胃がん克服したファミマ澤田社長。がんで動揺しないため「必要なのは正しい知識と共感」

コンビニエンスストア大手・ファミリーマートの澤田貴司社長(61)が2月3日、都内で開かれた「CancerXサミット2019」に登壇。医療やがんに罹患した人の生活など幅広く話し合う場で、自らのがん体験を語った。

ファミマ澤田社長

CancerXサミットに登壇したファミリーマートの澤田社長。小泉進次郎衆院議員らと一緒に、「がんで動揺しない社会のために」を議論した(右から2番目)。

このサミットはがんの経験者やその家族、医療者ら有志で作る団体「CancerX」が企画、約650人が参加した。

澤田社長が胃がんの手術を受けたのは6年前、55歳の時だった。伊藤忠商事、ファーストリテイリング副社長を経て、当時は自ら興した経営支援会社「リヴァンプ」のトップ。手術の1カ月後には仕事復帰した。

その後、2016年にはファミリーマートの社長に就任。サークルKサンクスと経営統合して同社を業界2位に浮上させた。

経営者が自らがんも含め、自身の病気や健康状態について公の場で話すことは珍しい。当然公表することによるリスクもあるからだ。このサミット登壇後、Business Insider Japanの取材に応じた澤田社長に「登壇することに躊躇はなかったのか?」と問うと、こう言い切った。

「経営者としてがんに罹患し克服したことは、全くネガティブな体験ではない」

なぜ、ポジティブにがんを捉えられたのか?

医師の“がん予告”で心の準備

澤田社長はがんの告知を受けた際、大きく動揺はしなかったという。

「私の場合はちょっと特殊で、『ああ、やっぱり!』と」

当時経営する会社のクライアントの主治医との会食の席で、医師が消化器の専門医だと知ると、患っていた胃炎の悩みを相談。「自覚症状はないものの、胃が荒れているらしく、定期的に胃カメラを飲んでいて」 と、持参していた胃の内視鏡写真を見せた。

すると、意外な答えが返ってきた。

「澤田さん、あなたの胃はかなり悪い。このままだったら、がんになる可能性が高い。経過をみていけば、2年ぐらいで症状が出てくるかもしれません」

突然の“がん予告”に「冗談を」とも思ったが、医師から「僕が診ましょう」との言葉をもらった。それからは、胃炎の治療とともに半年に1度の内視鏡検査を欠かさず、経過を観察した。

「それで2年経った時に、その先生から『気をつけて診ていたら、やっぱり出ました』と言われまして。本当にそうなったんだ、やっぱりそうかとびっくりしました」

死を全く意識しなかったわけではない。それでも、告知を受けて大きく動揺しなかったのは、

予め、がんになるかも、と言われていて、心の準備ができていたからだと思う。信頼している医師から見通しをしっかり伝えられたことも大きい

がんのタイプは、胃壁の内部で広がっていくスキルス性胃がん。見つかりにくく、広がりやすいがんだが、ごく初期で見つかったため、医師からは「全く心配ない。僕が治します」とお墨付きをもらった。その言葉で安心して治療に臨めたという。

胃の3分の2を内視鏡で切除し、2つの「門」(胃の出口と入り口)は残す手術で、普通の生活に戻れるという見通しも、合わせて伝えられた。

「俺、生きてるぞー」と社員にメール

ファミマ澤田社長

闘病と経営で必要なのは、「先が見える状態にすること」と語る澤田社長。

澤田さんは、社長である自身がしばらく治療で仕事を抜ける以上は、周囲に隠し立てはできないと判断。告知直後、「おい、がんになったぞ」と会社(リヴァンプ)の社員たちにオープンに伝えた。

手術後には全社員に、 「生きてるぞー。1週間後には会社に行くから」 とメールした。「生還した自分」の姿を写メで撮影して、写真も添付した。それを見た社員からは、「頑張って下さい!」「社長、半端ない!」などと激励メールが届いたという。

「自分が元気、大丈夫ということは、あらゆる機会に発信し続けなければと常々思っていて。たとえ闘病中であってもね。僕が強く思うのは、社長が下を向いちゃいけないなということ。元気で明るくいることは、社長の一番の仕事ぐらいに思っているんです」

4年前からは、趣味のトライアスロンも再開した。

「がんと言われても動揺しない社会に」

キャンサーX

CancerXは患者だけでなく、立場の違う人たちが組織の壁を超えて課題を解決する仕組みを目指している。

澤田さんは大学時代にはアメフト部に所属。社会人になってからはトライアスロンのほか、スキーやダイビングなど多忙の中でも積極的にスポーツをし、健康には気を遣ってきた。

「だから、自分ががんになるなんて全く想像していなかった」

人は健康な時、誰もが病気に対して無知なもの —— 。こう話したのは、澤田さんが登壇した冒頭のサミットで司会を務めた認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事の鈴木美穂さん。元日本テレビの記者兼キャスターで、今回のサミットの主催者でもある。鈴木さんもまたがん患者だった。

