共働きはなぜすれ違う?「年収低い方が家事やれ」問題。家事育児の“仕事化”をやめてみる

共働き家庭で「年収低い方が家事育児をやるべきか」問題を取り上げたBusiness Insider Japanの一連の記事は、大きな反響を呼んでいる。編集部にも、賛否ともにメールやコメントが寄せられた。ただ、年収配分にしてもしなくても、誰かにモヤモヤが残るこの問題。気持ちよく家事育児を分担してきた夫婦の、コツは何なのか。

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女性から悲鳴の上がる家事レベル

ごはん

育休中に砥川さんが妻につくった食卓の一部。

提供:砥川直大さん

「料理のハードルあげないで〜!」「これはすごい!わたしはいかに手抜きするかしか考えていない……」

広告業界でクリエーターとして働く砥川直大さん(38)は2年前、次女が生まれた時に、1カ月半の育児休業をとった。

「妻のためのよい食事が、結果母乳となり、娘のためになる」と、その間は毎日3食手作りした。品数も多く野菜をふんだんにつかった食事が、まるでアートのように美しく盛られた写真の数々。Facebookにアップすると、称賛とともに、女性からは「自分はそこまでできない……」という悲鳴が上がった。

現在、大手広告代理店勤務の妻と共働きで、5歳と2歳の娘たちを育てている砥川さんは、文字通り「イクメン」。「授乳以外はすべてやれる」というスタンスだ。

「大前提として妻と公平な共働きをしたいというのがあります」(砥川さん)

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広告会社でクリエイターとして働く砥川直大さんは「授乳以外はすべてやれる」。

撮影:岡田清孝

砥川さんは1年半前にベンチャー系の広告会社に転職したが、もともとは妻と同じ大手広告代理店に勤務。年上の妻はキャリアを積んで第一線で働いている。

子どもを生んで、妻だけ思い切り仕事ができなくなるのはもどかしい。後輩の女性たちにも、いい影響は与えない。夫婦ともに第一線で活躍しつつ、子育てをする事例をつくりたい

との思いで、仕事のみならず家事育児にも最大限、関わってきた。

「日本の父親に求められる家事育児の期待値は低くて。はっきり言って、イクメンと言われるのは簡単です。イクメンではなく、『父親』をやってるだけなんですが」(砥川さん)

家事分担の“仕事化”で夫婦関係が悪化

しかし、そんな「理想的な共働き家庭」を実践しているかのようにみえる砥川さん夫妻でも、家事育児分担で衝突してしまうことは珍しくないという。

フルタイムの共働き子育ては、とにかくお互いの“時間の奪い合い”になりがちだ。どちらが何をどれだけやったか、ともすればその“配分競争”になる。

砥川家でも、疲れた顔をして妻が家事をしていると、「疲れてまで家事をやられると、かえって居心地が悪い。先に休んだり気分転換したりしてほしいんです。でも、自分がやるからと妻に伝えても『大丈夫だから』と断られて、それでギスギスしたり……」ということもある。

砥川さんは、自分たちのような状態について「家事育児分担の『仕事化』で夫婦関係の悪化が起きている」とみる。

「共働きだと、家事や育児という共通のタスクを抱えた仕事のプロジェクトみたいになってしまって。効率を追求して相手のアラが目についたり、もっとこうしたらいいのにと口出しをしてしまったり。夫婦ならもっと甘えたり助けを求めたりしてもいいところで、できなくなっている面があるのかもしれません」

家事育児が「プロジェクト遂行」的になった結果、コミュニケーションがドライになり、夫婦っぽい思いやりや会話が減る——。身に覚えのある人も少なくなさそうだ。

すごいを稼ぎたい人、ありがとうを稼ぎたい人

Father and son

なぜ、共働きの夫婦の家事育児は、時に「仕事化」しているかも?(写真はイメージです)。

GettyImages/Yagi-Studio

これまでBusiness Inisider Japanが取り上げてきた「俺ぐらい稼いでくれたら、もっと家事育児やるよ」といった夫の発言など、家事育児分担をめぐる論争については、こう言う。

男性には『すごい』を稼ぎたい人と、『ありがとう』を稼ぎたい人がいて、思考が全く違うので、女性はそれを把握するのがベストかもしれません

砥川さんは、日本男性への期待値の低い家事育児は「すごい」を稼ぎやすい分野だと指摘する。

「自分もすごいを稼ぎたいタイプ」と自認した上で、「妻がママ友や身内の集まりで、献身的な夫として話してくれるだけで満足なんです」と笑う。

「すごいを稼ぎたい夫だと思ったら、夫が褒められる状況を多く作っていくのはいい手だと思います」

「俺ぐらい稼いだら家事育児もっとやる」と言い放つ夫にも、「稼いでいる上に、家事や育児もこれだけやってくれてすごいね」と返してみるべきなのか ——。

家事育児分担の衝突は、手のかかる、子どもの幼少期に起こりがちだ。すでに子どもが大学生という、50代夫婦はどう乗り越えてきたのだろう。

玄関にチェーンで朝帰り夫を締め出し

子育て

妻が出産で仕事を辞めて家事育児をしても、夫の生活が全く変わらなかったら?(写真はイメージです)

