コインチェック事件から1年「仮想通貨の業界再編」を追う —— 進む“脱仮想通貨”、ブロックチェーン開発に着々

ビットコイン

撮影:今村拓馬

暗号資産(仮想通貨)の取引所コインチェックから580億円相当の暗号資産NEMが盗み出されてから1年がたった。

同社は2019年1月11日に正式な仮想通貨交換業者として金融庁に登録され、楽天やLINEといった大手IT企業の参入も近いと言われるが、国内の暗号資産業界関係者には、根強い停滞感が続いている。

取引所の多くは、コインチェック事件後に金融庁から業務改善命令などの処分を受け、セキュリティ、資本、人員など重いコスト負担を強いられた一方で、暗号資産の価格の低迷は続いている。

こうした中で関係者の間では、暗号資産や交換所とは切り離し、ブロックチェーンでデータ流通の信頼性を担保するサービスの開発にあらためて注目が集まっている。

暗号資産が絡まなければ、取引所が課せられている厳しい規制とは離れたところで、事業が展開できるからだ。

「目指した世界とはかけ離れている」

コインチェック

2019年1月11日夜、金融庁への正式な登録について発表するコインチェックの勝屋敏彦社長(中央)、和田晃一良・執行役員(右)、大塚雄介・執行役員(左)

撮影:小島寛明

「日本で暗号資産事業をやっても、株式やFXと似た取引を、より小さなマーケットでできるだけだ。本来、暗号資産が目指した世界とはかけ離れている」

ある取引所の関係者は、ため息をついた。

この2、3年、暗号資産を使ったビジネスのアイデアが次々に登場した。

例えば、アーティストが楽曲や映像をネット上で公開して、視聴した人から直接、アーティスト側に暗号資産で対価が送金される。こうしたアイデアは、金額が小さくても、わずかな手数料で送受金ができる暗号資産の特徴を生かすものと期待されたが、いまのところ、本格的なサービスは登場していない。

高度な計算が必要なブロックチェーンの処理速度が遅い、ハッキングなどに備えるコストがかかるといった課題が、抜本的な解決には至っていない面がある。

暗号資産で資金を集めるICO(Initial Coin Offering)も登場した。海外では、起業後まもないスタートアップ企業でも、アイデアや、プロジェクトチームの顔ぶれなどで、高額の資金調達に成功する事例もあった。

ただ、暗号資産は集めたものの、サービスやプロダクトの開発が進んでいないケースが多く、事実上、日本の金融庁はICOの実施を止めている。

ブロックチェーンサービスに大企業

金融庁

金融庁は暗号資産に関わるビジネスの多くについて仮想通貨交換業者としての登録を求めている。それが暗号資産関連ビジネスの停滞の一因にもなっている。

撮影:今村拓馬

こうした背景から、日本では現在、取引所を通じた暗号資産の売買を除けば、暗号資産が絡むプロジェクトはほとんど進んでいない。

別の取引所の幹部は「今後、取引所も仮想通貨もウォレットも関係ない、データの流通の信頼性に着目したアプリの開発で、スタートアップが本格的な資金調達目指すケースが多数出てくるのではないか」と話す。

これまで、暗号資産とは切り離した形でブロックチェーンを使ったサービスの開発を静かに進めてきたのは、IBM、アクセンチュア、NTTデータといった大企業だ。

複数の国をまたぐ国際的な物流、祖国を逃れた難民の身分証明といった、性質上、中央集権化が難しい分野でのブロックチェーンの活用に対してはいまも期待値が高い。

一方で、これまで、暗号資産の絡むサービス開発を進めてきたスタートアップ企業も、暗号資産と切り離した形でもサービス開発に頭を切り替えるケースが出てきている。

暗号資産が絡んだサービスを展開するには、金融庁から「交換業者として登録してください」と指導を受ける可能性が高く、正式な交換業者になるには少なくとも40〜50人規模の人員が必要だからだ。

この1年、暗号資産価格の急落で、関連のビジネスは停滞している。本来であれば、交換業者も人を減らす方に力が働くのが自然にも思える。しかし、コインチェック事件をきっかけに、金融庁の監督が強化され、取引所のビジネスを続けたければ、人を増やすしかない。

国内ではさらに再編か

LINE

LINEや楽天など大手IT企業も今後、仮想通貨交換業者への参入を予定している。

撮影:小林優多郎

このため、当局からの干渉を避けるうえでも、暗号資産とは切り離した形でブロックチェーン関連のサービスやプロダクト開発を模索する企業が、いまも一定数あるようだ。

本格的なユースケースは登場していないが、データ移転の信頼を担保するブロックチェーンは、さまざまなビジネスへの応用が期待されている。

現在、コインチェックを含め正式な交換業者が17社(テックビューロは撤退を表明)、みなし業者が2社がある。さらに、LINEや楽天など大手企業の本格参入も控えている。

しかし、上述の取引所の幹部は「今後、さらに再編が進み、10社未満に集約されるのではないか」とみる。

金融庁が設定した高いハードルを越えるには、相当の資金的な体力が求められるからだ。

「取引所は、過渡期のサービスに過ぎない。暗号資産が普及期に入った後は、最終的には暗号資産と法定通貨を交換する役割だけを担う存在になっていくだろう。とすれば、国内に数社あれば十分ではないか」とみる関係者もいる。

(文・小島寛明)

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