なぜ突然の子連れ出勤推奨政策、アンケートでは8割反対。背景には人手不足という現実

子どもを連れて職場で働く「子連れ出勤」を国が後押しするとの方針が、波紋を広げている。Business Insider Japanが子連れ出勤の賛否について緊急アンケートを実施したところ、約8割が「反対」と、子連れ出勤自体に否定的な見方が多数派を占めた。

こどもづれ

政府の推進で注目を集めた子連れ出勤。その実現性とは(写真はイメージです)。

反対理由としてもっとも多かったのは、保育園を整備するなど「他にやるべきことがある」という、政策への違和感だった。

一方、賛成派からは「社会で子育てするなど意識が変わる」という、前向きな意見も。そして男女問わず子連れ出勤を実施してきた企業は、ある大きなメリットを指摘している。(※記事に付けたインターネット調査を実施。回答数84。62%が女性、36%が男性。子どものいる人が6割。20代が17%、30代が45%、40代が34% 。小数点以下切り捨て)

今回の子連れ出勤後押しは、内閣府が自治体の少子化対策を支援する、交付金の拡充策。子連れ出勤を新たに「重点課題」と位置づけ、啓蒙活動などで推進する自治体への補助率を引き上げるという。宮腰光寛少子化担当相が、子連れ出勤を実施する会社を視察し、「これならどこでもできる」と話したという報道も、賛否を呼んだ。

8割近くは反対派、理由は「他にやるべきこと」

Business Insider Japanが1月中に行ったアンケート調査では、反対が77%。「子連れ出勤」賛成派は12%で少数派という結果になった。1割は「どちらとも言えない」。

アンケート1

圧倒的多数だった反対派の理由で多かったのは次のとおり。

1位.保育園を拡充するなど他にやるべきことがある。(28%)

2位.仕事にならない。(18%)

3位.子どもにとって環境がよくない。(12%)

4位.職場で周囲に迷惑がかかる。(10%)

ちなみに、子連れ出勤を認めている職場はどの程度あるのか。「周囲にない」が6割、「ある」は15%程度だった。

アンケート2番め

政府は保育園拡充の責任を放棄したの?

保育園

保育士の待遇改善は、待機児童対策の要となっている。

反対派の人からの自由回答で多かったのが「他にやるべきことがある」という、政府の姿勢への違和感。待機児童対策が進まない中、いきなり「子連れ出勤」はどうなのかという指摘は目立つ。

保育士の女性からは「休日が少ない、残業が多く給与が安い」といった厳しい労働の実態について声が上がった。

「少子化対策でまず大事なことは保育園を増やすことと保育士の給与アップだと感じる。保育士の給与は安すぎて、資格を持っていても活用していない人が多すぎる。私も保育士だが、休みの日も少ない上に残業も多く体力仕事で、子どもたちの命を守っている。以前の看護師のように大幅に給与アップを望む」(25〜29歳女性)

政府が口を出すことなのか?

「子連れ出勤は政府が積極的に進めるべきものではないと思う。それが可能な環境にある職場と希望する人が自主的に取り入れれば良い。政府が保育の責任を放棄したと捉えられても仕方がない」(30〜34歳、女性)

子育て出勤の経験者が求めるのも、保育園の拡充だ。

「実際に不定期に行ってますが、おんぶから降ろせず泣かないように気遣い必要。あやし休憩を引かれたり一時保育に給料持っていかれたりで非効率。でも主人が多忙で早朝深夜や土日に働くこともできないので、給料少なくても働かざるを得ない。でも保育園は正社員育休中しか相手にしてない!」(40代以上、女性)

子どもみながら仕事ができるのか

こそだて2

子育ては当然、母親だけのものではない(写真はイメージです)

Shutterstock

子育ての実態を知っている人からは、「物理的に不可能」という声が。

「絶対に無理です。チョロチョロ動き回って椅子に乗りたがり走り回り泣き叫ぶ子どもを側に仕事なんかできません。会社の同僚にも迷惑です。職場に保育所を作るなら良いですが親が面倒見ながら作業はできません」(30〜34歳、女性)

職場も人手が足りずに忙しい。

「二児の父親ですが、人員削減の中、とてもじゃないけれど、子どもを連れての仕事の遂行は不可能です」(35〜39歳、男性)

もちろん父親も子連れ出勤するんですよね??

