自らも高校受験生の子どもを持つ小児科医、米倉順孝さん(左)にインフル予防法を聞いた。
米倉さん提供
1月下旬に入り、私の周りでもインフルエンザ患者が急増している。高校受験の子どもを持つ身としては、正直気が気ではない。少子化のためか、インフルエンザにかかっても保健室で入試を受けられる学校も増えているらしいが、受験できないよりはマシってだけだし、わが子には万全の体調で本番を迎えてほしい。
しかもインフルエンザ流行拡大に伴い、毎年のことながら「予防接種をしたのにかかった」という声や、「インフルになるのは自己管理不足」なんて批判も聞こえてきて、何が本当なんだか分からない。同じように受験生の子どもを持つ医師のやってることなら間違いはないんじゃないかと思い、高校受験生の父でもある小児科の開業医、米倉順孝医師(44、福岡市在住)に予防法を聞いてきました。
ワクチン打ってもかかるときはかかる。でも重症化予防の目的も
自分がかかるのも怖いし、子どもにうつすのはもっと怖い。
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——さっそくですが、インフルエンザが流行するたびに、予防接種の効果についても議論されます。最近では芸能人の小島瑠璃子さんや広瀬アリスさんが、「予防接種をしていたのにインフルにかかった」と発言していました。そんな話を聞くと、打っても打たなくても同じかなとも感じるのですが。
米倉さん:予防接種の効果に関しては、いろいろなデータがありますが、統計学的な信頼度の高い最近の研究によると、一定の予防効果があることが分かっています。しかし、その効果が高いものではなく、「打ったのにかかった」という方が少なからず発生しますので、疑問視されることも多いようです。また、インフルエンザワクチンは、シーズンごとに流行しそうなウイルスの型を予測して作られますので、予測が外れたり、ウイルスに変異が起きるとワクチンが効きにくいということが起こりえます。
だからワクチンが効くかどうかを、患者さんに説明するときには、発症予防の効果に関してはざっくり五分五分と説明しています(笑)。
—— 五分五分と言われると、かなり当てにならない印象ですが……。
米倉さん:予防接種の効果には、発症を予防するほかに重症化を抑える効果があります。高齢者や乳幼児はインフルエンザが重症化しやすく、予防接種によって重症化を抑える効果があることが分かっています。どちらかというと、インフルエンザ予防接種の主目的は重症化予防です。
私自身も、特に乳幼児や高齢者、喘息や腎臓病などの基礎疾患を持つ人には、インフルエンザの重症化を防ぐためにも予防接種を強く勧めます。
感染拡大のリスクを下げるための接種
センター試験が終わり、世間は入試シーズン真っただ中。
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—— 失礼を承知でお聞きしますが、米倉さんとご家族は予防接種をしているのですか。
米倉さん:私は大学に入学したときから毎年打っています。妻と子どもたちも打っています。ただ正直言うと私自身にワクチンを接種するのははあまり意味がないかもしれないと思っています。というのも医師として年中インフル患者と接しているので、ウイルスへの免疫がしっかりしているはずだからです。
—— 確かに、インフル患者を診ている医者がインフルになった、という話はあまり聞かないですね。
米倉さん:そうですね(笑)。とは言え、予防接種を勧める立場でもあるので、接種はしています。それに、個々の人間にワクチンが効くかは五分五分と考えたとしても、集団の感染リスクを下げる意味で予防接種はとても大切です。インフルは誰かがウイルスを持ち込んで、家庭や職場で広がりますよね。
——その通りです! 私の某取引先は毎日一人ずつ発症して、パンデミック寸前です。
米倉さん:日常的に接触するグループ全員が予防接種を受けることで、インフルをうつし合って感染が全体に拡大する、というようなリスクを下げるでしょう。
神社への合格祈願もできれば避けた方がいい
インフルエンザ予防法の効果については、医療関係者の間でもさまざまな説があるが、手洗いの有効性を否定する人はほとんどいないという。
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——とはいえ、インフルが流行しだしてニュースになってからワクチンを打とうとしても、在庫切れだったりするじゃないですか。そういう人たちはどうすればいいのですか。
米倉さん:ワクチンは効果が出るまで2~3週間かかるので、遅くとも12月初旬までには接種しておきたいですね。ただ、ワクチンだけではなく、その他に日常的にできる予防策もあります。その一つは、人が多く集まる場所を避けるということです。
—— たしかに。先日、とある集まりに顔を出したのですが、近くに座っていた一人が翌日インフルを発症したと聞いて、まさに恐怖に怯える日々なんです。
米倉さん:我が家は子どもの入試が迫っていたこともあり、今年の正月は親戚の集まりにも参加しませんでした。神社への初もうでや合格祈願も、インフル予防という視点では避けた方がいいかもしれませんね。
—— ワクチン、人込みを避ける……ほかにできることは。
米倉さん:この時期に限ったことではないですが、こまめな手洗いは感染症対策の基本です。手洗いの有効性に異論を唱える医療関係者はあまりいないでしょう。私の子どもたちは外に出るときにマスクを着用していますが、マスクによるインフルエンザの予防効果に関しては、いろいろな意見があって明確ではありません。個人的には、マスクをしているほうが加湿にもなり、ある程度の効果が期待できるのではないかと思っています。また、自分が風邪やインフルにかかっている場合、つばやしぶきを通じてウイルスを拡散することは防げるので、エチケットとしてのマスクですね。
発症しても誰も責められない
——入試シーズンのピークとインフルの流行が重なり、私自身も大変ピリピリしています。どうせかかるなら、入試の日を避けてかかってくれ、とか思ってしまいます……。
米倉さん:私も小児科を開業しているので、毎年、受験生の家族から、「どうしたらインフルにかからないか」と相談を受けます。ただ、発症のリスクを下げることはできても、ゼロにはできないです。個人的には、なんでインフル流行期に入試をするのかなとも思いますが……。とにかく、細心の注意を払っていても、インフルにかかることはあるので、自己管理不足とかそういう問題ではありません。自分や周囲を責めないようにしましょう。
(文・浦上早苗)