SAPと三菱地所が「Inspired.Lab」を開始した理由 ── 大手町を実証とイノベーションの発信地に

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Inspired.Labで実証をする企業。左からビル内移動手段としてのパーソナルモビリティ実証をするWHILLの福岡宗明 取締役兼CTO、無人販売ショーケースを実証するパナソニック コネクテッドソリューションズ社 AI・IoTソリューション部の田川潤一氏。

企業向けソフトウェア大手の独SAPの日本法人SAPジャパンと三菱地所は2月1日、オープンイノベーションのためのコラボスペース「Inspired.Lab(インスパイアードラボ)」をオープンした。

これに合わせて、SAPは全世界6カ所で展開しているスタートアップ支援のためのアクセラレーションプログラム「SAP.iO」を日本でも開始。「SAP.iO Foundry Tokyo」として、Inspired.Labを中心に展開していく。

SAP.iOには、同名の3500万ドル(約38億円)規模の投資ファンド機能と、スタートアップのファウンドリー機能(企業育成のアクセラレーター機能)があるが、Inspired.Labではこのファウンドリー機能を提供する。

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Inspired.Labの受付前。カフェテリアのような設計で、共用部として打ち合わせや作業にも使えるほか、軽食の有料サービスもある。

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プライベートオフィスの1つ。意外にも、プライベートオフィスの需要は大企業よりもスタートアップの方が高いという。

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プライベートオフィスはガラス張り。内部が見えない、完全個室型のオフィスエリアもある。

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カフェテリアではこういった軽食も提供される。コーヒー、ランチのサンドイッチなど合わせて1000円強だった。

Inspired.Labは三菱地所が監理する、大手町ビルの1フロアのおよそ半分ほど(約3040平方メートル)をリノベーションして展開する。

カフェ風の共用部のほか、大小のプライベートオフィス、3Dプリンターなどを備える工房スペース、大小のミーティングスペース、撮影に使える簡易スタジオなどを備える。いわば、WeWorkなどの大規模なコワーキングスペースに近いが、利用できるのはSAP.iOのパートナーとして選ばれた企業や個人、企業会員などに限定される。施設運営に関しては、三菱地所とSAPジャパンが協力して行う。

丸の内地域をスタートアップの拠点にしていく

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三菱地所執行役常務の湯浅哲生氏。ビルの東側エリアには、フィンテック拠点の「FINOLAB」に加えて、同ビル内に今回、Inspired.Labが入った。このほか、西側には企業オフィスとして、KPMGイグニッション東京、トヨタ自動車の自動運転開発拠点、トヨタ自動車と関係の深いAIユニコーン企業、プリファード・ネットワークスもオフィスを構えている。

Inspired.Labのある大手町ビルには、三菱地所が2016年にフィンテック企業拠点として開始したFINOLABがある。Inspired.Labの開始も、こうしたオープンイノベーションの協創拠点になるという文脈をもっている。

オープニングイベントに登壇した三菱地所執行役常務の湯浅哲生氏は、大手町・丸の内界隈は、「大手優良企業、投資家やプロフェッショナルファームのメンターといったエコシステムを形成する要素が世界屈指の集積を誇っている」として、東大を中心としたアカデミアとの連携とInspired.Labの仕組みを通して、「考えられる限りの、最高・最強のエコシステムを形成して、大きな後押しをしていくという構想」だと説明した。

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WHILLの福岡宗明 取締役兼CTO。当日は、カフェテリアからセキュリティエリア内の自動運転対応WHILLを呼び出すと、セキュリティードアを突破して、カフェテリアまで自動走行するデモを行った。ゆくゆくはエレベーターとも連動させるという。

“場”の支援という点では、ビルやリアルな生活空間を使った実証実験の支援も積極的に進める。例えば、Inspired.Labの入居企業の1つである電動車椅子ベンチャーのWHILLは、ラボを中心として、「呼べば自動運転でやってきて、セキュリティスペースに出入りしたり、エレベーターも呼べるWHILL」のシステムを実証するほか、パナソニックはInpired.Lab内でRFIDを使った無人販売機をテストする。

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パナソニックが実証する無人販売ショーケース。指の生体認証で扉のロックが解除され、買いたい商品を取り出すと決済される仕組み。商品管理はRFIDで出庫感知する仕組み。画像認識を使わなかったのは、生鮮食材などの鮮度を把握しデータをためて、サプライチェーンの最適化にも生かすためだという。

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在庫管理はブラウザー上から行う。RFIDを使うため入庫時にフードにRFIDをタグを貼り付ける作業が発生するが、この点はカフェテリアスタッフと連携して行うとのこと。

SAPジャパン会長の内田士郎氏によると、SAP.iOファウンドリー東京のアクセラレーションプログラムでは、4月1日までに6〜10社のスタートアップを選考。その後、約3カ月間の期間で1社あたり3名程度のメンターとともに戦略策定やプロトタイピングを進めるという。初回は2019年6月1日から開始、9月5日に最終デモを行うスケジュールだ。

