エンジニアの評価を可視化する25歳起業家が惚れ込んだ高校生

オープンソースは誰でも使える無料のソースコードだ。つまりは開発者に報酬が支払われることのない“善意で作られた”コード。

しかし、そんな“オープンソース”でも報酬が得られる仕組みを作るべきだと考え、起業した25歳がいる。BoostIOの横溝一将CEOだ。

「オープンソースは誰かが何かを犠牲にしている」

2人の写真

エンジニアの鈴木颯介さん(左)、BoostIO CEOの横溝一将さん(右)

撮影:今井駿介

「オープンソースは空気のようなもの。誰かが時間や報酬を犠牲にして作っていることに多くの人は目を向けないんです。遊びで作ったコードならまだしも、実際には数千万人が使うようなライブラリ(プログラムのまとまり)もあって、それは人の善意で成り立っている。

IT企業やスタートアップでオープンソースを使わない企業はまずないので、エンジニアにきちんと報酬が入る仕組みを作りたかったんです」(横溝さん)

横溝さんはエンジニアとして福岡で受託サービスを請け負う会社を立ち上げ、その後オープンソースのエンジニア向けのメモアプリ「Boostnote」を開発する。

しかし、無償で作られた“オープンソース”に疑問を感じたことから、2018年6月にオープンソースのための報奨金サービス「IssueHunt」を開発。これが認められ、ANRIやNOW、他9人の個人投資から約1億円の資金調達に成功。利用者数は非公表ながらも、世界170カ国で利用されるグローバルサービスへと成長した。

報酬でよりプログラミングが活発化する

「IssueHunt」の仕組みはこうだ。

まず、コードを書いたプロジェクトオーナーが自分の作ったオープンソースを「IssueHunt」に登録する。そのソースは誰でも自由に使えるわけだが、機能の改善やバグ修正依頼といったリクエストが公開後は絶えず来る。

その際「IssueHunt」ではリクエストを依頼するユーザーが内容とともに報酬金(いわゆる投げ銭)をかける。誰かが求められるリクエストに対応し、その成果が認められると、きちんとエンジニアとプロジェクトオーナーに対して報酬金が分配して支払われる。わかりやすく例えるなら、報酬ありの “Yahoo!知恵袋”のようなものだ。

「IssueHunt」

オープンソースのための報奨金サービス「IssueHunt」

BoostIO提供

現在「IssueHunt」上にはMaterial-UIやAnt Designをはじめとする世界の名だたるオープンソースが数多く登録されている。何より自身が先に作った「Boostnote」に関しても、報酬金を取り入れたことで、リクエストとそれに対する貢献の数が6〜7倍に増えたという。

「報奨金があることでプログラミングがより活発化するということを感じました。すでに海外には類似サービスもあって、オープンソースの収益化という波は少しずつ来ています。海外ではオープンソースへの貢献だけで食べていけるエンジニアもいるほどで、最終的に僕らのサービスを使わなくてもいいので、こうした問題意識を感じてもらえるとうれしいですね」(横溝さん)

エンジニアの仕事を再定義したい

「IssueHunt」のもう一つの狙いは、エンジニアを公正に評価すること。「IssueHunt」を使えばユーザーごとのプログラミングへの貢献度がその人のポートフォリオになるわけで、報奨金という評価軸も公平でわかりやすい。

「公平な評価のためのサービスの背景には、エンジニアの仕事を再定義したいと思います。プログラミングはクリエイティブな仕事で、もっとどんな環境でも誰とでも、自由に働く環境を作るべきです。われわれが企業メッセージとして“Empower every person to co-create with anyone from anywhere, anytime ”(誰もが、いつでもどこでも好きな人と共創できる力を)と掲げているように、未来の自由な働き方の一助になりたいという思いもあるんです」(横溝さん)

ちなみに「IssueHunt」を利用する9割以上が外国人のエンジニア。これまでプラットフォーム上での公用語は英語だったが、最近中国語が急速に増えてきたという。インドの開発者も多く、彼らは貢献者として稼ぐのがうまいという。「IssueHunt」を見ていれば世界のプログラミングの動向が見えてくるのも面白い。

ちなみに、日本人エンジニアが(バグを修正する)貢献者になることは少ないそうで、その背景には「英語に対する苦手意識と評価されることへの恥ずかしさ」という心理的ハードルがあると横溝さんは考えている。こうしたハードルの打開にも「IssueHunt」の報奨金という制度が役立つというのだ。


