戦後最長景気に沸く日本経済。いまこそ将来に向けて先手を打つべき「3つの戦略」

ファーウェイ CES

2019年1月9日、ラスベガスで開催されたCES 2019にて、ファーウェイの展示ブース。日中貿易戦争は、次世代通信網を巻き込んだ「5G戦争」へと向かっているとの見方もある。

REUTERS/Steve Marcus

激変する世界情勢の中で、2019年は日本経済にとって大変重要な節目になるのではないだろうか。自らの立ち位置を見据え、日本経済の将来を考えながら行動を取らねばならない年となるだろう。そして、そこに大きなビジネスチャンスも見出されると思う。

まず、世界の情勢を少し簡単に整理してみよう。

アメリカではトランプ政権が3年目を迎え、就任以来トランプ大統領が唱える「アメリカ第一主義」が、さまざまな問題を引き起こしている。その最たるものが、中国との関係だ。

米中貿易戦争は、3月1日までという期限付き交渉の真っ最中だが、政府債務の拡大とアメリカの関税制裁により停滞期を迎えつつある中国経済の厳しい現状を考えると、中国はかなりの譲歩を迫られることになるだろう。

また、米中貿易戦争はすでに「5G戦争」へと戦線を拡大しており、ファーウェイをはじめとする中国のIT産業はいまにも西側諸国から締め出されかねない状況にある。アメリカ国内における中国への警戒心は、共和党、民主党を問わず根深く、この緊迫した状況は当面続く可能性がある。

不安定さが増すヨーロッパ情勢

ブレグジット

英ウェストミンスターの議会議事堂前でブレグジットに抗議する市民。「合意なき離脱」へとこのまま向かうのか、状況は予断を許さない。

REUTERS/Clodagh Kilcoyne

欧州はどうだろうか。

イギリスの欧州連合(EU)離脱、いわゆる「ブレクジット」は、どうやってEUを離れるのか議会内でのコンセンサスが取れず、EUと正式合意できないまま離脱の日を迎える可能性が高まっている。「合意なしブレグジット」となれば、イギリスにもEUにも大きな経済的混乱が押し寄せることになるだろう。

フランスでは、マクロン大統領の大企業寄りの経済政策に反対する若者や労働者が、パリの街で毎週末のようにデモを繰り返しており、政権は不安定の一途をたどっている。

ドイツでは、メルケル首相が、自ら党首を務めるキリスト教民主同盟(CDU)がバイエルン州やヘッセン州など主要な地方選挙で敗北したことを受け、「2021年に(任期満了をもって)首相を辞任する」と発表した。

イタリアも財政問題を抱え、ポピュリスト系であるコンテ政権は不安定だ。

自由貿易主義のリーダーシップ求められる日本

TPP 茂木敏充

2018年3月、チリの首都サンティアゴで「TPP11」に署名した11カ国の代表。右から4番目に茂木敏充経済再生担当相の姿が見える。

REUTERS/Rodrigo Garrido

それでは、日本はどうか。

安倍政権は2012年12月の第二次内閣発足から7年目を迎え、いまや先進7カ国(G7)の中で最も安定した政権と言えるだろう。

対外的には、アメリカを除く11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP11)が2018年12月30日に発効。さらに日本とEUの経済連携協定(EPA)が2019年2月1日に発効する。前者の効果でカナダ産の牛肉が値下がりしたり、後者の効果で欧州産のワインが値下がりするなど、すでに自由貿易のベネフィットが出始めている。

世界が保護主義に走りかねない情勢のもとで、自由貿易を望む人々は、日本にそのリーダーシップを期待している。また、中国との関係は改善され、ロシアとも平和条約締結に向けて対話が続いており、日本はいま世界のどの国とも良好な関係にあると言って過言ではない。

ポイント(1)地方のグローバル化を推進する

地方経済 溶接 モノづくり

日本の地方には高度なモノづくりの伝統が引き継がれている。写真は長野県の溶接技師。

Anastasia Antoshkina/Shutterstock.com

そうした世界情勢の中で、2019年、日本経済が注力すべきポイントを3つ挙げておきたい。

1つ目は「地方のグローバル化推進」である。ここには大きな伸びしろがあり、ビジネスチャンスも転がっている。

日本はかつて、プラザ合意(1985年)による急激な円高に対応し、20世紀末から21世紀初頭にかけて、「輸出主導型の経済」から「グローバル・ネットワークによる経済」に構造転換を図った。輸出を支えてきた自動車や家電の生産拠点が、国内から海外に次々とシフトしたため、高品質なモノづくりを担ってきた地方経済が弱体化するという事態に陥った。

実はアメリカでも日本と同じことが起きてきた。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年以降、アメリカの製造業は安価な労働力を求めて、生産拠点を次々と中国に移した。モノづくりを得意としたアメリカの地方経済は失業に見舞われ、グローバリゼーションという言葉は、中央のエリートが金儲けをするための用語と見なされるようになった。そうした地方と中央の分断につけ込んだのがトランプ氏だった。

しかし、日本の地方経済には可能性がまだまだある。質の高いモノづくりは健在だし、人材も豊富だ。ポイントとなるのは、それをいかにして「グローバル・ネットワークによる経済」に組み込むかだ。後押しとなる大きな波は来ている。訪日観光客の増加がそれだ。

