。
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「GW期間中の海外旅行の予約が例年の2倍ほど入っている」「航空機の席が確保しづらくなることが予想されるので、早目の予約を呼びかけている」……。
新天皇即位に伴って休日が増え、異例の10連休となる今年のGWを前に、旅行業界関係者の景気の良いコメントがたびたびメディアで報じられている。
カレンダーの上では、2018年のGWは4月28~30日の3連休と、平日をはさんで5月3~6日の4連休に分かれていた。休みが長くなれば、海外など遠方への旅行に行きやすくなるのは確かだ。
第一生命経済研究所が2019年1月に公表したレポートによると、休日が増えたり、皇居がある東京を訪れる地方在住の人が増えたりすることによって、GW期間中の国内における旅行関連の支出は前年より3323億円増え、1兆4824億円に達する見通しだという。
工場ストップなどで日本経済全体ではマイナス効果
ニッセイ基礎研究所作成
一方、ニッセイ基礎研究所の経済調査室長・斎藤太郎氏はこんな見方を示す。
「日本経済全体としては、GWの休日の増加はむしろマイナスに働く可能性が高いと考えています」
斎藤氏が鉱工業生産指数、第3次産業活動指数、全産業活動指数といった経済指標をもとに独自の手法で試算した結果をグラフにしたものが上の図表だ。
休日が1日増えた場合の「生産量」(サービス業などの場合は「活動量」)は旅行、宿泊、外食といった業種を含む「生活娯楽関連サービス」では確かに0.83%増える。
しかし、工場の操業日数が減ってしまう製造業を含む「鉱工業」はマイナス0.95%。第3次産業でも「金融業、保険業」(マイナス0.98%)、「医療、福祉」(マイナス0.71%)など、「生活娯楽関連サービス」以外は軒並みマイナスだ。
結局、全産業で見るとプラスよりマイナスの効果の方が大きく、生産量は0.41%減る。2019年のGW期間中の休日数は前年より3日増える。これによる生産量の落ち込みによって、2019年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は0.4%押し下げられるという。
「工場の操業が止まることによる生産減」については、平日の稼働時間の延長などによって調整され、一時的なマイナスにとどまるケースも多いとみられる。
その半面、GWで旅行やレジャー関連の消費を増やした人が、代わりに別の時期に支出を減らす場合もある。職場によっては日給・時給で働く非正規労働者の収入が大きく減る、といった問題も生じる。
「『4~6月期の実質GDPの押し下げ幅が0.4%』ということは、年間を通してみた場合の押し下げ幅はマイナス0.1%。休日が増えるという要因だけで、景気が実勢として悪化するところまではいきませんが、少なくとも景気が押し上げられることは期待できないでしょう」(斎藤氏)
「ロスカット狩り」に身構える市場関係者
年末年始の休み明けの2019年1月4日、大発会を迎えた東京証券取引所。休場中のアメリカや欧州での株安などを受け、日経平均株価の終値が大発会としては過去3番目の下げ幅を記録する大荒れのスタートとなった。
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景気の押し上げ効果が期待できない一方で、「長すぎる連休」が金融市場に与える悪影響を心配する声が広がっている。
2019年1月3日朝。三が日の日本で為替取引に参加する人が少なく市場が閑散とするなか、わずか1分ほどの間に日本円の相場は対米ドルで4円も急騰し、1ドル=104円台と約9カ月ぶりの円高・ドル安水準となった。
「やられてしまった!起きたら1300万ほど強制ロスカットされてた」「終わりました。強制ロスカットで大損害を被りました。今までありがとうございました」……。この日朝、ツイッターにはFX(外国為替証拠金取引)で大きな損失を被った個人投資家の悲鳴があふれた。
一般にFXは損失がかさむと、一定の水準で自動的に清算して損失拡大を防ぐ「ロスカット」の仕組みがある。ドルを買って持ち続けていた投資家は、急激に円高が進むと、ドル売り・円買いの取引を強制される。投機筋のコンピューターによる取引でも同じような仕組みが目立つ。相場が急変すると、自動取引が連鎖して値動きが一方向に向かいやすい構造にもともとなっているわけだ。
日本の金融機関や企業のトレーダーがそろって休み、円の取引が平常時より激減していた正月休み。そこへアップルが1月2日に発表した業績予想の下方修正を材料に、海外のヘッジファンドなどが大規模な円買いを仕掛け、連鎖的な円買いを引き起こして巨額の利益をあげた——。市場関係者の間ではそんな見方が目立つ。
みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏はこう指摘する。
「今回のような海外勢の『ロスカット狩り』は、国際的に見て異例に長い連休となる年末年始やGWに頻繁に起こる印象があり、今や風物詩のようになっています。これは市場のゆがみを利用した収益機会とも言え、健全ではありません」
コンピューターによる取引が急速に広がっている株式市場でも事情は似たようなものだ。東京証券取引所は、今年のGWはカレンダー通りの10連休。この間に海外市場が急変しても、東証では売買できず投資家が損失を被るリスクがある。
「金融市場の運営に限っては休日数を世界基準に合わせることも、中長期的な課題として検討していくべきではないでしょうか」(唐鎌氏)
有給休暇を取れるようにするのが本筋だ
高速道路の渋滞。ゴールデンウイークや年末年始には「ラッシュになると分かっていても出かける」という人も多い。
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「働き方改革」が叫ばれる中、政府が休日を増やすことを疑問視する声はかき消されがちだ。
とはいえ実際には「ほかの時期には休めないから」という理由で、激しい混雑のなか高い費用を払って旅行やレジャーに出かける人や、「年末年始やGWにさえ十分に休めず、代休も取れない」という人も多いのが実情だろう。
朝日新聞による2018年12月の世論調査では、GWが10連休になることについて「うれしくない」という回答が45%で、「うれしい」の35%を上回った。
厚生労働省の調査によると、日本の働き手の有給休暇取得率は5割ほど。2019年4月からすべての企業が、一定の条件にあてはまる社員に有給休暇を年5日は取らせることが法律で義務付けられるが、それによって取得率がどれほど改善するかは不透明だ。
政府がやたらと休日を増やすより、働き手が思い思いのタイミングで有給休暇を堂々と取れるように、日本の企業文化を変えていくことが本筋だ。
(文・庄司将晃)