「インフルエンザA型が現在2種類でています。2回かかる人もでるのでご注意ください」
福井大学医学部附属病院救急総合診療部が1月26日にFacebook上で出したこの注意喚起。SNSなどで拡散され、シェアされた数は700件以上にのぼった。
「“そろそろ”という感触はあった」
統計開始以来、過去最高の患者数となっているインフルエンザ。猛威の要因とは…(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
インフルエンザウイルスにA型とB型があることは知っていても、2度もA型にかかり得るとは想定外だった人が多いのではないだろうか。
厚生労働省は2月1日、インフルエンザの患者数が全国で推計約222万6000人にのぼり、統計開始以来最多を更新したことを発表した。原因となっているウイルスの種類は「AH1pdm09」が50%、「AH3亜型」が49%で、確かに福井大学病院の言う通り2種類のA型が蔓延している。B型はわずか1%だ(2018年第52週~2019年第4週)。
国立感染症研究所「週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数、2014/15~2018/19シーズン」を元に作成。
この調査をしている国立感染症研究所の担当者によると、AH1pdm09は2009年に新型インフルエンザとして大流行し、現在は通常のインフルエンザウイルスとして扱われているもの。pdmはパンデミックを意味する。一方のAH3亜型は一般に「A香港型」と呼ばれ、1968年に世界的大流行を起こしたウイルスだ。
福井大学医学部附属病院はFacebookを通じて注意喚起をしている。
出典:福井大学医学部附属病院のFacebook
同じA型ウイルスでも、同シーズンにAH1pdm09とAH3亜型の両方にかかる可能性がある理由について、この担当者はこう説明する。
「A型という分類は同じでも分子構造が異なり、それぞれに対抗する抗体も違うためです」
要は、AH1pdm09にかかった時に得られる免疫はAH1pdm09のものだけで、AH3亜型の予防には通用しないのだ。
同担当者によると、例年、A型が同時流行することはあまりなく、特にAH3亜型が流行るとそれ一色になることが多いそうだ。そのため、A型に2度かかる危険性は、あまり周知されていないのかもしれない。しかし、今シーズンはしばらくAH1pdm09が主流だったところに、年明け前後からAH3亜型が急激に増加。前述のように、2種類のウイルスがほぼ半々の割合で流行している。
なぜこうした状況にあるかは断定できないが、「しばらくAH1pdm09が大きく流行していなかったので、“そろそろ”という感触はあった」(同担当者)。
予防接種を毎年受ける効果
なお例年、A型の後を追うようにB型も流行する傾向が見られる。理論上は、A型に2度感染したうえ、さらにB型にも感染する恐れがあるそうだ。
予防接種を受けることで100%防げる訳ではないが、重症化を予防する効果はある。
撮影:今村拓馬
「ただ、ウイルスの流行は地域差が大きく、地域によってメインの流行が違う可能性を考える必要があります」(同)
現時点で詳細なデータはないが、必ずしも同じ地域内ですべてのウイルスが流行するとは限らないそうだ。
ちなみにインフルエンザワクチンは、A型の2種類もB型もカバーしている。しかし、ウイルスは毎年のように小さな変異を繰り返すため、100%予防することは難しい。
「一般に発症予防効果は4~6割程度、重症化予防効果が7~8割程度と言われています。それでも毎年、接種することで体がさまざまなインフルエンザウイルスのパターンに対応できるようになるので、意味がないわけではありません」(同担当者)
1シーズンで繰り返しインフルエンザにかかる事態はなんとしても避けたい。あまりに当たり前な方法だが、手洗いは入念に。人混みは避けて、十分に睡眠をとることが、史上最悪のインフルエンザ大流行を乗り切るために重要である。
(文・越膳綾子)
越膳綾子(えちぜん・あやこ):フリーランスライター。編集プロダクションをへて、2012年からフリーに。主に医療、介護、障害者福祉、女性の働き方について取材・執筆をしている。