中国経済悪化でも「お年玉大戦」。各アプリでキャッシュレス大金ばらまき

正月を旧暦で祝う中国は、春節(旧正月)休み真っただ中。キャッシュレス先進国の中国では、「紅包」と呼ばれるお年玉もモバイル決済で普通にやり取りされる。

そしてお年玉はユーザーを拡大したい企業にとって“実弾”のような存在でもあり、毎年巨額のお年玉がばらまかれる。貿易摩擦の影響などで中国経済の失速がささやかれるが、バイドゥ(百度)が10億元(約160億円)のお年玉を準備するなど、各プラットフォームの合計金額は少なく見積もっても数十億元規模。「お年玉大戦」は不況知らずの様相だ。

モバイル決済普及の立役者

wechat

WeChatのお年玉画面。(左)最初にお年玉の総額や人数を設定。(右)グループの人数より受け取れる人が少ない場合、早い者勝ちとなる。

モバイル決済でのお年玉は、2014年の春節に10億人以上のユーザーを持つ世界最大のメッセージアプリWeChat(微信)が生み出したサービスだ。

ユーザー同士で簡単にお年玉を送り合える新機能は瞬く間に拡散。リリース1年目は大みそかから元旦の夕方までに、500万ユーザーが7500万回以上、お年玉をやり取りした。WeChatのお年玉機能は、少額のお金をゲーム感覚でやり取りできる面白さも特徴で、そのゲーム性こそが人気に火をつけた。

グループチャットの中でお年玉を配るときは、「総額」「人数」「ランダム/同額」を指定できる。10人のグループで、「10元を5人にランダムで配る」と選択すると、画面に現れたお年玉を早い者勝ちで受け取ることになる。また、金額の配分もまちまちで、最後に各人の取り分が判明する。

誰かがお年玉を送ったら、ほかのメンバーも返礼としてお年玉を送る。お年玉を送ったり受け取ったりするためには、アプリに銀行カード情報を紐づける必要があり、WeChatのモバイル決済「WeChat Pay(微信支付)」の利用者増加にも大きく。

WeChatのお年玉機能は毎年マイナーアップデートされ、今年は企業用「お年玉袋」が登場した。企業として申請すれば、会社のアピールや従業員・消費者への感謝の言葉を入れたカスタムお年玉袋を制作でき、従業員はその袋を使って友人などにお年玉を送れる。

2019年に微信でやり取りされたお年玉の額などは明らかになっていないが、テンセントによると大晦日にあたる2月4日午後8時台がやり取りのピークで、1990年代のユーザーが最も多く機能を利用したという。

アリペイはユーザーに5億元のお年玉

一方、WeChatを運営するテンセント(騰訊)のライバル、アリババ系モバイル決済アリペイ(支付宝)の「5福」を集めるお年玉キャンペーンは、5年目を迎えた。

2019年は「愛国福」「和諧福」などと書かれた5つのカードを集めたユーザーに総額5億元(約80億円)のお年玉を送るキャンペーンを実施。短期間で全額を配り切った。

カードは、身の回りにある「福」の文字をアリペイアプリでスキャン撮影すると1枚受け取ることができるほか、友人から分けてもらうことも可能。5枚そろった時点でお年玉がもらえ、その時に金額も分かる。

ユーザー獲得の実弾にも

toutiao

バイトダンスはニュースアプリ今日頭条で10億元のお年玉をプレゼント(左)。アプリでは新サービスの多閃のお年玉もアピールする(中)。TikTokでも、音符を集めてお年玉をゲットするキャンペーンを実施した(右)。

テンセントとアリババのお年玉は完全に定着し、マンネリ化すらしているが、両サービスのおかげで、キャッシュレスお年玉はユーザー獲得の手段として浸透。多くのサービスが、お年玉キャンペーンを展開するようになった。

TikTok(抖音)の大成功で、改めて注目が高まっているショートムービーアプリでは、テンセント運営の微視が総額5億元のお年玉キャンペーンを2月2日から19日まで実施中だ。具体的な内容は、

  1. アプリで動画を見た人から、毎日10人に1万元(約16万円)をプレゼント。
  2. 動画を投稿した人から抽選で10万ユーザーに、最大88元(約1400円)のお年玉。
  3. 2月4日から7日は、投稿した動画に10いいねがついたら、5元(約80円)のお年玉。先着10万ユーザー限定。

などとなっている。

微視は2013年にサービスを開始。後発のTikTokのヒットを受け、てこ入れを進めている。実は2018年の春節でもお年玉をばらまき、数百万ユーザーを獲得した。

TikTok運営会社のバイトダンス(字節跳動)も、もちろんお年玉大戦のプレイヤーに名を連ねている。主事業であるニュースアプリ今日頭条では総額10億元のお年玉を用意。さらに、発表したばかりの中国版Snapchatと呼ばれる友達限定の動画アプリ「多閃」でもキャンペーンを実施している。

「来年はやらない」との声も

alipay

李さんがアリペイで獲得したお年玉は2.28元(左)。同僚たちはチャットで獲得金額を報告し合い、「もうやらない」との声も出ている。

お年玉大戦の最近の傾向は、オンラインとオフラインのイベントを連動させ、WinWinを得ること。アリババが提唱するオンライン・オフラインを融合させた「新小売」のコンセプトがお年玉キャンペーンにも反映されている。また、1社が運営する複数のアプリでキャンペーンを連動するケースも多い。

お年玉を受け取る条件としては、アリペイのようにカードを集める手法が主流となっているが、北京の会社員、李華傑さん(22)は「以前に比べたら夢がなくなったし、いい加減飽きてきた」と話す。

アリペイの5福を集めるキャンペーンも、条件クリアの難易度が年々低くなり、今年は自分で紙に「福」と書いてスキャンしてもカードを獲得できる。今回は約3億3000万人が5億元を分け合う結果となり、李さんが受け取ったお年玉は2.28元(約35円)。友人の中では多い方だったという。

「僕の周りでは、来年はやらないという人も多いですね」(李さん)

(文・浦上早苗)

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