ギャップのCEOは、2019年にその旗艦店を閉店すると述べた。
Business Insider/Jessica Tyler
- わたしたちが知っている「旗艦店」は変化している。
- ギャップ(Gap)からラルフローレン(Ralph Lauren)まで、小売業者は魅力的なショッピング・エリアにある旗艦店を閉店している。
- 専門家は、魅力に乏しい大型旗艦店は、もはやブランドにとって効果的なマーケティング・ツールではなくなっていると言う。
- 同時に、デジタル・ネイティブなブランドや、ノードストローム(Nordstrom)やナイキ(Nike)といった歴史ある革新的なブランドが旗艦店のあり方を改革し、小売業におけるその意義を示している。
2018年の終わり、ギャップのCEOアート・ペック(Art Peck)氏は2019年に旗艦店を含む数百店舗を閉店すると述べた。
「これはわたしたちが緊急性を持って、断固として取り組んでいるビジネスの一環だ」と、ペック氏は語った。閉店の対象となる店舗は、利益が上がらないもしくは優れた顧客体験を提供できていない店だという。
ニューヨーク5番街にあったギャップの旗艦店は2018年12月、閉店した。ラルフローレンも2017年に5番街の旗艦店を閉店していて、カルバン・クライン(Calvin Klein)もマディソン街の近くにある旗艦店を今春、クローズする計画だ。
また、100年以上の歴史を誇る老舗百貨店のロード・アンド・テイラー(Lord & Taylor)も、5番街の旗艦店を2019年1月に閉店している。
ペック氏のコメントは、多くのケースで旗艦店が一般の店舗と差別化できなくなっていることを示している。つまり、街の中でも最も地価の高い場所に大型店舗を置いて、他の店舗と同じような体験を提供することは、もはや理にかなっていないということだ。
ブランドのストーリーを伝える手段
伝統的に、旗艦店はブランドのイメージやそのストーリーをPRする手段の1つだ。売り上げよりも、マーケティングやブランディングの意味合いが強い。
しかし、旗艦店はマーケティング・ツールとして、次第にそのコストに見合わなくなってきた。その背景には、消費者の購買習慣の変化がある。
コンサルティング会社「グローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)」のマネージング・ダイレクター、ニール・ソーンダース(Neil Saunders)氏は、「新しい世代の消費者たちは、オンラインやソーシャルメディアで商品について熱心に調べている。つまり、コストの高い旗艦店はかつてのようには見合わなくなってきている」と、Business Insiderの取材に答えた。
「ギャップのようなブランドは、旗艦店を普通の店の大型版として置いているだけで、採算も取れず、ビジネスとして成立していない」と、ソーンダース氏は指摘する。
通常の店舗を単に大きくしただけの旗艦店には、未来の小売業に居場所はなさそうだ。
「体験を生み出すことで初めて意味をなす」と、顧客分析プラットフォーム「Custora」の創業者兼CEOコーリー・ピアソン(Corey Pierson)氏はBusiness Insiderに語った。
ピアソン氏は、旗艦店には「人の心に訴える、他にはないユニークな体験」が必要だという。
変化の波
キャスパーの新しいスリープ・ストア。
Business Insider/Mary Hanbury
ボノボス(Bonobos)やグロッシアー(Glossier)、エバーレーン(Everlane)、キャスパー(Casper)といったデジタル・ネイティブな小売業者は、イノベーティブな新しい店舗コンセプトの道を切り開いている。これらのブランドには、実店舗を伴う小売業に新鮮な風を呼び込み、新しいコンセプトを試す余裕がある。旗艦店が街の中で唯一の店舗であることもあり、こうした小売業者たちはできるだけ良い印象を与えることに注力できる —— まさに旗艦店がすべきことだ。
だが、イノベーションは比較的規模の小さなデジタル・ブランドだけのものではない。ナイキやノードストロームといった長い歴史のある業界大手も、その旗艦店をコストに見合った、魅力的なものにしようと取り組んでいる。
ノードストロームは2018年、ニューヨークに新たなメンズ限定の旗艦店をオープンした。この小さな百貨店では、仕立てや靴磨きのサービスが受けられるだけでなく、レストランやバーも利用できる。今秋にはウィメンズ限定の旗艦店も道の反対側にオープンするという。
メンズ限定の旗艦店がオープンしたとき、当時のノードストローム共同社長ブレイク・ノードストローム(Blake Nordstrom)氏はBusiness Insiderに対し、同社は20年にわたってマンハッタンで場所を探し続けてきたと語った。そして、百貨店業界はプレッシャーにさらされているものの、同社は依然としてマンハッタンの一等地に店を開くことに価値を見出していた。
ナイキの新しい旗艦店。
Business Insider/Jessica Tyler
ナイキも2018年の終わりに、ニューヨークに巨大な旗艦店を新たにオープンしている。6つのフロア、6万8000平方フィート(約6300平方メートル)に及ぶこの店は、ナイキが世界で販売しているシューズの大規模コレクションを擁し、アプリユーザー向けのインスタント購入といった革新的な技術を用いた店内体験を提供している。
顧客エンゲージメントを高めるためのモバイルアプリの開発を手掛ける「GPShopper」の共同創業者兼チーフ・マーケティング・オフィサーのマヤ・ミハイロフ(Maya Mikhailov)氏は、「これが未来にふさわしい旗艦店だ」と、Business Insiderに語った。
「際立つ何か」
こうした未来ある店は、これまでにないユニークな体験を提供する必要があると、専門家は指摘する。
ムード・メディア(Mood Media)の事業開発担当のシニア・バイス・プレジデント、ジェイム・ベタンクール(Jaime Bettencourt)氏は、彼らは「際立つ何かを持ち、顧客とつながって、顧客に何か話題になるものを与える」必要があると、Business Insiderに語った。
ベタンクール氏は「旗艦店が廃れるとは見ていない。だが、小売業者は自らの投資に対し、より賢くなるだろう」と付け加えた。
また、旗艦店のサイズは縮小傾向だ。
ミハイロフ氏は「在庫を抱えておくための巨大スペースとしての旗艦店は廃れていくが、その全体のコンセプトは進化している」と言う。
「サイズは比較的小さくなっているが、主要都市の購買層に集中し、売り上げとロイヤルティーのためにテクノロジーを活用している」と、同氏は続けた。
そして小売業者は、消費者を引き付ける方法を見つけなければならない。
「物事は変化している。旗艦店が全て廃れてしまうかどうかは分からないが、我々がこれまで見てきたものは、間違いなく終わりに向かいつつある」と、コンサルティング会社「January Digital」の創業者兼CEOのヴィック・ドラビッキー( Vic Drabicky)氏はBusiness Insiderに語った。
(翻訳、編集:山口佳美)