フリーター、就活アウトローを3カ月で居酒屋経営者にすると何が起きるか

ヒノマル食堂新橋別館を経営する2人

居酒屋ヒノマル食堂の経営をはじめることになった、内村瞳さん(右)と、渡邊竜成さん(左)。

撮影:小島寛明

フリーターやニートと居酒屋という組み合わせを聞いたとき、真っ先に思い浮かぶのはバイト先だろう。

だが、就職経験のない20代が、アルバイトとしてではなく自分の店として居酒屋を経営をしたら……。収入や働き方、そして個人の成長にどんな変化が起きるのか。

こんな実験的な取り組みが2019年2月、居酒屋の激戦区である東京・新橋で始まる。

仕掛けるのは、多数の飲食店を展開する「和僑ホールディングス」と、新卒一括採用から外れた20代と企業をつなぐ活動をしているNPO「キャリア解放区」。

経営者として一軒の店を背負い、報酬はバイト代ではなく、完全歩合の業務委託。

和僑ホールディングスの会長・高取宗茂さん(47)は、こう話す。

「トップになると、『やらないといけない事』から『必要だからやる』へと、労働の質が完全に変わる。これはトップにならないとわからない。だから、リスクを負わせずにトップをやってもらう」

「就活は気持ち悪い」アウトローたち

納富順一さん

NPO法人キャリア解放区の代表理事・納富順一さん。

撮影:小島寛明

この取り組みを見るうえで、まず知っておく必要があるのはキャリア解放区の存在だ。キャリア解放区は、29歳以下で就職経験のないの人と、企業をつなぐ「アウトロー採用」を展開している。

「決して働きたくないわけではないけれど、就活は気持ちわるい」と感じる就活アウトローを対象に、合宿、ワークショップや議論を通じて、時間をかけて企業との関係を築いていく。

「志望動機や将来なりたいものを聞かれると、うそをつけず『わかりません』と答える真面目な若者」

企業向け説明資料で、キャリア解放区は、アウトローたちをこんなふうに説明している。

キャリア解放区は、納富順一さん(41)がテレビ番組の制作会社や複数の人材会社を経て、2013年9月に立ち上げた。

今回、就職経験のない20代たちに、いきなりフランチャイズの居酒屋を経営してもらう試みを始めたのは、納富さん自身が抱えていた、アウトロー採用の枠組みに対するもやもやとした思いからだ。

「キャリア解放区は、就職してもらうことでマネタイズをするが、そもそも正社員として働くことだけがゴールではない。枠からはみ出た子たちは、正社員というものに息苦しさを感じているところもあると以前から思っていた」(納富さん)

しかし、いきなり起業したり、フリーランスで独立したりというのも敷居が高い。正社員と起業の中間にある働き方として浮上したのが、フランチャイズの居酒屋の経営者だ。

アウトローのリスクは小さめに

ヒノマル食堂のスキーム

元ニート、フリーターが居酒屋を経営する仕組みのイメージ。

制作:小島寛明

就活アウトローたちが運営するのは、JR新橋駅から歩いて5分ほどの飲み屋街にある居酒屋「ヒノマル食堂」だ。

今回は、和僑ホールディングスとフランチャイズ契約を結び、キャリア解放区がヒノマル食堂新橋別館のオーナーになる。

開店資金は、キャリア解放区が金融機関から千数百万円を借り入れて負担する。元ニート・フリーターのアウトローたちは、キャリア解放区と業務委託契約を結ぶ。

売り上げから、キャリア解放区に利益を還元。アウトローたちの報酬は完全歩合制で、うまくいけば月に50万円を越える計算になるが、売り上げが伸びなければ報酬はない。

通常、店舗経営を始める際には自己負担が発生するが、その部分はキャリア解放区が負う。

一方の和僑側はフランチャイザーとして、店に仕込みをした食材を納め、売り上げが立つ仕組みだ。

過酷な仕事で手が震えた

若者

就活という仕組みに疑問を持ったり、つまづいてしまったりすると、「働く」機会すら得にくくなる。

撮影:今村拓馬

2月4日から店の経営者となるのは、内村瞳さん(24)と渡邊竜成さん(24)の2人だ。渡邊さんは2018年10月から、内村さんは11月から和僑が経営する店舗で、接客、調理、仕入れなどのノウハウを学んできた。