また、地方の伝統的で高品質なモノづくりを世界のマーケットに結びつけていくこともできる。以前も本連載で紹介したが、トヨタの高級車ブランド「レクサス」は、ハンドル製造の一部を天童木工(山形県天童市)に委託している。天童市は古くから将棋の駒の生産拠点として知られ、優秀な木工技師が多くいるのである。

釜石市 ラグビー

2019年はラグビーW杯が日本で開催される。東日本大震災で大きな被害を受け、多数の死者を出した岩手県釜石市でも試合が行われる。この好機を世界との接点にしたい。写真は会場となる「釜石鵜住居復興スタジアム」。

撮影:川村力

2019年はラグビーW杯が日本で開催され、熊本市や岩手県釜石市などでも試合が行われる予定だ。さらに、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。これらを観光客が地方を知る機会としていければ、地方経済のグローバル化はいっそう進むものと思われる。

ポイント(2)EU・中国・インド・ロシアとの関係強化

2つ目はヨーロッパとの関係強化、さらには中国、ロシア、インドという新興大国との関係強化である。

いずれの国・地域も政治経済に不安を抱えており、日本との関係強化を望んでいる。しかし、従来と大きく異なるのは、各国ともアメリカに頼りたくない状況があるということだ。

日本からの投資、日本企業との提携などは大いに歓迎されるだろう。また、ポイントの1つ目とも関係してくるが、海外企業による日本の地方への投資は、双方にとって魅力のあるものになっていくと思う。日本の地方が抱えるモノづくり力、人材力は、世界の市場を見渡しても間違いなく一級品と言える。

三菱農機 マヒンドラ

インドのマヒンドラ社の出資を受け、2015年に三菱マヒンドラ農機へと社名変更。島根県松江市からインドやアメリカといった新たな市場への展開を進めている。こうした流れは2019年以降、加速するだろう。

三菱マヒンドラ農機HPより編集部キャプチャ

少し前の話になるが、島根県松江市に本拠を置く三菱農機(三菱重工業の子会社)に、インドのマヒンドラ&マヒンドラ社が出資(33.3%)し、2015年5月に「三菱マヒンドラ農機」へと社名変更した。マヒンドラ社にとって、三菱農機のモノづくり力、人材力は宝物のようなものだろう。三菱側もインドやアメリカなどマヒンドラの抱える市場へのアクセスを獲得し、双方にとって大きな利益を得る成功事例となった。

2019年は、新たにスタートした自由貿易の枠組みを活用して、こうした関係強化の流れが加速することを期待したい。

ポイント(3)近隣国との安定した関係を「ホーム」に

白川郷 世界遺産

世界遺産に認定された岐阜県・白川郷の合掌造り集落。中国など訪日外国人の姿が絶えることはない。

REUTERS/Issei Kato

3つ目は、将来の日本のポジションを考えながら柔軟な行動を取ることだ。

欧米諸国は、中国、ロシアとの関係を疑問視しているように見える。中国については、「中国製造2025」に象徴される技術覇権と、「一帯一路」の地域覇権への懸念がある。ロシアについても、クリミア併合(2014年4月)以降、ウクライナ問題がくすぶり続けており、警戒心は高まったままだ。欧米メディアでは、中国・ロシアのいずれに対しても「新冷戦」という表現がよく使われるが、それが実情をよく表している。

日本と両国の関係も、決して良好と言えるものではなかった。しかし一方で、大きな危機や脅威と言える状況もほとんどなかった。とりわけ中国との経済関係は、不可逆的に相互依存が高いものと言えるだろう。日本の地方経済はいまや、中国からのインバウンド(訪日旅行)による大きな底上げに支えられているのである。

蔵王 モンスター

北海道のキロロやニセコなどのスノーリゾートは外国人による不動産購入も人気。写真は山形県の蔵王連峰。樹氷(スノーモンスター)の美しさが人気を博し、ニセコやキロロほどではないが、年々訪日外国人の数が増えている。

Photo by Carl Court/Getty Images

2018年末、北海道余市町にある「キロロ・スキーリゾート」に滞在したが、スキー客の多くは、中国、韓国、ロシアからだった。リゾートで働く従業員も近隣国からのインターン生らで、日本語は片言。英語でのコミュニケーションが中心となり、あらかじめ聞き及んではいたが、それでも「ここは日本か?」と疑いたくなる状況であった。

近隣国との経済関係は、やはり最も重要なのだといまさらながらに思う。21世紀の日本の立つべき位置は、近隣国との経済基盤を安定的なものとし、それを「ホーム」と捉えることではないか。6月に大阪で開催される主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)には、中国、韓国、ロシアも参加する。日本にとって試金石とも言えるイベントになるだろう。

自由貿易、グローバリゼーションの恩恵を、地方経済の津々浦々まで享受できる仕組み作りをすることこそ、アメリカやヨーロッパで起きている「分断」を防ぐ最大の手段になると筆者は考えている。それが実現できれば、日本経済はまだまだ成長する。2019年をそうした取り組みのスタートの年と位置づけてみてはどうだろうか。

土井 正己(どい・まさみ):国際コンサルティング会社クレアブ代表取締役社長。山形大学特任教授。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年よりクレアブで、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学特任教授を兼務。

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