サイバー藤田社長が語るAbemaTV“脱苦戦”次の一手「2019年はドラマ当てる」「キラーコンテンツ3連敗」

サイバーエージェント藤田社長

動画サービスのライバルはいない ── 藤田氏が繰り返し言ってきたことだ。

2018年、サイバーエージェントは創業から20周年を迎えた。2016年にはインターネットテレビ局「AbemaTV」を開始、そして2019年3月には渋谷・宇田川町に新たにできる「Abema Towers(アベマタワーズ)」へのオフィス移転も予定している。

一方で「先行投資期」と位置づけているAbemaTVの収益は苦戦が続いている。1月30日の決算発表会では、2019年9月期の営業利益の見通しが100億円下方修正されることが発表された。AbemaTVの次の一手は? 藤田晋社長を直撃した。

「3連敗」で実現しなかったキラーコンテンツ

サイバーエージェント藤田社長

「ちょっと無理でしょうという話を、なんとか口説き落とそうと……」。

—— AbemaTVは3700万ダウンロードということですが、決算会見では、稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんが出演した『72時間ホンネテレビ』を超えるような番組が2018年は出せなかった、と話されていましたね。

藤田晋氏(以下藤田):(キラーコンテンツが出せなかった理由は)2つあって、年初から2018年はレギュラーを頑張るぞ、と言っていたんですね。『ホンネテレビ』とか(AbemaTV1周年記念企画の)『亀田興毅に勝ったら1000万円』とかは跳ねるんですけれど、レギュラーが強くないと一度来てもAbemaTVをすぐに見なくなってしまうので。

その一方で、世の中をざわつかせるようなコンテンツをやろうとして、思い出すだけでも3つ大きいのがあったんですけれど、3連敗でした。

—— ぜひそこを詳しくお聞きしたいです。

藤田:超有名人の方をブッキングしてという企画で、簡単にいうと断られた。話を聞いたらちょっと無理でしょうと思うような話を、なんとか口説き落とそうとしました。

年末特番も、もちろん長い時間をかけて交渉したんですけれど、他にも機を見るにこのタイミングでやるしかない、というものを企画していました。それが実現に至らなかったというのは2018年の反省点ではあります。

—— ジャニーズがネット解禁したという大きなニュースもありました。そこにAbemaTVとしても食い込んでいきたいと?

藤田:その文脈とは全く関係ないんですけれど、やっぱり大きな話題になるような番組はやっていきたいですね。

リアルタイム視聴は「5%」

サイバーエージェントの決算。

サイバーエージェントは1月30日、決算発表会を行い2019年9月期の営業利益の見通しを100億円下方修正した。

出典:サイバーエージェント 2019年9月期第1四半期 決算説明会資料より

—— AbemaTVが開局してもうすぐ3年ですが、3年前、予測できなかった事態は?

藤田:ほとんど予測通りとも言えるし、そもそも予測なんかできるわけがないとも言える。1点挙げるとすれば、Abemaビデオが相当伸びているというところですね。

例えばドラマのようなコンテンツは、リニア(編成された時間通り)で見ている人は総視聴者数の5%ぐらい。95%の人はオンデマンドで見ています。

リニアの方が当然広告価値も高いし、メディアとしての影響力もあるので、正直もっとリニアで見せたいという気持ちはあります。オンデマンドで広告は見られにくくなりますから。そこは想定していたよりも厳しいなというところがあります。

2019年はオンデマンドを打ち出していくという方向に舵は切っていて、新しい課金プランも用意しています。

過激なコンテンツは廃れていく

極楽とんぼKAKERUTV

過激な演出で批判を浴びた『極楽とんぼKAKERUTV』。

出典:AbemaTV

—— 2018年はネットテレビの倫理性が問われた年でもありました。AbemaTVでも『極楽とんぼKAKERUTV』でのセクハラ・パワハラ的な演出が批判を浴びたり、YouTubeでは、有害で危険なコンテンツに対するポリシーが発表されたりと、さまざまなニュースがありましたが、それについてはどうお考えですか。

藤田:YouTuberの過激な行動は、確かに非常に危険だなと思うことはあります。

(AbemaTVでは)テレビでやれなかった鬱憤なのかコンプレックスなのか、そういう過激なことをやろうとする人がいるのですが、僕としてはただ過激なことをやるだけで視聴者が喜ぶとは思えない。過激なことはネットならできると思っているのは、ネットテレビ制作の初心者だと思います。

視聴者が求めているものは、共感だったりリアリティだったり、僕たちは「眼福」と言っているんですけれど、美しい映像だったり、そういうものだと思います。今までは自由にやらせていましたが(過激な傾向は)もう終わりつつある。