内村さんは大学で舞台衣装の制作を学び、映画を専門とするスタイリストのアシスタントになった。が、映画の現場は過酷だった。

アシスタントの仕事は、衣装にアイロンをかけたり、俳優が衣装を着る際に手伝いをしたり。朝8時に現場に集合し、翌朝8時までぶっ通しで撮影が続く。少し休んで、再び、現場に戻る。すぐに手が震え、眠ることができなくなった。

1週間後、菓子折りを持って先輩たちに頭を下げ、仕事を辞めた。

その後、男性アイドルの舞台衣装を制作するアトリエでもアシスタントをしたが、続かなかった。フリーで衣装を制作する仕事をしたが、食べていけるほどの稼ぎにはならない。次第に、家から出るのがしんどくなった。

内村さんは「友だちと約束をしても、家から出られなくて、1時間遅刻するみたいな。ほんとにダメダメだった」と振り返る。

半年ほど、「ほぼ引きこもり」の生活を続け、2018年6月ごろ、友人の誘いでアウトロー就活に参加した。

「ずっと引きずっている感じ」

渡邊さんは青山学院大を卒業後、フリーターになった。大学1年から、居酒屋の厨房での仕事を続けていた。

高校からアメリカンフットボール部に所属し、大学でも続けようと思った。「だれよりもはやく先輩からレギュラーを奪ってやろう」と意気込んだが、コーチと反りが合わなかった。

だんだん、部活に出るのが苦しくなった。

体にじんましんが出て、泣きながら部活に行くこともあり、1年の終わりで退部した。

「もうちょっと頑張れたかなって。ずっと引きずっている感じなんです」

大学で音楽専門のウェブメディアで編集をしたり、ウェブの動画メディアでインターンをやったりもしたが、将来何をしたらいいのか、何がしたいのかは見えてこない。

就活で、タクシー会社など2社に応募した。応募した1社は、「就活サイトをスクロールさせて、止まったところ」だった。タクシー会社から内定はもらったけれど、担当者からは「よく考えて」と諭された。

大学卒業後、地元の居酒屋でアルバイトを続けたが、次第に「大学を卒業したのに、サークルの飲み会にいつも来る先輩みたいに自分がなっていないか」と思うようになった。

1年ほど前、キャリア解放区に参加した。訪問介護の事業所から内定ももらったが、「なんか違う」と思い入社は辞退した。

内村さんと渡邊さんに共通するのは、飲食店でのアルバイト経験だ。渡邊さんは居酒屋の厨房で5年働き、内村さんも大学時代に2年ほど、スーパーのパン店で接客をしていた。

「社会の仕組みがおかしい」

2人が経営するのは、33席の小さな居酒屋だ。

売り上げの目標は300万円〜400万円。客1人当たりの単価は3500円ほどだから、月に26日店を開けると仮定すると、1日あたりの来店者が32人を越えると、300万円の目標ラインを超える。

リスクの大部分はキャリア解放区と和僑が負担してくれるが、2人が負う責任もけっこう重い。

「いつか自分でカフェをやりたいなと思っていたので、飲食店の経営を少しでも学ぶことができたら」(内村さん)

「この2、3年は、なんとか自分で食っていく力をつけたい。その先のことは、まだ見えていないけど」(渡邊さん)

開業を目の前に控えた2人は、飲食店経営という、決して楽ではない仕事に立ち向かう覚悟を決めているようにみえる。

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飲食店を展開する和僑ホールディングスの会長・高取宗茂さん。

撮影:小島寛明

「ニートの若者に活躍の場がないのは、社会の仕組みがおかしいからだ」

高取さんはこう考えている。

いま、2人より少し遅いタイミングで修行を始めた、別のアウトロー2人が和僑の店で修行に入っている。修行が終われば、この2人も新橋別館の運営に加わることになる。

「彼らはこれから、人を使うことの難しさを知ることになる。アルバイトを雇うなら、どうやって技術を修得させるかも悩むだろう。それを知った時が、本当に人が変化をはじめるときだ」

(文・小島寛明)

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