就職活動中のセクハラが深刻化している。OB訪問、インターンシップなどで被害にあったという女子大学生に話を聞いた。
大学2年生からOB訪問、「見透かされた」感覚に
就活中のセクハラが深刻化している。背景には多様化・長期化するOB訪問、インターンシップなど構造的な問題もあるのではないか。
撮影:今村拓馬
マスコミ・広告業界を志望していた東京都内の大学に通うAさん(女性)が就職活動を始めたのは、大学1年生のときだ。勉強会に参加したり、知り合いの紹介で業界関係者と複数人で会って話を聞いたりしていたが、2年生になって初めて1対1でのOB訪問をすることに。当時Aさんの第一志望だった企業で働く男性社員に、大学の先輩の紹介で会えることになったのだ。
待ち合わせに指定されたのは夜。都内の日本料理店に連れて行かれ、カウンターに並んで座った。
就活はエントリーシート(ES)の書き方から面接まで自身と向き合うことの連続だ。
「『君ってこういう人間だよね』と私のことを全て見透かされているような感覚でした。出会って3分の人になんでここまで言われなきゃいけないのと腹が立つ一方で、すごく突き刺さる言葉も多くて……」(Aさん)
拒否したら就職できないと思った
OB訪問といって、夜に1対1で呼び出されることも。
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事前にこの男性社員と交わしたLINEでは、男性の学歴やこれまでどんなコンテストで賞をもらったか、実家は何をしているかなどを聞かされ、「会う前からすごく優秀な人だと」(Aさん)感じていたという。
2軒目は会員制のバーに移動し、お酒の弱いAさんもウイスキーをロックで飲むよう勧められ、「ベロベロに酔っ払っいました」(Aさん)。会話も仕事から恋愛の話になり、頰にキスをされたという。そして男性の家に誘われた。Aさんが帰りたいと断ると、こんな言葉が返ってきた。
「僕は別にどちらでもいいけど、君はそれでいいの? 」
「この男性の推薦で入社できることもあると他の人から聞いていたので、拒んだからヤバイなと思ったんです。本当はキスされたのも嫌だったし今考えると馬鹿らしいんですけど、当時はいっぱいいっぱいで……」(Aさん)
複数の女子学生に「個別に会おうよ」
就活に欠かせないLINE。でもLINEで「個別に会おう」と執拗に誘われることも。
撮影:今村拓馬
そして男性の家に行き、性的な関係に。
男性はその後もESの書き方などを指導してくれたそうだが、ある日「他の就活生を紹介して」とLINEで言われ、Aさんが「男子でもいいですか? 」と返信すると「既読スルー」に。それ以来、連絡は取っていない。
後日、就活で出会った女子大学生複数人もその男性から「個別に会おうよ」「好き」などと誘われていたことが分かった。
「就活生にターゲットをしぼってこういうことを繰り返してるんだと思います。私はもう乗り越えたけど、一生の傷になる子だっていると思う。自分の立場を利用して、卑怯ですよ」(Aさん)
マスコミ・広告など業界を問わず、OB訪問で会った男性社員から交際相手の有無を聞かれた学生は取材する範囲でも複数いた。中には写真を見せるように求められた人も。
社員には「セクハラNG」でも就活生には…
就活という圧倒的な力関係を利用してのセクハラは深刻化している。
撮影:今村拓馬
長年、女子大学生の就活支援に携わってきた人材会社関係者は言う。
「女性をビジネスパーソンとして見ていますか?と問いたくなる人が本当にたくさんいます。社員へのセクハラに対する意識は年々高くなっていますが、就活生に対してはそれがない。悪い意味でセクハラの“ブルーオーシャン”になっています。 いま就活は学生の売り手市場と言われていますが、人気企業はまだまだ買い手市場。そこで“特別選考”に進むために、また誘いを断ったら内定をもらえないという恐怖感から、学生もセクハラやホテルの誘いなどの要求に応じているのが現状です」
背景には、昔は大学を通してしかできなかったOB訪問が知人の紹介やマッチングのウェブサイトを通じて誰でもできるようになったことなどがあると、上記関係者は見ている。
そしてもう一つ、長期化するインターンシップもその温床になりつつある。
2泊3日のインターンシップ
撮影:今村拓馬
東京都内の私立大学に通うBさん(女性)は、ある企業の泊まり込みインターンシップに参加したときのことを鮮明に覚えている。テーマはチームビルディングを学ぶこと。5〜6人の学生が1チームになり、各チームにはサポート役として社員や内定者などのメンターがついた。
2泊3日のスケジュールは過密で、深夜3時頃までプログラムが組まれていたという。
チームビルディングで最も大事なのは「本音をさらけ出すこと」だと繰り返し諭され、夜にはメンターと1対1でその日の反省などを話し合う時間が設けられた。
深夜0時に男性社員の部屋で話し合い
泊まり込みのインターンがセクハラの温床になることも。
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Bさんがいたチームのメンターは20代半ばの男性社員。話し合いの場所は男性が宿泊しているホテルの部屋だった。呼び出されたのは深夜0時頃。男性はBさんをソファに座らせると、自分はベッドに腰掛けた。そしてBさんの下の名前を呼び捨てにし、言った。
「(Bさんの名前)はさぁ、男を下に見てるんでしょ?だからあえておだててうまくやろうとしてるよね? 」
「見抜かれていたことに衝撃を受けて泣いてしまいました。私は中高生の頃から男性に対するトラウマがあったんです」(Bさん)
トラウマを引き出し、セクハラへ
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中高生時代、男子の多い部活動に所属していたBさん。意見を言っても聞き入れてもらうどころか冷やかされることが多く、「どうせ男女は対等じゃない、だったら男子をアゲて波風立てない方がいいや」と思うようになっていったという。大学生になりそうした考えを変え、男性とも対等にコミュニケーションできるようになったと感じていた中での男性の指摘に、激しく動揺したそうだ。
そして、涙を流すBさんに男性がかけた一言に、Bさんは違う衝撃を受けることになる。
「僕がこういう立場じゃなかったら、頭をなでてあげたんだけど」
その後もBさんのトラウマの内容を詳しく聞き出し、「男と付き合ったことあるの?」「俺の手、握れる?」「肩触っていい?」など、まるで男性経験の有無が大事かとでも言うような、セクハラとしか捉えられない発言が続いた。
「全部あなたのためだった」
撮影:今村拓馬
「そもそも深夜に1人で男性の部屋に行くことも嫌でした。無理やりトラウマを引き出そうとされたり、デリケートなことにも関わらず浅はかな発言や対応をされたりしたことも、本当に嫌でした。その後は彼と似た顔や後ろ姿の人を見るとこわくなることもありました」(Bさん)
後日、そのことを当事者の男性に対して訴え、他の女性社員にも相談したが、「本音を引き出すために一生懸命やった、全部あなたのためだった」と言われたそうだ。
立場を利用し、自己分析を手伝うことを装った精神的な支配が生じやすいのは、就活セクハラの特徴かもしれない。
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