TORANOTECが運営するおつり投資運用サービス「トラノコ」のアプリ解説画面。
提供:TORANOTEC
おつりを資産運用に回すサービス「トラノコ」を展開するTORANOTEC(トラノテック)は1月31日、セブン銀行と戦略的パートナーシップを前提に資本提携し、同社の持分法適用会社になると発表した。セブン銀行の出資額は20億円。
TORANOTECのジャスティン・バロック社長は、Business Insider Japanの取材に対し、次のように話した。
「セブン銀行は、コンビニ店舗をはじめ全国に約2万4900台(編集部注、2018年12月末)のATMを設置し、都心から地方まで日本人の生活にとってきわめて身近な存在となっています。そのセブン銀行と連携することは、毎日のお金の出し入れ、お買い物で生じるおつりやポイントを通じて、資産運用を人びとの生活の当たり前の一部にしていくための、大きなきっかけになると考えています」
また、セブン銀行の舟竹泰昭社長は同日、以下のコメントを発表した。
「日々のお買い物の延長で、おつりやポイントを投資できるというまったく新しい投資スタイルは、近くて便利なコンビニに金融を取り込んできた我々の事業戦略とも親和性が高いと考えています。今後TORANOTECと幅広く連携することで、さらなるポテンシャルが引き出されることを期待します」
月額最低「5円」から1円刻みで投資できる
TORANOTECのジャスティン・バロック社長は「資産形成は、少額でも長期的視点で行うのが最も大事なこと。『コツコツ』努力する日本の文化は、元来投資に向いている」と話す。
提供:TORANOTEC
TORANOTECが2017年6月にスタートさせた「トラノコ」は、買い物をするたびに生じる「おつり(端数)」を投資に回してくれるサービス。
投資口座を開いたユーザーはおつりデータを計算させるため、銀行口座や電子マネー、クレジットカードなどの情報を登録。トラノコはそこからおつり(相当額)を、ユーザーが選んだファンドに投資してくれる。ファンドを運用するのは、TORANOTEC子会社の投信投資顧問。ユーザーは同社が用意する3種類のファンドから、自らのリスク許容度に応じて投資先を選択できる。
おつりを投資に回すサービスは、ロボアドバイザー資産運用「WealthNavi(ウェルスナビ)」もアプリ「マメタス」を通じて提供しているが、最低でも月額1万円の投資が必要なことなど、ハードルは決して低くない。その点、トラノコは月額5円から1円刻みで投資できるほか、他サービスを通じて貯まったポイントを投資の元手に回すこともできる。
実際、そのハードルの低さから、トラノコのユーザーの85%は40代以下で、60%が初めて投資を経験した人が占めるという。
「1800兆円の家計金融資産」は投資に向かうか
TORANOTECとの資本提携を発表したセブン銀行。コンビニ以外にも、大規模商業施設や空港・駅構内など、ATMの設置箇所を増やしており、市民生活への影響力を増してきている。
出典:セブン銀行HPより編集部キャプチャ
近年、少額投資非課税制度「つみたてNISA」など、政府や金融庁の主導により貯蓄から投資へのシフトを推奨する方策が導入されてきたものの、1800兆円ともいわれる家計金融資産はなかなか投資へと向かわない現状がある。バロック社長はこう説明する。
「どの国にも変化の段階というものがある。日本はいままさに現金からデジタルマネーへの移行期。あらゆる切り口からデジタル化が進む今は、おつりやポイントなど、誰もが少額から簡単に投資できるサービスを提供することで、日々の生活の一部として投資を行う文化を醸成していくまたとない機会と捉えている」
TORANOTECとセブン銀行は今回の資本提携に先立つ2018年11月、買い物時に生じたおつりやポケットの中の小銭をコンビニ店頭に設置した機器に投入することで、(トラノコアプリを通じて)簡単に投資に回せる「リアルおつり投資」プロジェクトに着手すると発表。FinTech導入を推進する金融庁の支援を受け、2月にも実証実験を始める準備を進めている。
TORANOTECとセブン銀行の連携は、長らく大きな動きのなかった日本の家計金融資産を投資へと向かわせる転換点となるか。今後の展開を注視したい。
(文・川村力)