リモートワーク進まないのは上司の無理解。“見えない”部下に不安な上司と企業の本音

テレワーク

在宅勤務など、一見働き方の多様化は進んでいるが……。

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日本では官民を挙げてテレワーク(リモートワークと言われることも多い)の導入を推進している。テレワークとは、情報通信技術(ICT)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことだが、働く場所によって⑴在宅勤務、⑵移動中などのモバイルワーク、⑶サテライトオフィス勤務 —— の3つを指す。

しかし、何のために推進しているのか、その動機や目的には釈然としないものを感じる。

本来、テレワークの目的は企業にとって通勤費や駐車場費用などオフィスコストの削減、災害時の事業継続性、人材の確保と定着にあるとされるが、究極の目的は業務の効率化や生産性の向上だろう。

では、在宅で仕事をすることが必ずしも生産性の向上に結びつくのだろうか。

オリンピックの混雑緩和が目的

五輪

政府推進のテレワーク・デイズはオリンピック期間の混雑緩和が目的。

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政府は、働き方改革実行計画(2017年3月)の中でテレワークの狙いについて、「時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力開発発揮が可能となる」と述べている。だが、子育てや介護をしながら在宅で仕事をすることが必ずしも生産性の向上に結びつくとは思えない。

一方、総務省や経済産業省が毎年開催している「テレワーク・デイズ」は明らかに2020年の東京オリンピックの開催期間の交通機関の混雑緩和が目的である。

政府はオリンピックを契機に全国的にテレワークの普及と働き方改革のレガシーにするとうたい、2018年7月の「テレワーク・デイズ2018」について「1682団体、延べ30万人以上が参加し、国民運動として大きな広がりを見せた」(総務省報道資料)と自賛する。

2019年も「テレワーク・デイズ2019」が7月22日から開催されるが、全国で3000団体、延べ60万人の参加を見込んでいる。

だが、オリンピック開会式当日プラス数日間のテレワークの実施で、テレワークの普及にどれほどの効果があるのだろうか。政府は2020年にテレワーク制度導入企業34.5%、雇用型テレワーカー15.4%の目標達成を掲げているが、実態は「国民運動」とはほど遠い状況にある。

テレワーク未経験者が圧倒的多数

総務省の「2016年通信利用動向調査」(従業員100人以上)によると、テレワークを導入している企業の割合は13.3%(うち在宅勤務実施は22.3%)。導入企業のうちテレワークを利用している従業員の割合が5%未満の企業が45.4%を占めていた。

また、調査主体は違うが、エン・ジャパンの2018年6月18日公表の「テレワーク実態調査」(8341人を対象)によると、勤務先にテレワーク制度があると答えた人は17%、制度を使って働いたことがある人は4%にすぎない。テレワーク未経験者が圧倒的多数である実態はそんなに変わっていない。

ただ、テレワークで働いてみたいという人は多い。

エン・ジャパンの調査によると、未経験者の40%が「テレワークで働いてみたい」と答え、その理由で最も多かったのは「通勤時間を短くしてプライベートを確保するため」(78%)だった。次いで「業務に集中できて生産性が上がるため」(35%)と答えている。

経験者の中にも「今後もテレワークで働きたい」と思う人が77%もいる。理由で最も多いのが「時間が有効活用できる」(83%)、次いで「通勤ストレスがない」(59%)、「仕事の効率化のため」(45%)という順となっている。

部下が見えないと不安な上司

リモートワーク

在宅で働きたいと希望する人は多いが、なぜ普及が進まないのかというと……。

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にもかかわらずテレワーク実施企業が少なく、利用率が低いのはなぜなのか。

在宅勤務制度を導入しているあるIT企業でも、実はあまり利用が進んでいない。同社の人事課長はその理由についてこう語る。

「利用が進まないのは本人より上司が積極的に認めようとしない雰囲気もあります。上司にとっては部下が見えないところで仕事をしているのが不安なのです。face to faceのコミュニケーションがなくなることが不安でしょうがない。

在宅で仕事ができるのはわかっていても、自分の視野から消えるのが怖いと感じている上司が多いのが実態です」

上司のマネジメント力が在宅勤務などのテレワークの働き方に追いついていないということだろう。そうであれば経営者がマネジメント改革など積極的に旗を振ればよいと思うが、どうもそこまでやる経営者は少ないようだ。

あくまでも若くて優秀な人材の獲得

オフィス風景

在宅勤務者が増えると、社内の一体感がなくなるという不安もある。

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ある外資系不動産コンサルティング会社CEOはこう語る。

「当社もテレワークを導入していますが、その目的は人材の採用です。クライアント企業などいろんな企業の経営者と話をしていてもテレワーク導入のメインの理由は、若くて優秀な人材を採るためだと。テレワークを導入して、生産性や仕事の効率性を高めようと考えている経営者は少ないと思います」