鈴木颯介さん

プログラミングで人生が変わり、大活躍中のスーパー高校生。鈴木颯介さん。

撮影:今井駿介

彼の思い描いたキャリアを実現した高校生がいた。

そんな彼の思いを具現化するように、「IssueHunt」経由でスキルを磨き、次のステップへと飛躍するきっかけを見つけたエンジニアがいた。鈴木颯介さん、2001年生まれ。なんと17歳だ。

鈴木さんは中学2年生で参加した中高生向けのキャンプイベント「Life is Tech ! 」でエンジニアに憧れる。中学でビジュアルプログラミングにハマるも、イベントがきっかけで「コードを書きたい」と思い、本を買ってプログラミングを独学したそうだ。最初は趣味の範疇で、ツイッター経由でプログラミング仲間を見つけてはハッカソンに出場するようになった。

「まわりでも、プログラミングをやっている高校生はほとんどいません。学校ではプログラミングの存在くらいは習うけれど、何をしているのかわからないからと、ほとんどの人が忘れてしまう。僕はなんとなく憧れて、夏休みに時間があったので、続けただけ。何か強い信念があったわけではなかったですね」(鈴木さん)

「Boostnote(ブーストノート)」

プログラマー向けのノートサービス「Boostnote(ブーストノート)」

BoostIO提供

そんな鈴木さんはユーザーとして「Boostnote」を愛用していた。あるイベントにBoostIOが作ったオリジナルのパーカを着て出かけた鈴木さんと知人の2ショット写真を横溝さんが発見。BoostIOでアルバイトをすることになったという。

「当時ガソリンスタンドで働いていた彼は、エンジニアと交流することでもっと成長できると考え、一応技術的なテストをしてもらって、当社に誘いました。僕の憧れの先輩でもある堀江(貴文)さんも高校生でシステムを作ったことが今のキャリアにつながっているそうで、それと重なった部分があったのかもしれません」(横溝さん)

自分にあった働き方・生き方を探したい

鈴木さんは2017年1月から2018年12月までの2年間をBoostIOで過ごした。2018年5月には通っていた高校を辞め、フルタイムで働くためにカドカワによる通信制のN高等学校へ転校。

その後、書類と面接によるAC入試に合格した鈴木さんは2019年4月、筑波大学の情報学部へ進学する。プログラミングが彼の人生を大きく変えたのだ。

「大学に進学できたのは、本当にここで勉強できたおかげです。ここではソフトウエアの開発やメンテナンスをやってきましたが、これからは自分が作りたいと思うプログラミングの研究を続けたいと思います。コードを書いて食べていくのは夢だし、そのために自分にあった働き方や生き方を探していきたいです」(鈴木さん)

鈴木さんは大学生の間に、独創的なアイデアを持つ小中高生クリエイターを表彰する「未踏ジュニア」でスーパークリエイター賞を受賞した際の開発の続きに注力したいと語る。大学入学までの今も、AI医療の会社でインターンとして働いているそうだ。

年功序列からスキル評価の時代に

横溝一将さん

後輩エンジニアへの敬意も忘れない横溝さん。

撮影:今井駿介

「彼のような生き方は素晴らしい。身の回りには選択肢がなかった彼が知らない世界へと飛び出したことは純粋にすごいし、そんな子が増えていくといいなと思います」(横溝さん)

取材の終盤、2人は声をそろえて「年功序列からスキルを評価される時代がきている」と強調した。「若いのにすごいと言われるのは好きじゃないですね。僕は別に17歳だから技術者をやっているわけじゃないので、公平にスキルで評価されることはうれしいんです」と鈴木さん。

横溝さんもBoostIOで働く社員の年齢を全く知らないという。エンジニアに年齢は関係ない。スキルで評価されるべきだし、そのための客観的な評価軸として「IssueHunt」が役立つ可能性は大いにありそうだ。

(文・角田貴広、撮影・今井駿介 )


横溝一将:BoostIO CEO。1993年、福岡県出身。2014年、大学在学中に福岡で会社を創業し、ウェブ制作やシステム受託開発を行う。その後上京し、2016年4月にプログラマー向けのノートサービス「Boostnote(ブーストノート)」をオープンソースで公開。2018年6月にオープンソースプロジェクト向けの報奨金サービス「IssueHunt(イシューハント)」をスタートした。

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