GettyImages

「朝の9時になると、麻雀帰りの夫が帰ってくるんですよ。私が1歳の息子と待っている家に。それが毎週なので、近所の人には『あなたのご主人、築地の魚河岸に勤めてるの?』って聞かれましたね」

スポーツや教育問題を扱うジャーナリストの島沢優子さんは34歳の時、出産をきっかけに新聞社を辞めた。1990年代後半のことだ。夫も同じ新聞社勤務。当時は法定の時短制度もなく、夫婦ともに新聞社勤務は「現実的に無理」と判断した。

子育てをしながらフリーランスのライターとして働くと決めて、夫にも宣言していたが「夫の生活は全く変わらなかった」。

新聞社勤務の夫は、毎日仕事で夜は遅い。毎週のように仕事仲間とやる麻雀は、仕事終わりに始めるので朝帰り。一人で子どもをみている島沢さんが、「仕事をもらうために営業をしよう」と思っても、動きようがなかった。

怒りが爆発した島沢さんは、ある日玄関にチェーンをして夫を締め出した。近くのファミレスで時間を潰したらしい夫が帰ってくると、訴えた。

「私は会社を辞めて子育てをしながら働こうとしているのに、あなたの生活は、子どもが生まれる前と何ひとつ変わっていない」

「そういう話し合いを重ねて、個人の努力で乗り切ってきました。社会の側に制度や理解がなかったので。でも、個人の努力で乗り切るやり方はお勧めしない。男女の役割分担は、社会が変わらないとダメなんです」(島沢さん)

子どもおんぶして100メートル競争

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そもそも平均でも男性の方が年収の高い日本。その本当の理由は何だろう。(写真はイメージです)

撮影:今村拓馬

島沢さんが子育てをした1990年代後半から2000年代前半は、子どもが生まれると妻が仕事を辞めるケースが大半だった。

「周囲に多かった専業主婦のママ友は、俺ぐらい稼ぐなら家事育児もやってやると言われて泣いたりしていました。それはおかしい」、島沢さんは言う。

「夫婦2人で100メートル走をして、妻は子ども2人をおんぶしているのに、身軽な夫が『俺の方が速いだろう』と言っているようなもの。どうして怒らないの?と私が怒っていましたね」

むしろ、今でも同じ論争が起きていることに、驚きと落胆を感じるという。

島沢家で、夫の家事育児分担に対する意識がはっきり変わったのは、長男と2歳差で、長女が生まれてからだという。

「娘が大人になった時に、子どもを産むと思い切り働くこともできず、『年収の低い方が家事育児をやるべきだ』と、夫に言われるような世の中でいいの?そんな価値観を子どもに伝えるべきではないと、夫婦で一致しました

そうして稼いだ額や時間でジャッジしない、家事育児分担を心がけてきた。

「人材不足の日本は今、変わるチャンス。変わらないと、子育てしながら働くのが困難な日本からは、若者がどんどん流出していくのではないでしょうか」

両親同様、家事を一通りこなす長男はこの春、大学を休学してドイツに旅立つという。

感情よりもロジカルで腑に落ちる男性

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子育てしながら働きやすい環境は、誰にも他人事ではない(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

夫婦の家事育児分担の問題は、実は社会や経済と地つながりの話でもある。世界でもっとも早いスピードで人口減少社会を迎える日本の人口は、2050年代には1億人を割り、高齢化率が4割と推計されている。

「男性は妻への優しさや感情論ではなく、ロジカルに考えた方がいろいろと腑に落ちる」とした上で、冒頭に登場した砥川さんは言う。

「人口減少社会の日本で、いまの経済規模を維持しようと思ったら、シニアか外国人かAIか女性を活かすしかない。シニアはITに弱く、外国人は日本語のカベがあり、AIを使いこなすには時間がかかる。明日からできるのは、女性が働きやすくすることです」

「1億総介護時代」を前に、働きやすさは女性だけの問題では決してない。

そして、今日明日の家事育児分担問題は、そのまま未来につながっている。「日本の男性の家事育児への意識をあげたい」理由について、砥川さんはこう示す。

「娘たちが大きくなった時にまで、今と同じように女性が自由に働きづらい、男性が家のことをやらないような状況が続いていたとしたら。僕ら世代の責任だと思うのです

(文・滝川麻衣子)

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