中国は30年以内に台湾を統一するのか——年初の習近平・台湾政策を読み解く

中国・習近平

習近平氏は2019年年初に、「習五点」と言われる台湾政策を発表した。

REUTERS/Mark Schiefelbein/Pool

習近平・中国国家主席は2019年の年初に包括的な台湾政策(習五点)を発表した。

「これは台湾への統一宣言。(建国100年を迎える)2049年以前に、統一を実現する時間表でもある」

著名な中国人民解放軍の将軍で、台湾政策を所管する政府機関の元高官は習五点をこう分析してみせた。

「統一の時間表」という言葉が出るとは予想していなかったので、思わず「つまり49年には統一を実現するという意味か」と問うと、「それ以前に統一を実現するということだ」と、自信たっぷりの答えが戻ってきた。

演説で45回も「統一」の言及

習氏の台湾政策は、中国が台湾への「武力統一」路線を「平和統一」に転換した「台湾同胞に告げる書」発表から40周年の1月2日発表された。筆者が北京でこの元高官に会ったのはその5日後のことである。

習氏の台湾政策「習五点」とは何か。

  1. 民族の復興を図り、平和統一の目標実現
  2. 「一国二制度」の台湾モデルを台湾各党派・団体との対話を通じ模索
  3. 「武力使用の放棄」は約束しないが、対象は外部勢力の干渉と「台湾独立」分子
  4. (中台の)融合発展を深化させて平和統一の基礎を固める
  5. 中華文化の共通アイデンティティを増進し台湾青年への工作を強化

ここには統一までの期限は出てこない。元高官は何を根拠にそう言ったのだろう。

元高官は、習氏が演説で45回も「統一」に言及したことを挙げ、「五点のすべてが統一目標に向けて展開されており、正式な『平和統一宣言書』」だとみる。確かに胡錦涛前主席が約10年前の2008年末に発表した台湾政策(胡六点)では、「統一」にはほとんど言及されておらず、台湾との経済交流から共に利益を得ようという意味の「平和発展」が強調されていた。

三大任務に「祖国統一の実現」

習氏は2017年10月の中国共産党大会でも、党の「三大歴史的任務」の一つに「祖国統一の実現」を挙げている。ということは、建国100年を迎える2049年に「世界トップレベルの強国」と「偉大な民族復興」を成し遂げた時、台湾統一も実現していなければならないということだろう。それ以上に、軍の立場を代表する人物がそれを「時間表」と呼べば、論理以上のリアリティをもつ。

中国にとり、日本を含む列強に侵略され植民地化された国土を回復し統一するのは、建国理念の一つである。

台湾問題は、決して妥協できない「核心利益」だが、これまで統一のスケジュールを明示したことはない。「偉大な民族復興」の時期を30年後に設定した以上、それまでに統一も実現していなければ、「復興」は絵に描いたモチになってしまう。

台湾では「統一」でも「独立」でもない「現状維持」支持が約7割を占める。しかし、そんな民意をよそに、「統一時計」は30年後に向けて確実に時を刻んでいくというのだ。

一国二制度の「台湾モデル」

台湾

台湾では統一でも独立でもない「現状維持」を支持する人が7割にのぼる。

REUTERS/Tyrone Siu

具体的に統一するとなると、どのような形になるのか。

習五点では、「一国二制度」の「台湾モデル」を提起している。香港とマカオで実現した「一国二制度」だが、中央政府の統制強化によって「高度な自治」は崩れたとの不満が香港、台湾で広がり、「一国二制度」は台湾では全く人気がない。それを意識したのは間違いない。

では「台湾モデル」とは何か。

元高官は、こう説明する。

「香港・マカオはイギリスの植民地であり主権回復後、中国が軍隊を派遣・駐留したが、台湾は植民地ではない。中国は台湾に軍隊を派遣・駐留しない。鄧小平はかつて内部講話で『平和統一が実現すれば国名を変えてもいい』と語ったことすらある」

世界の多くの国は、中華人民共和国の北京政府を承認し、台湾の「中華民国」承認国はわずか17カ国。統一を受け入れれば、中国は国名で譲歩してもいいという意味だ。

中国の最優先課題は対米改善

トランプ政権

中国にとって最優先事項はアメリカとの関係改善である。

REUTERS/Jim Young

台湾統一と言えば、台湾海峡での中国軍機の活動や空母「遼寧」による軍事的威圧を挙げて、軍事的に台湾を呑み込みアメリカの介入を阻止する意図など、軍事的文脈から語られることが多い。しかし、貿易戦争に始まる米中対立激化の中で、中国指導部は「アメリカに全面的に対抗する力はない」との認識から、「対抗せず、冷戦をせず」などの超柔軟姿勢で臨む新方針を決定した。

中国は、アメリカとの武力衝突を覚悟しなければならない武力統一はできない。そんな実力はないからである。

中国にとって最優先課題は対米関係の改善にあり、台湾問題の優先度は依然として低いと考えていい。

習演説は、台湾で人気のない「一国二制度」による統一を「今後一世代」という時間枠を設けて提示したことに最大の特徴がある。裏返せば、統一への自信の表れでもあり、経済・社会基盤の融合から進め、最後に政治統合を目指す息の長いプロセスでもある。

台湾問題は単なる台湾問題ではない。もし統一が実現すれば、その時はアメリカが東アジアの後景に退いている可能性が高い。そのとき、「日米同盟」を金科玉条にしてきた日本のポジションはさらに揺らいでいるに違いない。

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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