決算会見の冒頭で「ソフトバンクグループを1行で表したい」と話した孫正義氏だったが、ソフトバンクグループの2018年度第3四半期決算説明会は予定から20分オーバーの1時間50分超の長丁場となった。
約1時間50分の孫正義劇場。
開演から終了まで、2月6日のソフトバンクグループ(以下、ソフトバンクG)の第3四半期決算説明会は、まるで代表取締役会長兼社長である孫正義氏の「独演会」かのようだった。質疑応答では、残りの質問回数を告げようとする司会者の言葉を「私が仕切る」と制し、挙手する記者を自ら指定して回答したほどだ。
ソフトバンクグループの2018年度第3四半期の連結業績。
出典:ソフトバンクグループ
決算にまつわる数字「以外」の部分はソフトバンクGやビジョン・ファンドのいまと将来に関する発言も多数あった。ここでは、決算会見の中で、孫氏が大いに語った重要な5つのトピックを見ていこう。
1. ソフトバンクKK上場資金を原資に自社株買いを実行
ソフトバンクKKの上場で得た2兆円の使い道が明らかになった。
決算以外のソフトバンクGのニュースとしては、同社が自己株式取得を宣言したことだ。株式取得に投じる総額は上限6000億円で、2019年2月7日から2020年1月31日までに実施される。
取得した株は消却予定。孫氏は現在のソフトバンクG株の価値が自身が考える価値より「安すぎる」と感じており、1株あたりの価値を高める狙いがあると語っている。
2018年12月、上場の鐘を鳴らすソフトバンクKK社長の宮内謙氏。
なお、自社株買いの費用6000億円は、ソフトバンクKKの上場で得た約2兆円のキャッシュを原資とする。孫氏はこの2兆円のうち、6000億円を自社株買いに、7000億円を負債返済、残り7000億円を今後の投資予定資金に充てると明らかにしている。
ソフトバンクKKは、上場から今日に至るまで、株価が公開価格を下回る状態が続いている。取材陣からは「ソフトバンクKKの株主は(ソフトバンクGの)犠牲になったという見方もできるのでは」という質問も飛んだ。
これに対し、「出鼻で残念なニュースが重なり下回った」と株価の低調さについては認めつつも「純利益を上回るフリーキャッシュフローを生み出している」と事業の好調ぶりをアピールした。
2. NVIDIA株への投資は既にキャッシュで回収済み
ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、2019年1月に所有していたエヌビディア株のすべてを売却した。
子会社であるソフトバンク・ビジョン・ファンドの成功についても触れられた。ビジョン・ファンドはアメリカの半導体大手・エヌビディア(NVIDIA)に投資していたことでも知られる。ビジョン・ファンドは2016年12月に1株平均105ドルで取得した後、仮想通貨の盛り上がりと計算資源需要の高まりを背景にNVIDIA株は2018年10月1日に一時は1株289ドル前後の高値を記録。これを境に下落に転じ、2018年12月末には1株134ドル前後まで急落した。
ビジョン・ファンドは2019年1月にエヌビディア株をすべて売却しているが、今回の株価下落は約4000億円のマイナスとして営業利益に影響を与えているという。
ただし、孫氏は金利に上限を設けたカラー取引などにより「純利益では3000億円ぐらい取り戻している」と説明。NVIDIAへの投資は決して失敗ではなかったとした。
3. ビジョン・ファンドの次の調達先は明言を避けた
ソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先は現在71社。次の動きに注目が集まる。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドについての将来像にも質問は出た。とくに、国際問題にもなっているサウジアラビアからの今後の出資予定は気がかりだ。
孫氏は「サウジのみなさんからは、大変温かい出資の希望と良好な投資家としての関係が継続している」としつつも、「次の出資はどこからどのような条件で集めるか語るのは時期尚早」と明言を避けた。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドの次の資金調達の時期については「ここ数カ月で焦るほどではない」とも語り、現段階では次のステージの準備と検討を開始した段階であると説明。直近の投資方針については、NVIDIA株の件を振り返り、「未上場のユニコーン企業を中心に資金を投入する」とも話している。
4. 米中テクノロジー冷戦・ファーウェイ問題の影響は「最大でも50億円」
過去30年間でプロセッサーもメモリーも通信速度も100万倍の成長を遂げ、今後30年間でも同様の技術革新が起きると予想する孫氏。日本も煽りを受けている米中貿易摩擦はそんな孫氏の予想の中ではどの程度のインパクトがあるのか。
2018年末、世間を賑わせたファーウェイ問題。この米中テクノロジー冷戦の影響を受ける、通信関連事業への影響についても質問が飛んだ(通信事業のソフトバンクKKの決算は、今回のソフトバンクG決算前日である2月5日に発表済み)。
孫氏は、「長い目で見れば(米中の)摩擦はよくない。両方に得はない」とししつも、「十分にコミュニケーションをはかり、お互いに納得の行く妥協点を見つけていけば、いずれかの時期になれば収まっていく」と、時間が問題を解決するという見方を示した。
ソフトバンク株式会社 代表取締役副社長の宮川潤一氏。
また、基地局などの一部機材にファーウェイ製品を活用しているソフトバンクKK(ソフトバンク株式会社)について、「今後、機器入れ替えなどのコストがかさむのではないか」という質問に対しては「すべての機器を置き換える場合のコストは50億円程度と聞いている」と回答。2018年度第3四半期までの累計で3959億円の純利益を計上しているソフトバンクKKにとっては、仮に全ファーウェイ製機器を取り替えたとしても収益へのインパクトは限定的だという考えのようだ。
ちなみに、2月5日のソフトバンクKKの決算会見で、技術統括を担当する代表取締役副社長の宮川潤一氏は「(4Gにおいては)すべての機器を巻き取る判断はしていない」と発言。ただし、一部の機器の取り替えについては意志決定をしており、実際にかかる費用は「10億円程度」(宮川氏)であると明らかにしている。
5.「社長としては69歳まで、その後は会長」
これからも社長職で手腕を発揮し続けると意気込む孫氏。
質疑応答の終盤には、孫氏自身の後継者問題にまで質問が及んだ。2019年8月で62歳になる孫氏は「69歳までに次の経営陣にバトンを渡すというのは、19歳の時から決めている」と語った。
孫氏は69歳以降は会長職に退く考えを示したが、「CEOとして残るのか、(自分は)アクティブではあるが(その時の)CEOに経営を任せるかは、その時に判断する」と説明。「最近は医療も進んでおり、私はかなり元気。やる気いっぱい、夢いっぱい」と、しばらくの間は現行の体制のまま経営手腕をふるって行く方針を示している。
ソフトバンクグループの2018年度第3四半期の連結業績。
出典:ソフトバンクグループ
ソフトバンクグループの2018年度第3四半期決算では、累計の売上高は7兆1685億円(前年同期比5%増)、累計営業利益は1兆8590億円(同62%増)、当期純利益は1兆5384億円(同52%増)と好調だ。しかし、ここまで好調だからこそ、孫氏はどの数値についても「大した意味はない」と話す。
孫氏が以前から掲げる“情報革命”のビジョンがどこまでの成長を遂げるのか、今後の動きからも目が離せない。
(文、撮影・小林優多郎)