参画スタートアップはInspired.Labで自由に活動できるほか、SAPのグローバルプラットフォーム(ソフトウェア)に接続できるなどの支援が提供される。

SAP.iO東京進出は「新市場にチャレンジする時期がきた」

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左からSAPジャパンの副社長でデジタルエコシステム統括本部長の大我猛氏、SAP.ioの副社長でAPJ&China担当のLalitha Bhaskara氏、Area17創業者のPoojitha Preena氏、SAP.iOの上級副社長でManaging DirectorのRam Jambunathan氏、VERUSEN社創業者のPaul J Noble氏、Slync.io社共同創業者のChris Kirchner氏。

「SAP.iO」がユニークなのは、大きく2つの点だ。1つは支援の対価(株式などの資本)を基本的に求めない「ゼロ・エクイティポリシー」を重視していること。SAPはキャピタルゲインを狙うのではなく、純粋にSAPの大企業顧客とスタートアップとのシナジーを生み出すことで、新たなビジネス創出を狙う。

2つめは、各国のファウンドリー(施設)ごとに、注力するビジネス領域のテーマを決めて支援していく方針を採ることだ。SAP.iOのファウンドリー東京におけるテーマはAIや機械学習、ロボティクスに関わる領域である「インテリジェント・エンタープライズ」が選ばれた。

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SAP.iOファウンドリー東京の公式サイト。

SAP.iOの東京への進出は、アジア初の拠点という点で、SAP.iOにとっても新たなチャレンジになる。グローバルの責任者で上級副社長のRam Jambunathan氏は、いまこの時期に日本への進出を決めた理由を、

「(世界6カ所のファウンドリー運営を通じて)SAP.iOの(支援)モデルはすでに創り上げ、十分に成熟した。今度は“新しい市場”に入ることができるタイミングであり、そして、(そうした市場でも)インパクトが与えられるようになったと考えています」(Jambunathan氏)

と説明する。

さらに、「日本が機械学習はマシンビジョン、ロボティクスといった新興テクノロジー分野の世界的なリーダー」(Jambunathan氏)の1つであることから、ファウンドリー東京のテーマにインテリジェント・エンタープライズを選んだとした。

シリコンバレーベンチャーがみる、SAP.iOのユニーク性とは?

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ファウンドリー東京の開始に合わせて来日したSAP.iOのアクセラレーター卒業生のスタートアップにも話を聞くことができた。

シリコンバレーにはYコンビネーターを始めとするスタートアップアクセラレータが複数ある。そうした環境下でSAP.iOのユニークな点は、

「B2B企業にフォーカスしており、顧客企業のニーズを(プログラムを通して)理解できる。また(世界中に顧客を持つ)SAPを通じてセールスのプロセスを構築できる。これらが他のプログラムとは大きく異なるところ」(VERUSEN社創業者のPaul J Noble氏)

「(SAP.iOファンドの支援を受けても)資金調達として株式を持たないので、パートナーとして成長していける。(成長ロードマップに対する)コミットメント(公約)を求められることがないため、スタートアップに対するプレッシャーも、他のアクセラレーターに比べて少なくなっている」(Slync.io共同創業者のChris Kirchner氏)

ことを挙げる。

SAP.iOを通じた大企業とのコラボレーション例としては、スタートアップのArea 17社と建材小売大手のホームデポの実証例がある。ホームデポの店内にドローンを飛ばしてカメラ撮影し、いち早く獲得した資材の状況をSAPのクラウドを使って画像解析するというものだ。このプロジェクトは、実証の結果を受け、近く試験運用をはじめるという。

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SAP.iOのプログラム概要を説明する内田氏。ファンドとファウンドリーの2つがある。SAP.iOのJambunathan上級副社長によると、これまでファンドからの投資は20社、ファウンドリーではおよそ100社の戦略策定支援をしてきた。

SAPジャパンの内田会長は、Inspired.Labの活動を通じて、世界に発信する日本のベンチャーをもっと増やしたいと語る。

「SAPのファンドにはいろいろあるが、サファイアベンチャーと呼ばれるものは4000億円くらい、SAP.iOのファンドはいま40億円くらいで、これから増やしていく。今回東京に持ってくるのはファウンドリー(育成機能)の部分だ。ファンドは世界で運用され、日本企業も対象になる。

最初のコホートプログラム(アクセラレートプログラム)にノミネートされた10社の中から、そういうもの(ファンドの支援対象社)が出てくると期待する。ここから、世界に発信するスタートアップが出てくるといい。

日本のスタートアップが世界のマーケットを基本に考えた時に、我々がもつネットワークをご活用いただいて、どの業界にいきたいかを相談しながらサポートしていきたい」(SAPジャパン会長 内田氏)

(文、写真・伊藤有)

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