2019年は「TikTok広告」元年になる?
撮影:西山里緒
1年前、TikTokと言えば一部の中高生が遊んでいるだけの単なるお遊びアプリだった。しかし、スマホ時代の秀逸なアプリ設計により、2018年、急速にユーザー数が拡大。多くの企業がTikTokを活用した広告に参入し始めている。
2019年は「TikTok広告」元年になる
2019年に入ってTikTokの広告関連のビジネスが立ち上がりつつある。
撮影:西山里緒
2019年に入ってから、TikTokの広告に関するニュースが増えた。
1月中旬、TikTokを提供するByteDanceが広告配信プラットフォーム「TikTok Ads」を全面リニューアルしたと発表した。精度の高いユーザー属性のターゲティングや、ユーザーの試聴コンテンツに合わせた広告の配信を可能とし、効果的に潜在顧客にリーチする手段を広告主に提供する体制を整備した。
同じく1月、ネット広告企業のセプテーニがTikTok広告の研究やノウハウ蓄積を行うTikTok LABの設立を発表、ネット広告企業のオプトもTikTok広告動画を制作する事業を開始する旨を発表した。マーケティング企業のトレンダーズは1月末に専門のTikTokマーケティング部署を設立。
TikTokの歴史は浅いが、年が明けてから周辺ビジネスが立ち上がりつつあることがわかる。
では、TikTokではどういう広告メニューがあるのか?どういう企業が既に広告を出稿し、どういう成功例があるのだろうか?
「映画ポスター型」の静止画広告
TikTokのアプリを開くと、一番最初に表示されるのが「静止画広告」だ。
映画館の映画ポスターのように、インパクトがあり、カラフルなものが多い。ひと目みるだけで、その広告の意味がわかるようにデザインされている。
以下は、最近見かけたソフトバンク、日本テレビ、東京ディズニーシー(オリエンタルランド)、SUUMO(リクルート)の静止画広告である。ソフトバンクの広告はブランディングが目的のように見えるが、他の3つは「ハッシュタグチャレンジ」も兼ねており、広告をタップすると、企業が用意した曲とハッシュタグに合わせて、動画投稿できるように誘導される。
出典:TikTok
静止画広告は企業が使う場合もあれば、TikTokが自身の企画や新機能の宣伝に使うこともある。起動する度に出るので、強制的に見せられるし、静止画なのですぐに閉じたとしても内容は頭の中に入り、そこそこ広告効果があると思われる。
出典:TikTok
あとで説明するような「動画間で広告を見せるタイプ」は、ユーザーがアプリを閉じてしまうリスクやすぐに飛ばしてしまう可能性があるが、起動時という最初に見せることで、ユーザーがアプリから離脱する心配がなく広告を見せられる。映画館の最初に予告編を見せられるような感覚だ。
ユーザー動画に混じって流れてくる広告動画
静止画広告を閉じると、「おすすめ」欄に飛び、動画が早速流れ始める。下にスワイプすることで、次々に動画を視聴できる。そうやって動画を観ていると、「広告動画」が流れてくることに気づくだろう。
これは、TikTokの中では最も標準的なタイプの広告。筆者が試した中では、9件に1回の頻度で広告動画が表示される仕組みになっているようだった。ユーザーの動画と同じような雰囲気のものが多く、一見、広告とは気づかないこともある。
筆者が見る限り特に多かったのが、ゲーム系企業の広告だ。モンスターストライク(ミクシィ)、星のドラゴンクエスト(SQUARE ENIX)、ブロスタ(SUPERCELL)、戦艦帝国(クールファクトリー)をはじめ、数多くの広告が見られる。
TikTokに出てくるゲーム系の広告。
出典:TikTok
戦艦帝国の広告(一番右)は、「40代がハマる!」と打ち出しているのが興味深い。最近は40代男性のTikTok参入が進んでいるというデータもある。若者のみならず、大人世代にリーチしたい企業にとっても、TikTokは魅力的な広告ツールになりうるかもしれない。
次に多いのが、美容系・健康系広告。ダイエットサプリメント(スラキュア)、写真を盛るアプリmoru(フリュー)、カラーコンタクト(キャンディーマジック)や、健康アプリ(FiNC)など。
TikTokに出てくる美容・健康系広告。
出典:TikTok
マッチング系のタップル(マッチングエージェント)、ニュースサービスのGunosy、ライブ配信のPococha(DeNA)、アバターアプリのピグパーティ(サイバーエージェント)などのウェブサービス系も目立つ。
