決算会見にのぞむ、ヤフーの川邊健太郎社長。
ヤフーは2018年度第3四半期決算を発表。売上高7075億円(前年同期比7.4%増、会計方針変更の影響を除いた場合、同9.7%増の7224億円)、営業利益1196億円(同19%減)、四半期の最終利益701億円(同32%減)という水準だった。
ヤフーは、期初から投資を行うことで2018年度は減益になると明言しており、織り込み済みの結果といえる。
執行役員 最高財務責任者の坂上亮介氏。
ヤフーによる第3四半期トピックス。
3月期の決算着地予想は、投資費用である「新たな挑戦への費用」が想定より120億円少なく着地する見込みであることなど加味し、従来予想を70億円切り上げて、1400億円〜1430億円とした。
増収要因の大きなものとしては、順調な広告関連の売り上げ(ディスプレイ広告7%増や検索連動広告12%増)をあげる。
堅実な第3四半期決算だが、川邊健太郎社長のスピーチは、安定決算にあぐらをかかない「攻めた」ものだった。
「PayPayキャンペーンはかけこみで15億円増えた」
まず、先行する記事にもあるとおり、ソフトバンクとヤフーの合弁会社であるPayPayに関して、「100億円あげちゃうキャンペーン」は、結果的に115億円の費用だったことを公表している。終了間際の駆け込み需要でオーバーしてしまった形だが、「サービス開始後4カ月で400万ユーザー突破」の実績には、十分満足しているようだ。
「正直申し上げて、先行する他社のモバイルペイメントに比べて後発からのスタート。12月からキャンペーンを行なった結果、当社調べではあるが認知度、内容理解ともに1位というのがキャンペーンの効果」(川邊氏)
ネット上で話題になったセキュリティーの課題にも言及。しかし、調査のとおり実際には、従来から漏れていたクレジットカード番号が問題の根本だとして、PayPayがキャッシュレス決済の問題点を浮き上がらせたとした。
一方、400万ユーザーをもつPayPayが、果たして全国何店舗で使えるのかは、PayPay、ヤフーともに明かしていない。この理由について川邊氏は、
「ユーザー数とともに、PayPayを便利に使うには加盟店も多くないといけないと思っている。最終的に目標としている数字は非常に大きいので、そこからするとまだまだかなと。
キャンペーン以降、多くの店舗から関心をいただいており、営業の1日あたりの獲得件数はどんどん上がっている状況。みなさんに納得してもらえる店舗数にきてから、開示したい」
と、理解を求めた。
「ヤフー2023年に広告売上5000億円」宣言の意図
左は執行役員 最高財務責任者の坂上亮介氏。川邊社長も自ら、ほとんどの質疑に回答した。
決算会見で印象深かったのは、川邊氏自らが、「今後の成長に向けて」として、将来の売り上げ目標と、その手法を語ったことだ。
「投資家の方々から今後の利益の水準への質問が大変に多いため」(川邊氏)、通常、電話で行う投資家向け説明をやめ、急遽、自身で見通しを説明する機会を設けたという。
これは、投資家としても「川邊体制のヤフーがどうなっていくのか」の明確なメッセージを求めているということだろう。
ヤフーは、1日あたり9200万UB(ユニークブラウザー)、ログインIDで4700万ユーザーを持つ国内有数の巨大サイトだ。川邊氏は過去5年間を振り返り、パソコンのヤフーからスマホのヤフーにシフトできたことなどを挙げ、「ネット業界は派手な状況の変化があるが、なすべきことをきちんと組織力を効かせてやってきた」と総括した。
今後事業の成長ドライバーとなる基礎的な考えは、「オンラインのヤフー」と「オフラインのPayPay」という2つを事業の柱とし、そこから得られるデータを活用し、「オンラインとオフラインにまたがったマネタイズポイント」つまりビジネスの芽をおよそ4つほどの分野で創出し、収益を拡大していくという考え方だ。
4分野はそれぞれ、「統合マーケティングソリューション」「EC」「ECの取扱高を活用したフィンテック」「B2Bのデータソリューション」というものだ。
その1つの「統合マーケティングソリューション」について、川邊氏は次のような趣旨を説明した。
これは、いままでヤフーが担ってきた認知・検索という消費行動の入り口に加えて、「購入・再購入」というビジネスに直接関係のある領域まで効果を可視化し、「結果にコミットメント」(川邊氏)することで、さらなる収益を生み出すという。
4つのマネタイズポイントの1つ、統合マーケティングソリューションの概念図。
従来、ヤフーの事業領域でオフラインやオンラインの幅広い消費行動をデータ化することは難しかった。Yahoo! IDだけでは、十分に購買行動を追えなかったからだ。それが、PayPayの登場によってオフラインやそのほかの決済領域のデータ化が視野に入ってきた。
これにより2023年度には、2017年度の1.6倍にあたる広告売上5000億円を目指す、という。
既存の広告市場は約6兆円とされるが、ヤフーは広告市場でのプレゼンスを維持したまま、新たに国内約15兆円と推計する「販促市場」をターゲットにする。ここで2000億円を上積みする計画だ。
ここに至るためには投資も必要だが、投資については「(2018年度水準にあたる)年間1400億円以上の営業利益水準を維持する」とした。他社とは違い、一時的な赤字や大幅に営業利益圧迫するほどの投資は、あえて行わない。
目標の広告売上5000億円で目指す営業利益は、過去最高益だった2015年度を上回る2250億円(この年はアスクルの再測定益という一時的要因があった)。
5000億円達成について、川邊氏は簡単ではないが、「そのチャンスはモノにできる」と宣言する。その一方、自身の危機感について、こうも語った。
「一方で、危機感も大変に強い。例えば、身内で言うと、アメリカのYahoo! Inc.の決算発表 ── 消滅してしまいましたけれども ── を先日見たが、あれは我々が、もしかしたら危機感を持たなければ、チャレンジをしなければ、生じてしまった1つの現実的な未来なんじゃないか、という強い危機感を持った。
だから我々としてはさまざまなインターネット市場の変化をとらえて、それを危機ではなくチャンスに変えていくような、経営を引き続きしていきたい」(川邊氏)
川邊氏は危機をとらえて事業を強くすること自体が非常に難しいことで、さらにそれを利益に変えていくのは、より難しいとも発言した。
その上で、あえてこの時期に、景気が不安視される東京五輪以降の2023年に広告売上5000億円企業にすると数字まで公言したのは、国内ネット企業の勝者の立場にあぐらはかかないという川邊体制の宣言であり、強い決意が感じられる。
(文、写真・伊藤有)