ちょうどいいブスのススメ

批判を受け、タイトルが変更されたドラマ『ちょうどいいブスのススメ』。

画像:読売テレビ

—— AbemaTVの人気コンテンツには、『ブステレビ』だったり(童貞をコンテンツ化した)『DTテレビ』もあります。2019年明けには『ちょうどいいブスのススメ』というタイトルのドラマが炎上しましたが……。

藤田:『ブステレビ』はすごく人気なんですけれど、やっぱり共感を生んでいるからだと思います。(『ブステレビ』では)こそこそと陰でいうのではなくて思いっきり言い合って、出演者も楽しそうにやっている。それは番組を見たら分かります。

ブスという言葉が禁止用語というわけではないのですから、その言葉ではなく、内容が共感できるか、ではないでしょうか。

激動の動画ビジネス、次の一手は

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撮影:今村拓馬

—— 1年半前にお聞きした時は、AbemaTVはどこもライバルと思っていないと話されていました。一方で2018年に動画業界は激変し、ネットフリックスやYouTubeも存在感を強めています。いま市場をどう見ていますか。

藤田:メディアは「動画」という言葉でひとくくりにしようとするんですけれど(笑)。それぞれの視聴態度の違いは見たら絶対わかると思うんです。

YouTubeを見てる時は、早いスピードでバンバン次の動画に行って、ネットフリックスは「さあ、映画を見るぞ」とスローテンポで腰を据えて見る。AbemaTVはどうかというと、テレビの視聴態度に近い。だから全然違うものですよね。

—— YouTubeもAbemaTVもメインの視聴者層が10代〜20代と若いので、食い合うのでは?

藤田:AbemaTVのYouTube公式チャンネルも登録者数が100万人超います。そこからAbemaTVに流れてくる人もいると思うので、YouTubeという巨大なメディアはうまく活用していきたいですね。

—— 2018年はAmazon Prime Videoの『バチェラージャパン』が流行しましたね。2代目バチェラーがサイバーエージェント社員の小柳津林太郎さんだったことでも非常に話題になりました。サイバーエージェントの「懐の深さ」を見せつけた感じが……。

小柳津林太郎

2代目バチェラーに選ばれた、小柳津林太郎さん。

出典:Amazon.com

藤田:「そろそろ結婚を考えなければならないので2カ月会社を休みます」と言われた時は開いた口がふさがらなかった(笑)。「勝手にしろ」と言ったら、社長にOKをもらったと小柳津が言っていたそうで。

その後(番組で付き合った方とは)別れていましたけど、その時は人気が急降下していましたね(笑)。

(Amazonに出演するということは)全く問題ないです。先ほども言ったように、Amazonもネットフリックスもライバルとは思っていませんから。

—— 2018年11月には、BS放送の枠の解禁というニュースがありました。逆にネットからマスに新規参入するという可能性は。

藤田:全く興味はないですね。広告のことを考えてもテレビの視聴者層はシニアになってきている。国の電波を使って何かやりたいかと言われると、必要ないかなという感じがしています。

—— 2019年はNHKがネットとテレビの常時同時配信を始めるとも発表しています。

藤田:僕は、NHK がネットに参入するというのはそんなに大きなニュースだとは思えないんですよね。当然、災害時の緊急の報道などには非常に重要な役割を果たしていると思いますけれど。

ネットテレビを3年やってきて自信を持って言えるのは、テレビで作っているコンテンツをそのままネットに流してもほとんど見られない。

今までテレビでやってきた物をネットに流せば解決するかというと、ワンセグがそれを示していると思いますけれど、そんなに簡単ではない。

麻雀・Jリーグでもしかけていく

アンドレス・イニエスタ選手

2018年は、アンドレス・イニエスタ選手のヴィッセル神戸への移籍が日本サッカー界を騒がせた。

Buddhika Weerasinghe / Getty Images

—— 2018年10月に買収されたJ2の町田ゼルビアのことについてもお聞きしたいです。将来どのようにサイバーエージェントのビジネスに結びつけていく予定なのでしょうか。

藤田:AbemaTVとの連携もゼロではないですが、まずはクラブチーム経営に関心を持っています。ファンとのオンラインサロンのような関わり方も前より濃度が高くできるようになりましたし。

Jリーグがダゾーン(DAZN)に放映権を売りましたけれど、売り先も昔はテレビ局1本だったのが、多様化してきています。

これからは、ダゾーンと協力してJリーグを盛り上げるような試みもやっていきたいですね。まだ最終決定はしていないんですけれど、Jリーグを知らしめていく役割として、AbemaTVを使ってほしいなと思っています。

—— ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手獲得が話題になりました。サイバーエージェントも海外スーパープレイヤーの引き抜きを?

