リッチモンドホテルからスーパーホテルまで。ビジネスマンに支持されるホテルの秘密

ホテルの廊下を歩くビジネスパーソン

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訪日旅行者の急増や好景気を背景に利用客数が伸び、新規オープンが相次ぐホテル業界。J.D.パワーは、2018年ホテル宿泊客満足度調査の結果を発表した。調査結果の中から、ビジネスマンが出張などで利用する機会の多い【1泊9000円〜1万5000円未満部門】と【1泊9000円未満】の宿泊特化型ホテルを取り上げる。ホテル乱立の中、どのチェーンが最も宿泊客に支持されているのか。

J.D.パワー ジャパン代表取締役会長の鈴木郁氏と同社サービス&エマージングインダストリー部門マネージャーの日高志津枝氏にこの調査結果を説明してもらうともに、ホテル評論家の瀧澤信秋氏にビジネスホテルの最新トレンドや高ランキングの理由を読み解いてもらった。

調査は2018年8月に実施。顧客満足度の測定にあたっては、「予約」「チェックイン/チェックアウト」「客室」「料飲(F&B)」「ホテルサービス」「ホテル施設」「料金」の7ファクター(要素)を設定。各ファクターにおける複数の詳細項目に関する宿泊客の評価をもとに、総合満足度スコアを算出(1000ポイント満点)している。

J.D.パワー2018年ホテル宿泊客満足度調査の結果

出典:J.D.パワー2018年ホテル宿泊客満足度調査

J.D.パワーの「2018年ホテル宿泊客満足度調査」の詳細はこちら

【1泊9000円〜1万5000円未満部門】1位は常連リッチモンドホテル。曖昧になる「シティホテル」との境界線

J.D.パワー2018年ホテル宿泊客満足度調査の結果

出典:J.D.パワー2018年ホテル宿泊客満足度調査

【1泊9000円〜1万5000円未満部門】のホテルの宿泊客満足度ランキングで第1位に輝いたのは、全国に39の直営ホテルを展開するリッチモンドホテル(2019年2月現在)。2位にベッセルホテル/ベッセルイン、3位にJR九州ホテルがランクインした。この価格帯のホテルは、駅近といった利便性と滞在中の快適性、そして宿泊料の総合的なバランスのよさが特徴だ。宿泊客満足度の調査は2018年で13回目となるが、リッチモンドホテルはそのうち11回も1位を受賞している。

「リッチモンドホテルは、ほとんどのファクターで高ポイントをマーク。宿泊客の満足度を高めるにはどうすればいいかをよく研究していると感じます」(日高氏)

一般的にフロント応対に関しては高価格帯のホテルほど評価が高く、宿泊価格が下がるにしたがって満足度は下がってくる。ところが、鈴木氏によると「リッチモンドホテルのフロント応対への評価は高価格帯のラグジュリーホテルに近い水準に達している部分もある」そうで、明らかに意識してレベルアップを図っていることがうかがえる。

JR九州ホテルブラッサム新宿の客室

JR九州ホテルブラッサム新宿の客室にも見られるように、近年「デュベスタイル」を採用するビジネスホテルが増えている。

画像提供:JR九州ホテルズ株式会社

仕事柄、年間200泊は国内のホテルに泊まるという瀧澤信秋氏は、ビジネスホテルの最近の傾向をこう話す。

「ビジネスホテルは宿泊特化型であることを特徴としつつ、ここ数年、シティホテル化が進んでいます。私は進化系ビジネスホテルと呼んでいますが、特徴は『お持ち帰り(またはウォッシャブル)スリッパ』『高機能な空気清浄機』『デュベスタイルのベッドメイク』の3点がそろっていることです。リッチモンドホテルはその典型ですね」

なかでも宿泊客の満足度を高める上で、最も重要なのがベッドメイクだという。羽毛掛け布団をカバーですっぽり覆う「デュベスタイル」。足元の部分にはベッドスローという帯状の布をかけてあるのも特徴です。ベッドメイキングのたびに、このカバーを交換するので清潔感が高い。リッチモンドホテルは、「全ホテルでこのデュベスタイルを取り入れている」と瀧澤氏は言う。

リッチモンドホテル姫路の外観。

リッチモンドホテル姫路の外観。

画像提供:アールエヌティーホテルズ株式会社

「インターネットでビジネスホテルの画像を見ても、スリッパや空気清浄機のことまで把握できないかもしれませんが、ベッドメイクは分かりやすい。これまでの経験上、デュベスタイルを採用しているホテルは、ほかの2つの条件もそろっていることが多いです。そういう視点で、予約前にホテルをチェックすると気に入ったホテルに出合えるかもしれませんね」(瀧澤氏)

リッチモンドホテル姫路の朝食ビュッフェ

リッチモンドホテル姫路の朝食ビュッフェ。

画像提供:アールエヌティーホテルズ株式会社

また、これは宿泊特化型ホテル全般にいえることだが、ここ数年、競合ホテルとの差別化に拍車がかかっている。全室高速インターネット接続サービスはもとより、大浴場やレディースルーム(レディースフロア)など、各ホテルが知恵を絞っている。とくに最近では、「朝食」に力を入れているところが増加。

リッチモンドホテルはもちろん、2位のベッセルホテル/ベッセルインはメニューの種類の多さ、3位のJR九州ホテルは地産地消を意識したメニューなど工夫が見られる。

「東京に2014年8月に開業したJR九州ホテルブラッサム新宿は、朝食だけでなく随所に『九州の世界』が表現されています。例えばロビーや客室に九州の伝統工芸品を意識したデザインが施されていたり、朝食メニューにも九州産の食材を取り入れたり。こうした地方発のホテルが全国展開するケースは、最近目立ってきています」(瀧澤氏)

