プレゼン伝道師×企画の達人「仕事は熱量だ」昭和的熱さが必要な時代【後編】

2018年3月に発売されて以来ロングヒットとなり25万部を突破した書籍『1分で話せ』。伝わるプレゼンの極意を説く著者、Yahoo! アカデミア学長の伊藤羊一さんが「イッキ読みした!」と絶賛した本が、『1秒でつかむ』。

「家、ついて行ってイイですか?」など低予算でも視聴者を釘付けにするヒット番組を生み出すテレビ東京ディレクターの高橋弘樹さん。前編では、人々に届くコンテンツの作り方、引き出しをどこに持つべきかを語った。

後編は、お二人の情熱の矛先はどこにあるのか。そして人々の仕事観はどのような変化を起こし、未来へと向かうのかに迫ります。

高橋弘樹さん(左)、伊藤羊一さん(右)

テレビ東京のディレクター、高橋弘樹さん(左)とYahoo!アカデミア学長、伊藤羊一さん。前編では2人の「細部にこそ神が宿る」という仕事論で盛り上がった。


伊藤羊一:ヤフーコーポレートエバンジェリストYahoo!アカデミア学長。株式会社ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBAプログラム(GDBA)修了。1990年に日本興業銀行に入行。2003年にプラスに転じ、2011年より執行役員マーケティング本部長、同ヴァイスプレジデントを歴任。2015年にヤフーに転じ、次世代リーダー育成を行う。多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。

高橋弘樹:テレビ東京ディレクター。早稲田大学政治経済学部卒業。2005年テレビ東京入社。入社以来13年、制作局でドキュメント・バラエティーなどを製作する。これまでの担当番組は『家、ついて行ってイイですか?』『吉木りさに怒られたい』『ジョージ・ポットマンの平成史』『ハジれ!秘境ヘリコプター』『TVチャンピオン』『空から日本を見てみよう』『世界ナゼそこに?日本人』『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』など多数。

高橋弘樹さん(以下、高橋):伊藤さんが細部にまでこだわってプレゼンを作り上げようとする、その気持ちの根源って何なんですか?

伊藤羊一さん(以下、伊藤):自分自身が劇的に変わったという体験を、一人でも多くの人に伝えたいという思いですね。今は毎日のように人前に立っていますけれど、若い頃は話すのも苦手でロジカルシンキングなんて程遠いコミュニケーションをしていたんですよ。26歳の時に鬱になって会社に行けなくなった時期もありますしね。

それが20年以上かけてここまで変われた。「人は変われる、だって俺が変われたんだから」ということを伝えたい。プレゼンのお題はその時々で違っても、基本は同じで、自分自身の生き様を通じて「皆、変われるぜ!」と言って回っているんです。高橋さんの熱量の根源は何ですか?

困難や恐怖が、熱量上がるスタート地点

伊藤羊一

伊藤さんは、自身の20代の体験から「人は誰でも変われる」というメッセージを伝えたいと言う。

高橋:“死への恐怖”を克服したい気持ちなのかもしれませんね。僕はもともとすごく暗い人間で、中学生くらいの頃からずっと“死への恐怖”があったんです。

日本史が好きだったんですけど、地獄について書かれた『往生要集』という本を恐る恐る開いては「怖いな、怖いな……」と怯えているような中学生でした。大学生になっても恐怖は拭えなくて、ある時期、大学の地下にある図書館で古文書を大量に読み漁った時に、「今、死んだはずの人たちが生き返っているんだな」という感覚をつかめたんです。大正時代に「自由恋愛と社会主義」について真剣に書かれた謎の本を読んで感動した時に、「今、100年前の人が時を超えて話しかけている」と思えた。

人間誰しも死ぬけれど、死を克服する一つの方法は後世に継がれる何かを生み出すことだと。それが、テレビ番組を作ろうと思ったきっかけであり、念仏を唱えているようなものなんですよ。

100年後に「あいつ、スベってるな」と思われたくないから、一生懸命面白いものを作っているということですね。だから、僕が想定する「マス」の視聴者には、100年後の未来人も含まれているんです。今、ちょっとカッコつけましたけど(笑)。

伊藤:へぇ、なるほどね。結局、仕事観って、その人が生きてきた人生そのものや死生観とつながっていますよね。僕も20代でどん底まで落ち込んで復活できた経験が、今のエネルギーに直結しているし、熱源になっている。

高橋:困難や恐怖が、熱量が上がるスタート地点のような気がしますね。タレントさんの中にも強烈なネガティブ経験を抱えている人は少なくありませんね。一見不幸な経験が、承認欲求を膨らませて、人前で目立つ職業での成功につながることもある。だから、仕事においては「不幸はラッキー」じゃないかと思っているんですけど、どうですか?

