就活で、内定をとった後に立ちはだかる、真のラスボスとは。
撮影:今村拓馬
学生が、就職活動において乗り越える試練はたくさんある。
自己分析を繰り返しても自分が何者なのか考えてもわからず、面接に落ちても何が良くて何が良くなかったのかたいていはわからない。
そして何とか自分の力で手にした内定。覚悟は、決めた。だが、ここで終わりではない。最後に立ちはだかる就活のラスボスがいる。
そう、親だ。
勝手に内定辞退電話する親
学生や採用担当者と話をしていると、親の愛がねじれてしまっている話をよく聞く。例えば成長著しいベンチャー(既に一部上場)でチャレンジしたい女子学生の父親が、娘の意思を無視して勝手にその会社に内定辞退の連絡をした話を聞いた。その女子学生は失意の中、父親が指定した会社にいくことに。「私のせいで家族が不幸になってはいけないから」と。
父親がベンチャーへの入社に反対した理由は、「その企業をよく知らないから」。自分の勤める会社が最強だと盲信している。
「ベンチャー企業は、へこへこ頭下げてお父さんの会社と取引しにくる。いい大学出て、そんなことしたいのか?」
と言われたという。
「大企業と公務員以外は許さん」と、殴り飛ばされた学生も。
撮影:今村拓馬
父親の会社は確かに家電メーカーとしてグローバルカンパニーだし、この国の経済成長に大きな貢献をしたかもしれない。ただ、娘の今の就職先として良いかどうかは、もう少し冷静になったほうがいいのではないだろうか。
またある別の学生は、社長や仕事の内容に惹かれて受けた地場の中堅企業に内定。だが内定書類を親に破られ、「大企業と公務員以外は許さん」と殴り飛ばされた。新しく一人暮らしをするための住宅の賃貸契約も済ませていたのに、強制的に解約させられたという。大きな企業は受けていなかったし、公務員になる理由も見つからない。今はアルバイト生活をしているという。
こんな親は少数派だと思われるかもしれないが、採用の仕事をしていると、こんな話はいくらでもある。
その安定は誰のため?
「我が子に幸せになってほしい」。大抵の親はきっとそう思っている。ただ、我が子に幸せになる方法を教えられるのは自分だけだと思うのはもうやめた方がいいのではないだろうか。それは無駄な責任感というものだ。なぜなら、親自身は旅(進化)をやめているのだから。
親ブロックが起きる理由について考える。数え切れないほどあるがここでは3つ。
⑴キャリアの積み方が多様化していることを知らない/実感していない
転職、起業、フリーランス、働き方は多様化している。大手企業に入ることは悪くないが、キャリアを自分でつくる自由と引き換えに手に入れられる「セーフティネット」の頑丈さは昔ほどない。親たちは知っているだろうか。一部上場企業の部長が初めての転職で求人がひとつもなく愕然としたことを。
⑵安定と安心、子どもと自分、二重のねじれ
子どもに安定して欲しいといいながら、実は自分が安心したいことに気づいていない。「あなたのためだから」というときに、それは本当か、そっと自分の胸に手を当ててみるといい。
⑶教育しているつもりが依存していた
子どもの意思決定を尊重し向き合った経験がないまま、就職という人生の重要な意思決定の機会を迎えてしまった。習い事は何をやりたい?今何をしたい?部活は?進学先は?そのときに、子どもの意思を尊重して聞きましたか?子どもはホンネを言ってくれましたか?
子どもは賢い。親が自分より今を生きる力がないと、進化していないと気づいたときに、相談をやめる。進化をやめた親は、善意で子どもの邪魔をしてしまう。
「自分で選んでない」に呪われる
「親が喜ぶだろうから」と決めた、就職先で起きる、本当の問題とは。
撮影:今村拓馬
自分にも経験がある。
親は悪気なく言ってくる。10年前、大学3年生の時、母は言った。
「仕事にやりがいなんて求めたらダメよ、辛いことを頑張って家族のために給料をもらう。それが仕事」
違和感を感じながらも、自分は甘いのかなと思ったことを覚えている。
母は、僕にたくさんの愛情を注いでくれた。あの言葉も悪気は一切ない。願うのはひとつ、僕の幸せだ。
だが、結果として僕は、ある理由から不幸に向かって歩むことになる。それは母親のせいではない。親が好きだし、親を傷つけないことが、子どもの使命だと思うのは自然なことだ。
結果として、周りには何かと見栄えのいい理由をつけて、親に配慮して就職先としたメガバンクを選んだ。親が望むからという理由だけで決めたわけではない。でも今考えると、「自分で決めること」にビビり、「親も喜ぶだろうから」という理由に甘えたのだ。
僕はそういう意味で、不幸なギフトを持って社会に出てしまった。当時辛いことがあったとき、僕は何百回も自分にこの呪文を使った。
「自分で選んだ道じゃないし」
親のアドバイスを聞くか聞かないかは、実はそんなに問題ではない。最も不幸なのは、呪いのようなこの言い訳と二人三脚で歩まないといけないということなのだ。
子どもの人生のお荷物になりたくない
僕には今一歳の子がいる。子どもと一緒にいると日々選択を迫られる。例えば、彼がペンをくわえてよちよち歩いているとき。例えば、彼が机に登って、端っこでご機嫌に踊っているとき。例えば、僕のスマホを舐めているとき。
ペンを取り上げ、机から抱っこして下ろし、スマホを取り上げるのはすごく簡単だ。でも、それでいいのだろうか? 子どもが何をやりたいのか、その心と向き合うこともないままに。
常に子どもに良かれと思って親が先回りをしてしまった結果、どうなるのだろうか。将来例えば自分の息子が「友達3人で事業やるぜっ」て言った際、例えば彼が「大学意味ねーから中退するわ」といった際、僕は何と言うのだろうか。そう自分に問いかけ続けると、ビビってる自分に出会える。「自分の当たり前」に侵されている自分に気づく。
僕は、子どもの人生のお荷物にはなりたくない。 だから、「賞味期限切れのアドバイス」だけはしたくない。 彼には自分で学んで、自分で考えて、自分で選んで、自分で決めた道を、自分で歩いて欲しいのだ。
愛は化石化すると鈍器に変わる。一方的な古い価値観や、歪んだ正義感の愛は、子どもを撲殺してしまう可能性があるのだ。
ラスボスが一番の応援者になる時とは
就職に関して、親の一方的な愛を受けたことがある人は多いのではないだろうか。ほとんどの親に悪気はない。ただ、あなたに幸せになってほしいと思っているはずだ。
そしてほとんどの不幸はHowの強制から生まれる。もしあなたが親のために生きる覚悟があるのなら、そのHowを受け入れるのは自由だ。今までの教育投資を気にすることもあるだろう。その投資の返し方も自由だ。自分で決めた道を自分の足で生きる姿を見てもらうという恩返しのかたちもある。
しかし、「自分で決めたわけじゃない」。もし、あなたが仕事で壁に当たるたびにこの呪文を唱える姿が見えるのなら、ここで初めて意思決定を勝ち取る勇気を出して欲しい。
対話で愛のねじれが解けたとき、ラスボスが一番の応援者になることもあるから。
寺口浩大:ワンキャリアの経営企画 / 採用担当。リーマン・ショック直後にメガバンクに入行後、企業再生、M&A関連の業務に従事。デロイトで人材育成支援後、HRスタートアップ、ワンキャリアで経営企画/採用を行う。社外において複数HRに関わるコミュニティのデザイン、プロデュースを手がける。3月よりライターとしても活動を開始。https://note.mu/telinekd