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【1泊9000円未満部門】快眠、無料朝食、低価格……「一点突破」で他と差別化

J.D.パワー ジャパンのサービス&エマージングインダストリー部門マネージャー、日高志津枝氏。

J.D.パワー ジャパンのサービス&エマージングインダストリー部門マネージャー、日高志津枝氏。

【1泊9000円未満部門】のホテルの宿泊客満足度ランキングでは、スーパーホテルが5年連続の1位。続いてアークホテル、ホテル法華クラブという結果になった。この価格帯のホテルは無駄をそぎ落とし、必要なサービスを良質で提供することで宿泊客満足度のアップを図っているのが特徴だ。

J.D.パワー2018年ホテル宿泊客満足度調査

出典:J.D.パワー2018年ホテル宿泊客満足度調査

例えば一部のアメニティは部屋に置かず、宿泊客は必要なものをフロントで受け取ることによってコストを抑える一方、ベッドの寝心地や空調など部屋の快適性向上には力を入れるなどして、相対的なコストパフォーマンスのよさを引き出そうとしている。

スーパーホテルLohas東京駅八重洲中央口の高濃度人工炭酸泉

スーパーホテルLohas東京駅八重洲中央口の高濃度人工炭酸泉

画像提供:株式会社スーパーホテル

スーパーホテルLohas武蔵小杉駅前の客室

スーパーホテルLohas武蔵小杉駅前の客室。

画像提供:株式会社スーパーホテル

とりわけ「選べる枕」の先駆けであるスーパーホテルは、「快眠に気づかった客室づくりをしていて、心地良い睡眠を促すためにフロント、廊下、客室で照明の照度を使い分けています。有機野菜を使った健康志向の無料朝食も人気。もともと、この価格帯は機能を削ぎ落とし、ローコストも意識するホテル。すべてにコストをかけることはできないため、快眠、無料朝食など、一点突破で他と特色を出すことで差別化を図っています」(瀧澤氏)。

スーパーホテルは、「チェックイン/チェックアウト」にも特徴がある。ルームキーに暗証番号ロックを採用しているため、宿泊客はキーを返却せずにフロントを素通りしてチェックアウトできる。

これもローコスト経営のカギの1つといえそうだが、フロント係は宿泊客の背中に向けて、必ず「いってらっしゃいませ」と声を掛け、逆に最後まで行き届いたサービスを提供しているという印象を残す効果があるようだ。

「スーパーホテルは極めて高いレベルでオペレーションされていて、頭一つ抜きんでている状態」(鈴木氏)だが、2位以下も後塵を拝しているわけではない。

ホテル法華クラブ那覇新都心

ホテル法華クラブ那覇新都心のレストラン(朝食)。

画像提供:株式会社法華俱楽部

ホテル法華クラブでは、地域の郷土料理を朝食バイキングで提供。地元食材を活かした美味しい朝食の満足度は思いのほか高く、ここ数年で相対的に評価を上げて注目されている。ルートイン系のアークホテルも立地がよく、公式サイト予約特典で朝食が無料であることなどから、顧客満足度が向上している。

鈴木氏はビジネスホテルで宿泊客の満足度評価につながっている点を3つ挙げる。

アークホテル岡山のフロントロビー

アークホテル岡山のフロントロビー。

画像提供:ルートインジャパン株式会社

「第一に宿泊客と接するスタッフの質。スタッフに笑顔があったかどうかを、お客様は見ています。第二に設備面。コストも重視されるので、大掛かりなものは必要ありませんが、温泉や大浴場は効果的。第三が、これは宿泊特化型なので朝食に限定されますが、フード&ビバレッジの充実。突き詰めれば、人間の欲求に深く関わるところを訴求することが大事だといえるでしょう」

J.D.パワー ジャパン代表取締役会長の鈴木郁氏。

J.D.パワー ジャパン代表取締役会長の鈴木郁氏。

ホテル評論家が語る、選ばれるための「3つのポイント」

宿泊特化型のホテルが林立するなか、今後の生き残りや人気維持には、次の3つの戦略が重要になると瀧澤氏は見ている。

ホテル評論家の瀧澤信秋氏。

ホテル評論家の瀧澤信秋氏。

1.コンテンツづくり

「例えば『変なホテル』は、世界初のロボットが働くホテルとして話題になりました。サービスが成熟した今、注目されるコンテンツや他にない特色を出せるかがこれからはより大切になります」

2.インバウンド受け入れのコントロール

「ホテルは多文化が行き交う場所ですが、食の嗜好や生活習慣が異なる外国人客のふるまいを苦手にする日本人宿泊客もいます。そうしたことから、すでにインバウンドの受け入れをコントロールしているホテルも。今後もインバウンド需要は高まると思いますが、長い目で見ると日本人客を大切にすることがやはり大事だと思います」

3.フラッグシップモデルの効用

「全国チェーンのホテルブランドでも、ひときわ目立つフラッグシップモデルがあるとブランドイメージが上がります。例えば、東京の『リッチモンドホテルプレミア浅草』やベッセルホテルの『カンパーナ』ブランドなど。『スーパーホテルLohas』や『ルートイングランド』のように、ハイクラスブランドを別に展開する戦略も有効でしょう」

ベッセルホテルカンパーナ沖縄のプール

ベッセルホテルカンパーナ沖縄はリゾートを意識。

画像提供:株式会社ベッセルホテル開発

宿泊客の満足度を高めるためには、ホテルの基本機能である「客室」「ホテル施設」で高い品質を提供していくことは必須だが、それにとどまらず、ホテルブランドとして特色のあるサービスや滞在体験を提供することが、宿泊客満足度を上げ、リピート顧客獲得につながる鍵といえるだろう。


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