「2008年に24歳で乳がんを告知された際は激しく動揺しました。『この世の終わり』と感じて未来が一切描けなくなり、8カ月間塞ぎ込みました」

それは、自分ががんのことを何も知らなかったからだと鈴木さんは語る。

日本では毎年100万人ががんに罹患しているにも関わらず、「がん=死」と結びつける固定したイメージが根強い。鈴木さんの願いは「Cancer,So WHAT?」、つまり「がんだから何?」と言えるぐらいの、「がんと言われても動揺しない社会の実現」だ。

経営と似ている「キャンサー・ジャーニー」

キャンサーX

サミットの主催者の1人、鈴木美穂さん(一番左)は、「がんだから何?」と言えるぐらいの社会を、と話す。

幸運なことに澤田さんの場合は、がんになる前から信頼する医師という「優れたナビゲーター」がいた。心の準備ができていたからこそ、過剰な心配に苛まれることもなく、治療の前後も穏やかに過ごすことができたと澤田さんは感じている。

「僕もいろんな会社を経営してきたんで、苦労もいっぱい経験してきたんですが、下手な専門家に会社を委ねていたら大変なことになることもあるなと。公私それぞれの経験から思うのは、お医者さんと弁護士さんは間違っちゃいけないということ(笑)」。これは、身に染みて思っています」

しばしば「キャンサージャーニー」と表現される、がん体験。澤田さんは、がんの旅路もまた、会社経営に似ていると話す。

「人は誰も、先が見えないと不安になっちゃう。自分の会社がこの先どうなるんだろう。自分の体や暮らしがこの先どうなるんだろうと。だからこそ、『先が見える状態』をいかに早くつくるかが大事だと思いますね」

会社の経営でも、見通しが持てる状況を迅速に作り上げることを意識してきたという。

「コンサルタントを入れていろんな手を打ったとしても、先が見えない会社は怖い。でも、会社の方向性が見えると『よしここ行くぞ!』とみんなを鼓舞できて、そこに向かって頑張れる。

闘病も同じじゃないかな。僕は今も、人間ドックを受け健診は受けていますが、同じ検査結果を見せられても、やみくもに怖がらなくていいんだと。正確にその結果が伝えられるのとそうでないのとでは大きく違うと思う」

正しい知識は大事ですね。そうした医療の知識を伝えられる『信頼できる人』をあらゆる人が身近に持てるように、人材を増やすこと。正しい知識にたどり着ける仕組みを作ること。そのどちらもが大事だと考えています」

「全員参加」で医療を創る時代

サミットの登壇者の一人、がん経験者でもある上野直人・MDアンダーソンがんセンター乳腺腫瘍内科教授は言う。

「これからは、医者だけでなく『全員参加』で医療を創る時代」

「あらゆるプレーヤーが、大きな枠組みの中でコレクティブ(集合的)に社会を変えていくことができる」

「がんと言われても動揺しない社会」の実現のために、サミットで課題として掲げられたのは、立場の異なる組織がその壁を越え、互いの強みを出し合いながら社会的課題の解決を目指す「コレクティブ・インパクト」の体制をいかに作り上げていくかだ。

小泉進次郎

登壇した小泉進次郎衆院議員。

その体制のプラットフォームとして、コンビニができることはたくさんある、と指摘したのは、登壇者の一人、衆議院議員で自民党厚生労働部会長の小泉進次郎氏だ。

イベント終了後、一緒に登壇した3人からは、「店でがん健診ができたら」「弁当を食べると、いくらかはがん医療に寄付できるという仕組みもよいのでは?」「がん健診セット弁当なんていうのも面白い」などとアイデアが次々に飛び出した。

そうした新しいサービスを業務として考えた場合、担い手の負荷など検討すべき材料は多い。ファミリーマートの店舗で働く人を合わせると約20万人にも上る。アイデアの一つ一つを具現化する上で、一番大事なのは、理念に賛同し、ともに行動を盛り上げてくれる仲間たちの「共感」を得ることだと澤田さんは力説する。

「今度、ファミリーマートではこども食堂を3月から始めます。加盟店の皆さんが、子どもたちを招いて、みんなで食事ができれば地域コミュニティの活性化にも一役買って素敵なんじゃかなと賛同してくれたからこそできるんです」

がん支援も、現場である加盟店に負荷をかけないことは大前提。

「大上段に構えて号令をかけてお願いするのは違う」

店で働く人たちが「共感」を持って主体的に課題解決に参画してもらえるよう、自分はプロデュース役に徹するのだと付け加えた。

「だって、現場の人にこう思ってもらいたいですから。『澤田の言ってること、そうだよな。よっしゃー、いっしょにやろう』と。20万人が共感して動き始めたら、そのインパクトは「半端ないものになると思いますよ」

(文・古川雅子、写真・今村拓馬)

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