TikTokに出てくる(ウェブ)サービス系広告。
出典:TikTok
最近は交通系、金融系、アルバイト系、不動産系など、さまざまな広告動画を見かけるようになり、裾野が広がりつつあることを感じる。
広告動画の利点は、動画がバズらなくても表示され続ける点。アプリへのダウンロードリンクやウェブサイトへのリンクを直接動画に貼れる点だろう。
一方、「広告」というタグが左下に出てしまうので、TikTokをある程度やり込んでいるユーザーは徐々に目が適応し、広告タグを一瞬で捉えられるようになる。そうすると、広告動画が出た瞬間にスクロールできるようになる。
YouTubeとは異なり、TikTokの場合は広告を最後まで閲覧せずに飛ばせてしまう。いくら通常のTikTok動画と間違われるほど自然な仕上がりでも、一部ユーザーは「広告」のタブを見て、一瞬で飛ばしてしまう可能性もある。
徐々に増える「ハッシュタグチャレンジ」広告
そこで私が注目しているのが、企業キャンペーンのハッシュタグがつけられた、TikTokerが拡散する広告だ。最近、TikTokにもポツポツと出現してきたように感じる。
これはYouTubeではすでに有名なスタイル。YouTuberに企業の商品やサービスを紹介してもらう。動画の概要欄には「○○株式会社提供」「○○とのタイアップ」のような、PRとわかるコメントも挿入される。
YouTuberは動画の中で自然にその商品を紹介する。もちろん「企業案件」ということは言及するが、自身のいつもの動画と並べても違和感がないような面白い企画になることが多い。ファンもいつも通りに楽しむこともでき、YouTuberは企業から報酬をゲットできる。YouTuberの重要な収入源の一つである。
TikTokの場合は、企業は「ハッシュタグチャレンジ」として広告を拡散し、ユーザーもキャンペーンに参加できるところが特徴だ。
最強パターンは「ワイモバイル型」
私がもっとも「さすが」と感じたハッシュタグチャレンジ広告を紹介しよう。
例えば、45万人のファン数を誇る人気TikToker成瀬さんによる、ワイモバイルのハッシュタグを使った動画だ。
使われていた曲はTikTokで大流行している「全力◯◯はじめるよ」のフレーズを、ワイモバイルの曲の冒頭にくっ付けるというある種の「二次創作」。TikTokプラットフォームを意識したプロモーションの展開例として非常に参考になる。
実は私は成瀬さんのファンであり、握手会にも参加したことがある「ヲタク」である。ヲタク視点からも、人気度の高いTikTokerを起用することの効果は非常に高いと感じている。
好きなTikTokerがその企業のアイテムを使ってネタをやったり、その企業の歌に載せて踊っている姿を視聴者が見れば、企業イメージが容易に変わるだろう。
ワイモバイルのPR動画は、Hinataさん、ひなたさん、ねおさんなど多数の著名TikTokerからもリリースされており、大規模な宣伝が行われたことが想像できる。
多くのTikTokerがPRではなく、自らワイモバイルの音源を用いた動画を投稿するという形で追随し、結果的に3万件以上のワイモバイル動画がTikTok上で生まれ、大成功企画につながった。
ワコールの「パンツ(P)がくいこむ(K)というJKの悩みの歌」を真似た「ノンPK」動画がTikTokで流行したことで、関連商品の売上増に貢献したというニュースも報道されており、今後は多くの企業が「自社の曲をTikTokでいかにバズらせるか?」という視点で、さまざまな取り組みを繰り広げていくに違いない。
広告にもTikTokerが出演
ちなみに最近見かけるようになっているのが、正式な広告タグが表示される広告動画でありながら、そこにTikTokerを起用するというハイブリッドスタイル。その場合は「あ、○○さんだ!」と、広告でも飛ばさずに最後まで見る強い動機になる。
ディズニーシーの広告動画に出演した神楽ひなこさん。
出典:TikTok
例えばこちらは、20万人近いファン数を誇る人気TikTokerの神楽ひなこさんが、ディズニーシーの広告動画に出演した例である。
静止画広告、動画広告、ハッシュタグチャレンジ広告の3種類にはそれぞれ良さはある。ユーザーとして面白いのは、ハッシュタグチャレンジであれ、動画広告であれ、TikTokerが出演している動画であろう。
TikTokerはそれぞれ得意分野もファンの層も異なる。自分の会社のイメージに近いTikTokerに早めにアプローチした企業こそが、TikTokで成功を収めるのかもしれない。
(文・toricago)