藤田:三木谷さん(楽天の三木谷浩史会長兼社長)が今一人で頑張っているので、一緒に盛り上げていきたいなとは思いますが、今すぐには考えづらいですね。町田はハード面の整備をするのが優先です。状況が整ったら(引き抜きも)将来的にあるかもしれません。

—— 藤田社長の趣味として知られていた麻雀の普及にも本格的に取り組まれ始めましたね。

藤田:麻雀は競技人口も多いし、街中に雀荘があったりと、メジャーなものではあったと思うんです。ただイメージとして『麻雀放浪記』みたいな、博打で家の抵当を売って、みたいな印象が残っているので、一気にイメージを変えたかった。

参加企業が電通・博報堂をはじめとして一部上場企業だったり、最高顧問が東京オリンピックの組織委員会評議員でもある川淵三郎さんだったりと、ガラリと印象を変えられたという手応えはあるんです。

Mリーグは月火木金とAbemaTVで放送していて、毎日15万人が見ていますが、ほとんどがリピーター。ハマっている人たちは完全に熱狂しています。僕もMリーグがあるから生きる楽しみがあるぐらいの勢いです(笑)。この熱狂はちゃんと外に広がるはずだと考えています。

本社移転の決め手は「アムウェイ」

サイバーエージェント藤田社長

「学生時代にいつも遊んでいた渋谷」の話をする時、藤田氏の顔はほころんだ。

—— 2019年3月、新しく宇田川町にできる「アベマタワーズ」に移転されますね。自社ビルということですが……。

藤田:いや、違うんです(笑)。自社ビルだとみんな思ってるんですが、実は住友のビルを一棟借りしているだけなんです。一棟借りした条件として名前をつけられるので、「アベマタワーズ」ってつけたらすごい自社ビル感が出てしまった。そして、一棟しかないのに「アベマタワーズ」(笑)。

—— あの場所に決めた理由は?

藤田:渋谷駅直結のビルからもお話をいただいたのですが、駅直結で、通勤時間に皆同じ方向を向いてザッザッザッと歩いていく光景は、クリエイターにとっていい環境ではないと思いますし、ああいう風に渋谷がなったらイヤだなと。

その点、宇田川町っていうのは、なんかおかし気な場所にあっていいですよね。今は渋谷の道玄坂・円山町。ここもラブホテル街ですけれど、こんなところで働いているからこそ生まれる、面白いコンテンツがあると思う。

—— 移転先もセンター街奥の“ディープな”場所ですよね。

藤田:僕は学生時代、いつもセンター街にいたんですけれど、アムウェイのビルがすごく印象的だったんですね。あんなでかいビルに、ドーンとロゴがあって……。

あの手前に、もっと大きいビルができるという話を聞いたとき、センター街の先にドンと『アベマタワーズ』というのがあったら、相当これは若者たちに対するインパクトが大きいと。サイバーエージェント、アムウェイ、NHK!みたいな感じ(笑)。そういう印象で決めましたね(笑)。

1階には公開スタジオを作るんです。そこでAbemaTVのDJの番組もやりたい。はす向かいにレコード屋があるのですが、レコードをぶら下げている人達が、帰りにあそこで首を振る、そんな場所にしたいですね。

2019年は「ドラマで当てる」

会社は学校じゃねぇんだよ

三浦翔平さん主演で話題になったドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』。

—— 2019年、AbemaTVでどんなコンテンツを出されるのでしょうか。

藤田:世の中をアッと言わせるようなものは、今年は力を入れてやると思います。その一方で、2019年はドラマで当てたい。去年、『会社は学校じゃねぇんだよ』というドラマで一定の手応えを得たというのもあります。(本数は)5本以上は出せると思います。

ジャンルは純愛ものが多いと思います。若い子がターゲットなので共感とかリアリティを感じられるような、王道ストレートものですね。

—— 「世の中をアッと言わせるようなコンテンツ」についてももう少し詳しく……。

藤田:担当を決めて、(出演してもらいたい著名人)一人一人と関係性を築かなくてはダメだなと思っていますね。やっぱり見せたくないものを見せるのがキラーコンテンツということですから、突然提案されてもご本人たちも戸惑うでしょう。今、ちゃんと接触できるように体制を整えているところです。

—— AbemaTVはどこまでいったら「マスメディア」になれるのでしょうか。

藤田:目標は1000万WAU(ウィークリー・アクティブ・ユーザー) と最初から言っています。その時期は言わないことにしていますが、今年のお正月のタイミングで、918万WAU。いけるという目処は見えてきています。

(黒字化は)それ自体難しいことではないんです。売り上げを増やすか、コストを減らすかの話ですから。でもできる限り大きなメディアを作りたい。黒字化自体を目的にはしていません。

(インタビュー・構成、西山里緒、写真・今村拓馬)

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