前提が母親ではないかという指摘は多かった。

「職場に行くのは育児から解放される時間だから、子どもを連れて仕事をするなんて考えられない。母親だけの話になってるけど、父親ももちろん子連れ出勤するんですよね??」(30〜34歳、女性)

男性の子連れ出勤推奨を。

「今回の発言は母親と母親の職場への負担の押し付け、まったく女性活躍や少子化対策に寄与しない無責任な姿勢が浮き彫りになっていると思います。女性活躍というのであれば、男性の子連れ出勤を推奨してはいかがでしょうか?」(30〜34歳、女性)

3人の子どものいる女性からの声。

「子どもは母親といるべき」という価値観の押し付けにならないか。 「子どもと離れる時間を求めて仕事する人も少なくないと思う。子連れ出勤に賛成する意味がわからない(20〜24歳、女性)

政治家は子連れで国会に

そもそもこれを、国が推し進めようとするところに、違和感があるのかもしれない。

「女に育児も仕事も押し付けすぎ!政府のお偉いさん達はべったり育児をしてこなかったから、子育ての大変さを分かってないと思う!子どもが同じ空間にいたら仕事になんかなるか!!」(35〜39歳、女性)

子どもが3人という男性から。

「政治家が国会に連れてから議論してみてほしい。子どもをどこに居させる気でしょう」(40歳以上、男性)

少なくとも今のままでは回らない

hatarakite

少子高齢化が世界一のスピードで進む日本。働き手は減り続けている。

賛成派で多かったのは「社会の意識が変わる」に続き、やはり「どうしても預けるところがない時に役立つ」

少数派ながらも賛成派の自由回答からは、日本社会に「変化」を求める意識が感じられる。

人手不足対策として、ありだという男性。子どもはいないという。

「少なくとも今のままでは回らなくなっている。もちろん会社に育児施設などを整備するというところから始めないといけないけど、出社時間をずらしたり、在宅勤務を増やしたりしながらやればいい」(40代以上、男性)

子どもに対する社会の意識を変えるきっかけにならないか。

「この未曾有の少子化を前に、年金もらい逃げできるオッサンオバさん達の意見ばかりが反映される世の中の在り方を変えたい。子どもたちがいなければ、社会保障も安全保障も無いという事を国民全体で理解すべきだ。年金は欲しいが保育園は迷惑だ、みたいな意見を臆面も無く言えるこの社会がおかしい。現状を変えるためにも、無理解なオッサンオバサン目の前に子どもの存在を示す必要があると思う」 (40代以上、女性)

保育園入れず働けないは「異常なこと」

子連れ

東京・千駄ヶ谷のソウ・エクスペリエンス社内では、子どもの姿はおなじみだ。

提供:ソウ・エクスペリエンス

アンケートでは、子連れ出勤は大多数が反対派。ただ、男性社長自ら子連れ出勤を実践し、創業以来、男女いずれも子連れ出勤社員のいる会社もある。

2005年に創業した、東京・千駄ヶ谷のソウ・エクスペリエンスは「モノではなく体験を贈る」ギフト事業の会社。約70人の社員のうち、「常時子連れ」社員は5人、代表の西村琢さん含む「時々子連れ」社員が9人という。

西村さん

ソウ・エクスペリエンス代表の西村琢さん。創業時から、どうしても休めない日など子連れ出社してきた。

提供:ソウ・エクスペリエンス

常時子連れは3歳までで「保育園に入れなかった待機児童」という人もいれば、時期によっては「幼稚園に入れたいのでそれまでは子連れ出勤」という人もいる。

代表の西村さんは子連れ出勤を推進してきた理由について「人材の確保」を上げる。

「保育園に入れなかったからといって働くことを諦めなくてはいけないというのは、異常なことだと思っています。会社としてもそれで辞めさせていては、採用コスト育成コストは馬鹿になりません。子連れでもいいよと認めることで、長く働いてもらえるのなら、企業としても圧倒的にいい。知見もたまるし、採用の時にも安心感になります

7割の生産性でも機能する

仕事の業態によっては、子連れ出勤が向かないことに理解を示した上で「通勤ラッシュをずらすなど、ちょっと工夫すれば、やれる職場もあるのではないかと思います」

「もちろん、授乳やオムツ替えなどの時間も生じますし、生産性はいくらか落ちる。ですが、7割の生産性でも長い目でみれば、個人にとっても会社にとっても、一つの手段として機能すると思います」(西村さん)。

優しさや福利厚生というよりは「子連れ出勤してでも業務を回さなくてはいけない日があるという厳しさ」によって、子連れ出勤を認めているというソウ・エクスペリエンスだが、西村さんは最後にこんな効果についても触れている。

「子どもが職場にいることで、和むという面はやはりあると思います。親子以外のナナメの関係ができたり、コミュニケーションの濃度と量が上がっている。(子連れの職場が)会社というコミュニティ形成の核になっているとも感じます」

(文・滝川麻衣子、撮影・今村拓馬)

初出時、東京・目黒のソウ・エクスペリエンスとしていましたが、正しくは東京・千駄ヶ谷のエクスペリエンスでした。お詫びして訂正致します。

編集部より:アンケートの説明部分に加筆しました。1月28日17:20

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