南極の氷の下から堆積物のサンプルを引き上げる南極氷底湖科学調査団。2019年1月7日。
Billy Collins/SALSA Science Team
- 南極氷底湖科学調査団が、南極の氷床に深さ3500フィート(約1キロメートル)におよぶ穴を開け、氷底湖「マーサー湖」に到達した。マーサー湖は数千年間、人類に触れられることはなかった。
- 調査団は詳細な調査のため、水、氷、湖の泥のサンプルを取り出した。
- 湖の泥を分析したところ、小さな甲殻類とクマムシの死骸が発見された。
火星の表面よりも、南極の氷の下の方が分からないことが多い。だが2018年12月、科学者グループが深い穴を掘り、凍った世界の秘密を明らかにした。
南極氷底湖科学調査団(Subglacial Antarctic Lakes Scientific Access:SALSA)の約40人のチームは温水ドリルを使って、南極の氷床に穴を開け、深さ3556フィート(約1キロメートル)以上まで掘り進んだ。ゴールは外界から隔離された氷底湖「マーサー湖(Lake Mercer)」。
調査団はマーサー湖に無事到達し、長さ5.5フィート(約1.7メートル)の氷床コア(氷底湖から取り出されたものとしては最大級)、堆積物コア、そして水のサンプルを採取した。
SALSAの科学者は、これらのサンプルから微生物が発見されることを期待した ── 同様の微生物は、 2013年に近くの氷底湖、ウィランズ湖から発見されている。
だが採取されたサンプルからは、微生物よりも高度な生命体の死骸が見つかった。
採取した泥には、ケシの実大の甲殻類の死骸や緩歩動物の死骸が含まれていた。緩歩動物はクマムシとして知られている。8本の足を持ち、極限的な気温に耐え、水がなくても数十年耐えられる生物だ。
今回の発見は、これらの生物が近隣の山脈(かつて、こうした生物が発見された)から水の流れや氷河の移動によって、マーサー湖に流れ込んだことを示唆しているとネイチャーが伝えた。
「この調査により、南極の見方が変わることになる」と、SALSAプロジェクトのチーフ・サイエンティスト、ジョン・プリスク(John Priscu)氏はBusiness Insiderに語った。
SALSAは写真やビデオを公開し、どのようにして氷床に3556フィートもの深さの穴を掘ったのかを紹介している。見てみよう。
南極の湖の研究を始めて35年とプリスク氏は語った。
デッキでメモを取るSALSAのチーフ・サイエンティスト、プリスク氏。
Billy Collins/SALSA Science Team
プリスク氏とSALSAのチームはこのプロジェクトのために、アメリカの南極観測基地「マクマード基地」から移動してきた。
マクマード基地の年間平均気温は-18℃。
Handout/Getty Images
氷床に深い穴を掘った後、氷と泥のサンプルを地上に引き上げるために、ウッズホール海洋研究所から持ち込んだ重力式柱状採泥器を用いた。チューブ型になっており、回転しながら氷床に入っていく。
採泥器を用いて氷床の底の堆積物を引き上げた。
Kathy Kasic/SALSA Science Team
装置のひとつはマルチコアラーと呼ばれるもの。一度に3つの堆積物を採取できる。
マルチコアラーを掘削孔に下ろす準備を行うSALSAのメンバー。
Kathy Kasic/SALSA Science Project
誰も見たことのない氷底湖の様子を記録するために、SCINI(Submersible Capable of Under Ice Navigation and Imaging)と呼ばれる魚雷型のロボットが用いられた。
SCINIロボットを掘削孔に下ろす準備を行うメンバー。
Kathy Kasic/SALSA Science Team
SCINIは、特別にプログラムされたプレイステーションのコントローラーで操作する。
「宇宙船を打ち上げるような気分だった」とチーフエンジニアでSCINIオペレーターのボブ・ズーク(Bob Zook)氏は述べた。
重さ約99ポンド(約45キログラム)のSCINIロボットを採掘孔に下ろす。
Bob Zook/SALSA Science Team
以降の写真は穴に降りていく様子の詳細。この写真は氷の表面から穴を見下ろしたところ。入り口から約300フィート(約91メートル)は海水面上にあるため、空気で満たされている。
真上から見た採掘孔。
Kathy Kasic/SALSA Science Project
ズーク氏によると、穴は直径約18インチ(約50センチメートル)。
穴の氷の壁が、SCINIを下すときに引っかかることがある。
Kathy Kasic/SALSA Science Project
穴に下ろす前、装置はすべて殺菌される。外からの物質で穴や氷底湖が汚染されることを防ぐ。
リング状の装置が強力な紫外線であらゆる物質を殺菌する。
Kathy Kasic/SALSA Science Project
100メートル下り、SCINIはようやく水面に到達した。
カメラが水面に近づく。
Kathy Kasic/SALSA Science Project
900メートル以上におよぶ水がマーサー湖と上部の空気を隔てている。
穴を深く進むと、カメラは完全に水の中へ。
Kathy Kasic/SALSA Science Project
カメラがたどり着いた氷床の最後の層。「我々はスターフィールドと呼んでいる」とプリスク氏は語った。「厚さ5メートルの非常に透明な氷で、堆積物が中で凍っている」。
氷床底面の氷はしばしば「汚れている」と見なされる。凍った堆積物が含まれているから。
Bob Zook and John Winans/SALSA Science Project
氷床底面と氷底湖の境目。「右側が氷床底面、左側が湖の水」とプリスク氏。
カメラは氷床底面と湖が接する場所を捉えた。
Bob Zook and John Winans/SALSA Science Project
ついにカメラは湖底に到達した。
SCINIが撮影した湖底の堆積物や小石。
Bob Zook and John Winans/SALSA Science Project
泥のサンプルから、いくつかの驚くべき発見があった。生きた微生物だけではなく、甲殻類やクマムシの死骸が見つかった。「このような発見は初めて」とプリスク氏は語った。
堆積物コアから水を取り除く。
Billy Collins/SALSA Science Team
チームはクマムシの死骸の写真をまだ公開していない。「分からない点があり、もっと調査しなければならない」とプリスク氏。
クマムシの写真(参考)。極限環境でも生きられる地球上で最も耐性の強い生物。
Ralph O. Schill/European Space Agency
プリスク氏は今回の発見をより確かなものとするために、最終的により多くの死骸を発見できることを期待している。
掘削機の先端から泥のサンプルを取り出す。
Kathy Kasic/SALSA Science Team
だが、次の調査は来年まで待たなくてはならない。
SALSAはテントを張るこのエリアを「風の強いテント街(Windy tent city)」と呼んでいる。
Kathy Kasic/SALSA Science Team
SCINIが氷の中を進む動画は以下。
(翻訳:仲田文子、編集:増田隆幸)