経験をひたすら思い出す時間を

伊藤羊さんと高橋弘樹さん

伊藤さんが高橋さんの本を読み込んだ“証”。

伊藤:そうそう。ネガティブなことも含めて体験というのは一人ひとりオリジナルなもので、「その人にしか語れないもの」として、プレゼンに宿る唯一無二の魅力になる。いまは、「俺、会社に行けなくなってよかったな〜。ネタにもできるし」って思えますもん。

高橋:もとから満たされている人は、仕事や人生そのものを「面白くしよう」と努力する必要がないですから。「イケメンの話面白くない理論」ですね。これ、妬みも込めて言ってますけど(笑)。

伊藤:逆境を経ると、人はそれを乗り越えるために“メタ認知力”を身につけていく。「この状況は一体なんだ?」とか「どう乗り越えたらうまくいくんだ?」と真剣に考える。

高橋:僕は「人は100%客観的にはなれない」という考えではあるんですが、その自覚を持った上で、自分自身の思想や興味の偏りを理解する“自分「取り調べ」力”は必要だとやはり思います。

—— メタ認知や自分取り調べといった自己認識力を磨くために試すといいことは?

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伊藤:思考や行動はすべて過去の経験によるものなので、とにかく経験をひたすら思い出す時間をつくること。自分一人で考え抜いてもいいし、誰かとお互いの経験を対話するのもいい。人の話を聞くことで思い出せる経験もあるので。そうやって意識的に振り返りの時間を作っていくと、自然と自分自身が見えてきて、「俺はこういう人生を歩みたいんだ」という方向性もつかみやすくなると思います。

「なぜ」は最低5回繰り返す

高橋:僕が後輩によく言うのは、「『なぜ?』を最低5回は繰り返してね」。「自分はこれが嬉しいと思う」「なぜですか?」「こうだからです」「それはなぜ?」と、5回くらい問い続けると自分の思考の根元まで行き着くんじゃないかなと。僕個人は最近、さらに時間軸を伸ばして人類の起源まで問い詰めるようにしているんですが。

伊藤羊一

伊藤さんは年間約300回の講演を、自身にとっては「ライブ」だと語る。

提供:ウェイウェイ

—— 熱量は努力で高められるものですか?

伊藤:高められます。僕のテンションの高さは好奇心の強さから来るものですが、好奇心も後天的に身につけられるものだと思っています。方法は簡単で、何か新しいものに出合った時に「すげー!」「やべー!」ってとりあえず声に出してみるんです。これ、好奇心の強い集団を観察してみて気づいたことで、彼らはずっと「これ、すげー!」「マジこれ、やばくね?」しか言ってないんですよ。「すげーやべー力」って名付けたんですが、とにかく「すげー!」「やべー!」と声に出すことで、興味が自然と湧いてくる。

高橋:すごい(笑)。自己暗示に近いですね。

伊藤:テンションも性格も自分で作ることができる、というのが僕の信条です。

高橋:興味本位で聞くんですが、孫正義さんという方には、どんなプレゼンが受けるんですか?

伊藤:直球しかないですね。ご本人は「面白いね」とか「これいいね」くらいしかおっしゃらなくても、目を見れば「お前は生き様かけて話しているのか」と、こっちの熱量を問われている感じがありますね。

技術をAIが担えばあとは「気合いだ」

高橋:それを聞いて嬉しくなりました。僕もかなり昭和的な「熱さ重視」の人間なので。

伊藤:分かりますよ。高橋さんの本に、これまで出した番組企画名(仮)の一例がズラリ載っていますけれど、もうタイトルだけで暑苦しさが伝わってきました(笑)。

高橋:後輩ディレクターに「番組作りにおいて何が大切か」と聞かれたら、「熱だよ!やり方だよ!」と言い続けて。するとその後輩君がすごい熱量の企画書を出してくれて、放送したらバズったんですよね。

やっぱり熱量は視聴者に伝わるんだな、と嬉しくなりました。平成はどこか緩さや効率ばかりを追求するような思考がもてはやされる空気感がありましたけれど、次の元号に変わる時代には、もしかしたら昭和的価値観に回帰するのかもしれないなと、ちょっと思っています。

高橋弘樹

高橋さんの書いた脚本は約2000ページ、ロケは300回以上、編集500本以上。

伊藤:技術部分はかなりAI(人工知能)が担ってくれるようになるだろうし、あとの「気合だ!」という部分に集中できそうですよね。

帰りの電車の中では『ゴルゴ13』

—— とはいえ、「仕事以外の私生活も充実させたい」という価値観も増えています。これから目指すべき働き方とは?

