大みそかを前に、ニューヨークのタイムズ・スクエア周辺をチェックする警察官。
Andrew Burton/Getty Images
- 1月初め、シリア北部の戦闘地域でアメリカ人のウォーレン・クラーク(Warren Clark)さんが、アメリカが支援するシリア民主軍に拘束された。クラークさんは、好奇心から過激派組織IS(イスラミックステート)に参加したという。
- 彼の経歴やテロ組織との緩いつながりは、9.11同時多発テロ後、これまでとは違う、さまざまな人々が海外のテロ組織に引きつけられていることを象徴している。
- ランド研究所の調査によると、2013年以降、アメリカ生まれのISのメンバーのうち約65%がアフリカ系アメリカ人もしくは白人だ。
- 「過激思想に最も影響を受けやすいのは、イスラム教を信仰する、アラブ出身の移民男性という歴史的なステレオタイプは今日、多くのテロリストの典型ではない」と報告書は述べている。
テキサス州シュガーランド出身の旅行好きな学校教師から、ISのメンバーをイメージする人はあまりいないだろう。
だが、ニューヨーク・タイムズの報道によると、テキサス州出身の黒人男性、ウォーレン・クリストファー・クラーク(Warren Christopher Clark)さんは早ければ2015年にも、ISに履歴書とカバーレターを送っていた。クラークさんはその後、アメリカが支援するシリア民主軍によって、シリアで拘束された。過激派や戦闘員になることが目標ではなかったと、のちにクラークさんはNBCニュースに語っている。ただ英語を教えたかったのだ、と。
そしてアメリカのシンクタンク「ランド研究所」が、9.11同時多発テロ後のアメリカ出身のイスラム聖戦士のテロ活動を分析した研究は、クラークさんがまさに新しいテロリズムの現実を象徴していることを示している。
「我々の分析が示しているのは、過激思想に最も影響を受けやすいのは、イスラム教を信仰する、アラブ出身の移民男性という歴史的なステレオタイプは今日、多くのテロリストの典型ではないということだ」と報告書は指摘する。
変化するテロリズム
アメリカ人がアメリカ国内でテロの脅威を与えているということは、今に始まったことではない。
ジョージ・ワシントン大学の過激思想プログラム(Program on Extremism)は2015年、アメリカ国内でのIS関連の活動に関与した疑いで逮捕された71人のうち、58人はアメリカ生まれの人間だったと報告している。
ジョージ・ワシントン大学の研究は、多くの部分でランド研究所の報告書と合致する。ランド研究所は独自の調査によって、9.11同時多発テロの後、ISが影響力を拡大し、ジハーディスト(イスラム聖戦士)のテロリズムに接近するアメリカ生まれのメンバーの数が増え始めたと指摘する。
同研究所によると、ISとの結び付きが知られている152人のアメリカ人のうち106人はアメリカ生まれだ。
一方、アルカイダとの結び付きが知られている131人のうち、アメリカ生まれは59人だ。
また別の調査では、ISが影響力を増すにつれ、アメリカに拠点を置くISのメンバーは人種的にも民族的にも多様化が進んでいることが分かった。これもアルカイダとは違う。
2013年以降、アメリカ生まれのISのメンバーの約65%はアフリカ系アメリカ人もしくは白人だ。これは近年の変化であり、アルカイダに比べても急速に進んでいる。
ISのアピール力
インターネットの力を借りて、テロ組織は時間とともにより"弱者"を狙い始めた。中でも、遠く離れた集団に帰属意識を見出す、若くて社会的に疎外されている人々だ。
ISがソーシャルメディアに精通し、それを使いこなす一方で、アルカイダもインターネットをうまく利用している。ランド研究所は「テロリスト関連のウェブサイトの数は、1998年の100から、2005年の約4300まで爆発的に増えた」と報告している。
その頃、ISはまだ誕生して間もなかった。
それでも、アルカイダのマーケティングが一般的に宗教、人種、ナショナリズムといった観点からより狭い層にアピールするものだったのに比べ、ISはより幅広い層にアピールしていた。ランド研究所の報告書の筆頭著者ヘザー・ウィリアムス(Heather Williams)氏は、今回シリアで拘束されたクラークさんは、必ずしも暴力的でないがテロリスト組織の他の要素を持ち合わせている、メンバーの典型となりつつあるとBusiness Insiderに語った。
「以前もこれに当てはまる人はいた。しかし、今はそうした人が増えている」とウィリアムス氏は言う。
ステレオタイプへの依存を警告する専門家
NBCニュースのインタビューに応じるウォーレン・クリストファー・クラークさん。1月初めにシリアで拘束された。
NBC News
1月初めにシリア北部で拘束された、テキサス出身の34歳の教師、クラークさんは、典型的な「テロリスト」の分類には当てはまらない。
クラークさんはアメリカ生まれのアメリカ人。NBCニュースのインタビューによると、彼はもともと、ISに入るためにアメリカを離れたわけではなかった。だが、旅行好きが高じて、最終的にトルコ、イラク、そしてシリアを渡り歩いた。
彼はISのために武器を手に取ったことはないと言い、ISを抜け出そうとしたときには、テロリスト組織に身柄を拘束されたとNBCに語った。ISに入ったのは好奇心からで、戦闘員になりたいと思ったからではないと話した。
「ここから分かることは、(ISのメンバーと)テロリスト組織とのつながりはとても緩いものであり得るということだ」と、ウィリアムス氏は語った。
ランド研究所の報告書は、クラークさんがシリア民主軍に拘束される1カ月近く前の2018年12月に公表されたものだ。しかし、ウィリアムス氏は、クラークさんのバックグラウンドは、ISの呼びかけに応じる層を示す良い例だと言う。
「調査した多くの人間が、ムスリム国家の内よりも外から誘い出されている。冒険を求めていたのか、誤った方向に導かれた宗教的義務に触発されたのかにかかわらず、彼らは必ずしもアメリカ本国で虐げられていたわけではない」と、報告書は述べている。
それでもウィリアムス氏は、依然として特定のプロフィール、特に国籍に基づくステレオタイプには気を付けるべきだと言う。
「これは生産的な診断ツールではない。むしろ偏見につながる可能性もある」と、同氏はBusiness Insiderに語った。
そして、トランプ政権のイスラム教徒が大半を占める多くの国をターゲットとした渡航禁止令は、対テロ政策として必ずしも有用でなく、むしろ妨げになりかねないとウィリアムス氏は言う。
「(法執行機関の)知見が歴史に基づくものなら妥当性はあるが、彼らは変化を認識すべきだ」
(翻訳、編集:山口佳美)