あくまでリクルーティング効果が目的なら制度があるだけで十分であり、積極的に推進する必要もないということか。

実際にテレワークが生産性向上につながることを疑問視し、導入しない企業もある。大手医療機器メーカーの人事担当役員はこう語る。

「テレワークの目的は生産性の向上にありますが、多くは育児中の社員のためのベネフィットになりがちです。そうなると生産性は置いていかれる。

もう1つはテレワークする社員の成果をちゃんと評価してあげることが肝になります。成果を出すにあたって部署のメンバーとの協働しているプロセスも含めて評価してあげることが重要。ですが、目の前にいる部下の成果をちゃんと評価できないような上司も多く、目の前にいない人の評価をちゃんとできるとは思えません。

いろんなツールを使ってテレワークでマネジメントをやれないことはないと思いますが、現状では評価がまともにできない上司がいる限り、導入は時期尚早と考えています」

現状のテレワークは福利厚生の一環であり、生産性の向上にはつながらないとのシビアな見方をする。

無言の圧力で仕事をやり過ぎてしまう

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getty images/kohei hara

一方、社員にとってもテレワークはいいことばかりとは限らない。

先のエン・ジャパンの調査では経験者の77%が今後のテレワークで働きたいと答えているが、23%が「働きたくない・わからない」と答えている。30代は29%を占めている。

その理由は「仕事とプライベートをハッキリ分けたいため」(55%)が最も多く、次いで「長時間労働などの時間管理が不安なため」(43%)、「社内の情報やノウハウを確認しにくくなるため」(33%)となっている。

回答者の中には「好きな時間に起きて好きな時間に働くような生活になってしまい、生活のリズムがおかしくなってしまった」(25歳男性)という声や、「自宅で作業をしていた時期はプライベートとの線引きが難しく、終業後もパソコンを開いて作業をしてしまった」(36歳女性)との声もある。

前出のIT企業の人事課長もこう語る。

「在宅勤務者のアンケートを取ったことがありますが、 注意しないと仕事をやりすぎてしまうという意見が結構ありました。背景には成果を出さなきゃ、アピールしなきゃという無言のプレッシャーを感じているようです。

誰もプレッシャーをかけていないことはわかっていても、真面目なのでつい仕事を長時間やってしまいやすい。もちろんそういう人に限って残業代を申請することもありません」

テレワークうつの可能性も

前出のエン・ジャパンの調査でも、テレワークで働きたくない理由として「会社にいる時と同じ効果をテレワークで出せるか不安」と回答した割合が27%もあった。

テレワークが長時間労働につながりやすいことはアメリカのいくつかの先行研究でも示されている。例えばテレワーカーの67%が「生産性が向上した」と答えているが、そのうち40%が自分は働き過ぎと答えている調査もある。

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getty images/Yuki KONDO

仮に子育てしながら在宅勤務をしている人の中には、成果を出すために子どもを寝かしつけてからパソコンで“夜なべ”をしているかもしれない。長時間労働が原因で“テレワークうつ”になる可能性も否定できない。

長時間労働を懸念している企業も多い。労働政策研究・研修機構の調査(2017年1~2月実施)では「労働時間の管理(把握)が難しい」と回答した企業が53.9%に上る。

社内の状況が伝わらないという懸念

不安は長時間労働だけではない。

米IBMが2017年5月に数千人の在宅勤務者をオフィスに戻したことが大きなニュースになった。従業員のコミュニケーションやコラボレーションの欠如がその理由とされている。

これを踏まえて前出の外資系不動産コンサルティング会社CEOはこう語る。

IBM

米IBMが数千人の在宅ワーカーをオフィス勤務に変えたことは大きな反響を呼んだ。

REUTERS/Brendan McDermid

「IBMは働き方では最先端を走っていましたが、減収が続いています。働き方を変えた背景には、テレワークでバラバラになっていては経営陣の危機感が伝わらないと考えたのだと思います。

確かに社員が自宅やカフェ、サテライトオフィスで働いていたのでは経営者の声も伝わりにくいし、ロイヤリティも薄くなりやすい。やはり負の側面もあるのです。

当社は増収増益を続けていますが、正直言ってテレワークなどの施策が貢献しているかどうかはわかりません。経済全体の好調さの恩恵を受けているからだと思います。

でも経済のピークは2019年かもしれないし、オリンピック後にテレワークの真価が問われることになるでしょう」

本来の生産性向上との目的がずれた、前のめりの感がある政府のテレワーク推進運動。政府が業界団体を通じて積極的に実施を要請しても、それこそオリンピック後にたちまち終息する可能性も否定できない。

溝上憲文:人事ジャーナリスト。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマに執筆。『非情の常時リストラ』で2013年度日本労働ペンクラブ賞受賞。主な著書に『隣りの成果主義』『超・学歴社会』『「いらない社員」はこう決まる』『マタニティハラスメント』『人事部はここを見ている!』『人事評価の裏ルール』など。

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