伊藤:魂込めて打ち込めるくらいの仕事に出合えたら、とことんやればいいと思いますよ。僕の場合は、アルバムとライブツアーを繰り返しているようなもので、遊ぶように仕事をして、だから家族とも楽しく生きられている感じがしますね。

僕は今の仕事を「変われる人を増やしたい、笑顔を増やしたい」という動機でやっているから、ためらいなく打ち込める。そういうのも結構楽しいぜ、とは言いたいですね。

高橋:仕事モードからオフモードに切り替えるコツがあれば知りたいです。

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伊藤:漫画がオススメです。『キングダム』は好きだけど、あれはオンモードになるので仕事に向かう時の行きの電車で。帰りの電車で読むといいのは、『ゴルゴ13』ですよ。あの漫画、常にテンション低いんですよ。ゴルゴはほとんど喋らないし。

高橋:音楽も行きと帰りで変えるんですか?

伊藤:そうですね。行きはテンションを上げるためにクイーンを聴いて、帰りは環境音楽みたいな静かな曲で(笑)。意図的に切り替えていますね。高橋さんはずっと仕事漬けという印象がありますが、私生活とのバランスに何か工夫を?

高橋:独身の頃は365日24時間、夢も仕事の夢ばかりという生活でしたが、結婚して子どもが産まれてからは人並みに「家庭の時間も欲しいな」という贅沢な欲求も生まれまして。「週に2日は22時前に帰宅。日曜は原則休み」というルールを妻と決めました。

ノーベル賞は月40時間残業では取れない

2人が熱く語る様子

撮影:稲垣純也

伊藤:守れてます?

高橋:一応守れているんですが……。先週日曜は結局朝8時まで編集の仕事をして、その後、子どもを連れて動物園に行き、24時に寝て、早朝3時に起きて仕事。これが休みになっていると言えるのかは微妙ですが、仕事と同じくらい子どもは可愛いのでハードな両立もプレイだと思って頑張っています。

まあ、会社のコンプライアンスのため言っておくと、毎週ではないですが(笑)。

伊藤:「ルーティンを作る」というのはポイントかもしれないですね。若い時期の働き方についてはどう思いますか?

高橋:人それぞれの価値観なので何も押し付けられないですが、僕の本音を言うと、恋愛の楽しさを上回る仕事の面白さはいっぱい経験してきました。仕事でしか達成できない喜びって、きっとどんな職業でも見つかるんじゃないかと思うんです。

例えば、大事な取引を成約できた時とか、誰かに認められた時とか。好きな仕事で腕を磨くには、寝食を忘れて勉強する時期は絶対にあったほうがいいと思います。残業月40時間でノーベル賞を取れた人って多分いないと思いますし。副業解禁の会社が増えてきていることも、好きな仕事を見つけるためにはいい流れじゃないでしょうか。

—— 平成を終えて次の時代を迎える時に、人々の仕事観はどう変化していくと思いますか?

「1分で話せ」と「1秒でつかめ」

高橋:歴史が教えてくれるのは、人の価値観やライフスタイルは、少しずつ進化しながら揺り戻しを繰り返してきたということ。

例えば、不倫に対する価値観も、鎌倉時代は御成敗式目でかなり厳しく罰せられたけれども、江戸時代に入ると参覲交代のせいで江戸での男女比が崩れたことなどで、庶民的にはかなり大らかになり、しかし明治期にキリスト教の影響や法制度の整備でまた厳しく批判され、第二次大戦後になると「団地妻」や「金妻」のように大衆文化の中でまた盛り上がり……と、建前はともかく大衆の関心や評価は、時代によって変遷してきました。

働き方に関しては、猛烈な働き方が推奨された昭和の時代を経て、平成の今は「効率」や「自分らしさ」が重視されるようになりましたが、最近は落合陽一さんのように「仕事って楽しいよな。いっぱいやろうぜ」という価値観も出ていますよね。きっと次の時代には、労務面の整理をしながら、働きたい人がもっと楽しく仕事に打ち込めるような社会になるんじゃないかなと思います。

伊藤:いい流れが来てますよね。起業のハードルも昔に比べると格段に下がっているし、いろんな職業や働き方を試せる時代。途中で路線変更もしやすくなっている。

となると、今まで以上に大事になってくるのは、「自分はどう生きたいのか」という方向付けです。より真剣に、自分自身を見つけないといけない時代。とはいえ、誰だって一人で生きられるわけはないので、心地よく所属するコミュニティを求めるようになるでしょうね。

自分の人生をリードすることと、安心できるコミュニティとつながること。この二つが、これからのキーワードになりそうですね。


伊藤さんと高橋さんの対談動画の全部はテレビ東京の経済番組を見られるテレビ東京ビジネスオンデマンドからご覧になれます(通常月額500円、対談は無料)。合わせてお楽しみください。

(聞き手・浜田敬子、構成・宮本恵理子、撮影・稲垣純也)

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